入学試験 昼休み2
「取り敢えず、落ち着いて下さい!周りに注目されてますから」
俺がそう言うと、アリスは周囲をぐるりと見回し、怒りで赤くしていた顔を別の理由で赤くした。
取り敢えず、この姫様に話を聞いて貰わなければ。
俺は、周りに声が聞こえないように、アリスにだけ聞こえる位の音量で言った。
「取り敢えず、座ってもらっても良いですか?」
「わかったわ」
アリスも、俺の声量に合わせて応えた後、ぶすっとして座った。
「話しづらいので楽な体勢になって頂いても良いですか?」
「仕方ないわね」
そう言うとアリスは、前のめりになるくらい張りつめていた背を椅子に預けた。
「周りに聞かれたく無いのでこの位の声で話させてもらっていいですか?」
「そうね。私も恥ずかしいし……」
「それでは、俺の話を聞いて貰ってもいいですかね?」
「……聞いてあげるわ」
よし!フットインザドアが上手くいった。これで、怒ってたアリスに話を聞かせることが出来る。これで、第一関門は突破だな。
「まず第一に、僕ことドレスコード子爵と第二王女アメリシアは、初対面である」
「なっ!?この前に唐揚げ屋のところで会ったじゃないの!」
俺は飛びかかろうとしてくるアリスにアイコンタクトで周りの貴族の方を示し、制した。
「まぁ、聞いてください。ただのクリスとアリスは知り合いだよね?」
「そういうことね。出会ってない、ドレスコード子爵と第二王女アメリシアが面識があるって事がおかしいって訳ね」
「そういう事です。つまり、学園に入学しようとしてるのは?」
「ドレスコード子爵とアメリシア……」
「という事です。ので私は、アメリシア王女が、王女としての品格を損なう前に、落ち着かせて差し上げました。それに、クリスとアリスの関係を知らない貴族が、2人が仲良くしてるのを他の貴族が見るとどう思います?」
「裏で何か繋がってるんじゃないかとか思うかも……ごめん、久しぶりに会って舞い上がっちゃってこんな簡単なこともわかんなかった……」
まぁ、裏で繋がってるっちゃ繋がってるんだけどね。
てか、言い過ぎたか。そんなにしゅんとされたら罪悪感が…
それに王女をしゅんとさせるとか、滅茶苦茶外聞悪いじゃねーか。なんとかしないと!
「い、いえ、俺もアリスと会えたのは嬉しかったよ?それに、一応、学園内での身分の平等を謳ってる学園でドレスコード子爵とアメリシア王女として出会えばいい話じゃないかな?」
むしろ、情が湧くから、会いたくない、仲良くなりたくないという内心と裏腹に元気づけるように言った。
「本当!私もとっても嬉しかっ……くは無いけど、嬉しかったんなら良かったわ!仕方ないから学園に入学したら仲良くしてあげるわ!」
アリスは、急にパッと顔を明るくして言った。
嬉しかっ、まで言っちゃってるし……
アリスの内心が透けて見えて、これまた罪悪感が……
「まぁ、それはともかくこの状況を打破するのに頼みたいことがあるんだ」
「そうね。さっきは、私の窮地を救って貰ったから出来る事はするわ!」
アリスが小声ながら張り切って言った。
考える時間を与えずに要求を確実に飲んでもらう為に張り切ってるところ悪いが、大きな要求を叩きつけて一瞬しょぼんとして貰おうか。
「それでは、僕がやると説得力が無くなるので、王女様が1人1人の誤解を解いてまわっていただけませんか?」
「うっ、流石にそれはちょっと……」
アリスが案の定、ショボンとなった。
まあ、無茶振りだからなぁ。
次に、俺は本命を要求した。
「じゃあ、僕と一緒に一芝居うちましょう。話してるうちに人間違いだったという芝居をしましょう」
「それならできそうね!」
「じゃあ、早速行きますよ。合わせてくださいね」
「えっ、そんな急に!?」
あたふたしているアリスを尻目に、俺は突然立ち上がり、深々と頭を下げて言った。
「申し訳ございません。アメリシア様。私は、貴方のお知り合いの者ではございません。一瞬、私のことかと誤解してしまい、ここまでお話しさせていただきましたが、先程のお話で私ではないと確信しました。申し訳ございませんでした」
「そ、そうですか。頭をあげて下さい。こちらにも早とちりをした非もありますので今回の件、不問とさせていただきます」
アリスの癖になかなか、アドリブが上手いじゃないか。周りの貴族も王女の勘違いだったと言うことが聞こえたようで、安心した顔や俺に対する同情をしているような反応が見られた。
よし、これで誤解だったと広まる事だろう。最後にこの台詞を言って俺の目的は完了だ。
「勘違いした自分が恥ずかしく顔も合わせられませんので失礼させていただきます」
「えっ!?」
あっけにとられた顔のアリスを尻目に俺はその場を立ち去った。
これで、つつがなくアリスから離れることが出来る。
今度からアリスがもし、人の目があるところで近づいてきても恥ずかしく顔も合わせられませんと言って逃げることが出来る。
俺は、唯では転ばない男なのだよ!ふははは!
振り向くと、アリスは、去りゆく俺の方を向いて、また離れてしまったもどかしさからか、ぐぎぎと真っ赤な顔で睨んでいた。





