方針の決定
叙任式を終え、王都から自領に帰った後、ユリスとこれから生き残るにはどうしなければいけないか話し合った。
結論として、当たり前ではあるが、戦う力をつけなければいけないということになった。
戦わずに済むように行動するつもりだが、戦乱の世になれば弱いとこから順に狙われるというセオリーで言えば、まっさきに狙われるだろう。
もし、戦争になったときには、いつ攻められても大丈夫なよう各貴族のチート魔法に抗える統率された常備軍がほしいが、常備軍を維持するには莫大な金額が必要である。
その金額を稼ぐには普通の産業をしているだけでは到底稼げない。この世界は未だ中世ヨーロッパの様な文明であるので、俺の少ない現代知識を絞りだして新たな産業を興せれば稼げるだろうが、産業を興すにも金が無いのだ。
よって取り敢えず初期投資が少なく済む商売を進めていくことに決めたのであった。
そこで、早速俺は我が家の御用商会であるサザビー商会を訪ねた。
「サザビーを呼んでもらえないか? 少し話がある」
店に入ってすぐに近くにいた店員に声をかけると店員は、かしこまりましたと言い、ぺこりと頭を下げ、店の奥へ消えていった。
「これはこれはクリス様ではありませんか? 本日はどういった御用件でいらっしゃったのですかな?」
店員が消えていったところから、色白で青髭の目立つ小柄な男が出て来た。
「やあ、サザビーさん久しぶりですね。今日は商談に来ましてね」
「あのクリス様が商談とは立派になられましたね。わたくし感激致しました! ささ、奥へどうぞ」
乾ききっている目元をぬぐうふりをしたサザビーは、奥の扉を開け入るようにというジェスチャーをした。
俺はその誘導に従い扉から入り、中にいた先ほどの店員に奥の部屋まで案内される。部屋にたどり着くと、少しだけお待ちくださいと言われ、サザビーは部屋から出て行ってしまった。
部屋の中には、大きなソファーが対峙する形で備えてあり、辺りには高級そうなオブジェが飾ってあった。
子供の時はこの部屋に入れてもらったことが無かったし、今回は俺を子供だからと侮らず、取り引き相手として認めてるってことだよなあ。気を引き締めていこう。
「いやぁお待たせしてすいませんねえ」
帰って来たサザビーがヘラヘラとして詫びの言葉を告げて来た。
悪びれてるような口調じゃねえじゃねえか!
多少イラっとしたが、何の連絡も無しに突然来たのは自分であるので、出かかっていた言葉は呑み込んだ。
「早速ですがクリス様、商談とは?」
「僕が持ち込んだ商品を買っていただけないかと幾つか持ち込んだのですよ」
みてくださいと鞄から、直線が縦と横に複数引かれた板と、表と裏が白と黒に分かれた石をだす。
「これはなんですか?」
「リバーシです。これは、こうやって遊びます」
怪訝そうな顔を示すサザビーに、俺は遊び方を説明した。
「なるほどこれは面白い。娯楽に飢えた庶民や貴族に対して広く売れるでしょう。」
おお! さすが内政モノの定番のリバーシ。なかなか好印象だ。
「それでは、買い取っていただけるのですね?」
「いや、買い取るには少し条件があります」
「条件?」
「はい。これは、誰にでも作れる商品です。そのため、専売にできませんので利益が小さくなります。ブランド化してドレスコード家の印をお借りするという方法も考えましたが、それも恐らく偽造される。または、その印から偽造印を作りだし悪用される恐れがあります」
「ふむ」
「そのため、クリス様にこの白と黒の石を同じ大きさで大量に作って欲しいのです。そうすると、絶対に偽造ができませんので、ブランド化することができ、さらに原価がありませんので安定した利益を上げることができます。」
なるほど。魔法を使って作るのは面倒くさいけど仕方ないか。かわりに条件を出してやろう。
「その条件飲みましょう。しかし、それでは僕の負担が大きすぎる。そのため売り上げの5割は僕が貰います」
「いやいや5割は取りすぎですよクリス様。こっちは人件費やらリバーシのルールを広めたり貴族に売り込みに行かないといけないんですから。2割でお願いしますよ」
「そうか2割か。じゃあ私は他の商会に持っていくことにしますのでこれにて」
こんなベタベタなセリフで釣れるかな?と思ったが、心配をよそにサザビーは慌てた様子を見せてくれた。
「わかりました。断腸の思いですが4割にしましょう。これ以上は無理です」
「仕方ない4割で手を打ちましょう」
と言うとサザビーの顔に安堵の表情が見えたので、もう少しいけたのかもしれないが、4割も貰えれば充分だろう。
「それでは売れましたら報告をしに参りますのでお楽しみにしてお待ちくださいね。今日は良い商談でした」
「あ、ちょっと待ってください」
立ち上がるサザビーを俺は引き止め、自作の麻雀とトランプを鞄から取りだすとサザビーは青い顔をしてこっちを見た。