会議
「俺が入学する前の最後の会議を始める」
いつもの会議室には、工房の親方のハズキ、治水工事担当のジオン、政務担当のメイド長のユリスとハル、そして従士長のマクベスを加えた5人がそれぞれ席に着いていた。
「初めに、従士長のマクベスから報告と今後の方針を述べて貰おうと思う」
俺がそう言うとマクベスは、椅子からスッと立ち上がり、騎士らしく背筋をピンと張った堂々とした様子で立ち上がる。
そのマクベスの態度にこの場の雰囲気が引き締まっ様に感じ、全員が心なしか普段より背筋を伸ばし、マクベスの方を見て耳を傾ける。
マクベスは、耳を傾ける皆を見てから一呼吸してから口を開いた。
「それでは、報告させて頂きます。現在、子爵家の従士を隊長とし、公務員をドレスコード子爵兵として軍を編成し、通常の公務員業に加えて、日々鍛錬を重ねた所、遂に基礎的な軍隊行動、武器の扱い方を身につける事が出来ました。これからは、今までの訓練に加え、集団戦闘や、賊討伐といった実戦も行っていきたいと思います!」
短期間でここまでしてくれたのはありがたいな。
最近、掴んだ情報では、徐々に王家の派閥が出来始めてきているようだ。3家も何処かの派閥に加わるか悩んでいることだろう。
派閥争いに、3家の目が向いて、ドレスコード子爵家に向いていない今の内に軍備を整えておこう。
「良くやってくれた。これからは修得するのに時間がかかるロングボウの訓練も頼む。後、私塾の生徒も次期従士となるんだ。軍事に適性のある生徒も今の内から実戦を経験させてやってくれ」
「かしこまりました!」
マクベスは、敬礼をした後、綺麗にサッと椅子へ座った。
軍の方はマクベスが上手くやってくれそうだ。っていうかドレスコード子爵家って家臣が俺より有能な奴ばっかで任せとけばなんとかなりそうだけど……
いやいや!俺にも出来る事はあるはずだ!
「次はハズキ頼む」
さっきのマクベスに触発されたのかハズキは、いつもの様なマイペース感を出さずにさっと立ち上がって、口を開いた。
「あぁ。今の所、領内でのネジを使った建築物とネジを欲しがる貴族の需要の拡大に対して、なんとか、生産が追いつくようになったよ。これからは、余裕が出来そうだから何らかの商品でも開発しようと思ってるよ」
「そうか。余裕が出来たら、子爵兵や従士の為に高品質の装備を頼む。だが、余り大々的に作ってしまって、強い装備を揃えていると知られたくない。だから今の内からちょっとずつ素材を買っていき、少しずつ気づかれないように作っていってくれ」
「ああ。わかったよ」
「あと、出来たらで良いんだけど、ロングボウとパイクを作れたら作って欲しい。設計の方はジオンにして貰った紙があるから、こいつを使って欲しい」
兵士といっても、公務員兼、子爵兵だ。騎士となるまで育成する事は難しいだろう。その為に、長いパイクで優位を確保したり、比較的扱い易いクロスボウを持たせたりしたい。
上手く行くかは分からないが、なろうチートの定番は抑えておこう。
「へえ、面白そうじゃないか。帰ったら早速、ナミと一緒に考えてみるよ」
「ありがとう!」
俺が、礼を言うとハズキは大きな胸をポヨンと叩いてから座った。
それを見て、ユリスが小さく同じ動きをして固い音を立ててるが何も言わないでおこう。
「じゃあ、続いてジオン頼む」
「はい。僕は、基本的に、治水工事もほとんど終了して、現在は人口が増えて行くのに対応した都市の拡張工事をしており、これからも拡張をしています」
「あぁ。これからは、防御面を意識して堅固にして行ってくれ。人も金もガンガン使っちゃって良いから、堅固で素早く行ってくれ」
「お任せ下さい!」
ジオンが声を弾ませて言ってから座り、ニヤケながら腕を組んで斜め上を向いた。
ジオンがどんな設計にしようかと妄想してワクワクしている。好きだなぁ本当に。
「最後にハルとユリス頼む」
「じゃあ俺が行くとしますよ。とりあえず、文官の不足の問題は、引き抜いた他国の文官がまぁ優秀で、むしろ仕事が余裕なくらいだ。それに、これから、私塾の生徒も雇えるようになって来るから文官は、まぁ安心だな」
「そうか。余裕そうなら、大切な役目を任せたいんだがいいか?」
「面倒くさそうなんで辞めても良いですかね?」
ハルの今までの明るかった顔が一気にげんなりとした暗い顔つきに変わる。
「駄目だ。これは、一番重要になる。諜報機関の設立と、他家の諜報員を炙り出して、時が来ればこの領内から叩きだしてくれ」
「確かに重要ですね……しかし、相当なコストと人材がかかりますよ」
「人材は、あいつに借りを作るのは不本意だが、ヤクトに手紙を出しておく事にする。金ならいくら使っても構わない。ハズキに作って貰った紡績機が完成したし、綿花が思った以上に上手くいったから、それでまた収入はできると思う。そうでなくても、人口の増加による税収も莫大になって来ているし使ってくれ」
お金をどれだけ稼いでも、こういう風に内政にほとんど費やしてるから、食事がちょっと豪華になるくらいの贅沢しか出来ないんだよなぁ……
まあ、必要な事だし仕方ないか。
「最後に、俺が学園に行っている間は、俺の権限をユリスに与える事にするから、ユリスの指示に従ってくれ」
皆が頷いた。
うわぁ〜、あっさりしてんなぁ。まぁ、今までも実質ユリスに権限があったも同義だしなぁ。
この後、今まで話題に出た計画の詳細を詰め会議を終えた。





