午後の試験
アリスと離れてから、食堂の隅で立って待っていると、教官らしき男が入って来た。
教官が入ってくると自然と鎮まり、それから教官が食堂の1番前の座席の前まで来て受験生に向かって口を開いた。
「受験生の諸君、剣術試験のグループを発表した為、ロビーにて受験票を持ってきて、グループを確認し、順次試験会場に向かってくれ」
それを聞くやいなや、出口に近い受験生から、ワラワラとロビーへ向かい、食堂を後にした。
俺は、混雑するのを嫌い、ある程度人が出て行ってから沢山の足跡を踏みつつロビーへ向かった。
ロビーに着くと、ロビーの壁にある掲示板に大きな紙が何箇所にも貼り付けてあった。
紙には、受験番号がグループ別にまとめられており、グループ毎に試験会場が記されていた。
試験会場は、俺はグラウンドで行うグループか。グラウンドで行うなら、見たこと無いから何とも言えないけど、目立ちそうで嫌だな……
早速、地図とグラウンドへ向かう受験生に従いグラウンドへ向かった。
グラウンドへとたどり着くとグループ名が記された立て札とそれぞれ立て札を持つ試験官が居た。
試験官の前には、ちらほらと受験生が整列しており、それを見て受験生は各々のグループの所へ行き、前に倣って整列していった。
グループは男女で分かれているようで、男だけのグループと女だけのグループが見られた。
まぁ、流石に男女は分けざるを得ないだろうな。
さて、俺のグループはと……
俺は、看板の中から自分のグループ名を探す為に目を凝らして看板を端から順に見て行くと自分のグループ名をすぐに見つけられた。しかし、試験官の後ろの受験生を見た瞬間とてつもなく悪い予感がした。
「あの、試験官さん?」
「どうしたのかい?」
俺は、俺のグループの試験官に声をかけると、試験官は不安そうな俺を労わるように尋ねた。
「あの、僕の受験番号的には、このグループなんですけど……」
「えっ!?本当かい!?受験票の方を確認させてもらってもいいかな?」
俺は、スッと受験票を差し出し、それを受け取った試験官は顔を顰める。
「おかしいな。この、グループであってるな。ミスかな……」
俺が何故こう困っているかというと
「まあ、良いではないですか。試験官殿。それに、ドレスコード子爵も対戦相手が女性なら負けるはずあるまいしな!」
見たことのある、黒髪の美人な女性が試験官の後ろに並んでいた女性陣の中から現れた。
こういう事である。
また、試験の妨害か……
何でこう回りくどい真似をして俺を陥れに来るんだよ。
まぁ、ストレートに不正をされたらなす術がないから助かってる部分もあるけど、不正してくんなよ……
こんな事してくる奴等なんかに負けてたまるか!
「これは、クレア=アルカーラ殿。私の利点の有る無しはともかく、貴方方の利点はありませんよね?ですから私は何らかの賢明な対処を受ける事に致します」
俺がそう言うと、めちゃくちゃ嫌そうな顔をしていた残りの女の子2人がホッとしていた。
そら、大切な入学試験で不当に男と当たって負けて万が一落ちたら悔やみきれないだろうし。単純に考えて、男と戦うのに抵抗あるだろうしなぁ。
「いやいや、私達としても幼くして貴族の当主となられたドレスコード子爵と手合わせができる事は幸運であるからな!」
うわっ、女の子2人がめっちゃ嫌な顔してる。
女の子がアイサインで何とかしろよって送ってくる。いや、そんな事言われても……
そうして、俺が視線を女の子に向けると、それに気づいたクレアが女の子の方へ向いて、底冷えするような声でいった。
「うん?君たちは彼と手合わせしたく無いのかな?」
うわっ。女の子達が、ブッンブン首を横に振ってる。
めちゃくちゃ怖いんだろうな……
かく言う俺も、膝が勝手にビブラートを奏でた。
「ほら、2人もしたいと言っているようだ。教官殿、認めて頂けませんか?」
「は、はい……」
教官もコクコク頷いた。
「ちよっ、教官!?」
「何か文句でもあるのか?確か、対処を受ける事にするんだったよな?」
「うぐぐぐ……」
言いこめられてしまった。
これで、この試験は相当面倒なものになった。
これで、もし、俺が女の子に手を上げ勝って入学すれば、女の子に勝って入学したクソ野郎認定を受けてしまう。イジメ不可避にちがいない。
負ければ、入学できない可能性もあるし、入学できたとしても女の子に負ける弱虫認定を受ける。これまた、イジメ不可避だろう。
だが俺は、焦り一つ感じられなかった。
この試験には、全員と引き分けになれば合格という規定があるからだ。
正直、学園に入学する事に決めてから、ユリスに伊達に鍛えられたわけではない。もちろん、試験科目の剣術も例外ではない。たかだか、女の子3人と引き分けにもつれ込むのなんて朝飯前である。
「試験を開始するので、準備してください」
教官の掛け声が掛かると、皆が更衣室で、各々の訓練服に着替え試験用の鎧と模擬剣を装備し、グループ毎にグラウンドにある、地面に線が引かれただけの粗末なリングに整列した。
「それでは、第一試合は受験番号8番と52番の試合を行う。両者リングに上がれ」
そう言われ、リングに上がったのは、俺とクレアであった。
「初っ端からクレア=アルカーラ殿とあたるなんて……」
「ふふっ、体力のあるうちにあたるなんてな。全力で行かせてもらうよ」
いや、まじで勘弁してくれ……
手加減が難しいだろ……
それから、両者が佇み無音の時間が流れた後、教官が砂時計をひっくり返し大声で叫んだ。
「第一試合、はじめ!!」





