入学試験 昼休み
「ドレスコード子爵よ、午後からは、戦闘実技の試験だな!これ以上引き留めるのも悪いので帰るとするぞ!それではな!」
アルフレッドはそう吐き捨てると、大きく笑いながら去って行った。
午後の試験まで邪魔してくるんじゃないだろうな……
俺は、とてつもなく不安を感じたが、対策する事も出来ないので、只々祈っておいた。
入学試験は二部構成で、午前は筆記で午後からは剣術の試験になる。
剣術の試験は、抽選で選ばれた受験生同士で制限時間10分の模擬試合を行う。制限時間を越えると引き分けとなる。それを3回繰り返し、1回でも勝てれば合格となる。勝てなくとも、引き分けが2回続くか試験官が合格と認めれば合格となる。
まあ、剣術の試験は基本的に甘く、子供の頃から剣術を嗜んで来た貴族の子弟にとっては試験官に認められる事は容易い事である。
ささっと一勝して後は流すか。
有能アピールをするには、全勝するのが一番だけど周りの実力もわからない状態で全勝しても大したアピールにならないし、勝って貴族のプライドを傷つけるのも面倒だし。
そんなことを考えているうちに、アルフレッドが去って見えなくなると、周りにいた受験生がコソコソと俺のほうを見て話し始めた。
まぁ、受験生が在校生と喋ってるのはまあ目立つか。面倒だし、取り敢えずこの場を去るとするか。
俺は、周りの好奇の視線を振り切り、試験会場を後にして、受験生の控え室である食堂へと向かった。
控え室へ向かう受験生の波に乗って、廊下を渡り、無事食堂に到着すると、たくさんの長机が並ぶ中、端っこの4人がけのテーブルを占拠した。
長机の方を見ると、何人かの受験生が集まって、さっきのテストの答え合わせを和気あいあいとしているグループがいくつも見られた。
へ、へぇ〜。みんな、知り合いがいるんだ〜。
そっ、そっか〜。べ、別に羨ましく無いけど、そっ、そっか〜みんな知り合いがいるんだ〜
やべ、あのグループこっち見てないか!?休み時間に喋る相手もいないんだとか話題にしてないか!?
くっそ、1人の何が悪いんだよぉ。
俺は、何処か居辛さを感じ、端っこのテーブルで出来るだけ人の目に入らないよううつ伏せになって小さくなった。
寂しい。早く帰りたい……
こんな、ネガティヴな考えをずっとしていると、ざわめきが大きくなって来ているのを感じた。
段々、受験生が食堂に集まりつつあるのかな?
俺は気になり、ふと、目線を上げると案の定、食堂は、受験生で溢れかえっており、その受験生の中に綺麗な桃色の髪の少女を見つけると、バッと顔を伏せた。
ミストがいる!
ただでさえ会いたく無いのに、仮にも貴族なのに社交性すら持ち得ないんだねぇ、とか思われるかもしれない!
頼む!気づくな!気づくな!
俺は、伏せたまま願いを込めた。
そう伏せていると、より大きなざわめきが聞こえた。
気になるけど、ミストが怖くて顔をあげられない……
ざわめきが小さくなると綺麗な声を掛けられた。
「同席させてもらっても良いですか?」
席も埋まってきて座るところもないんだろうか?まあ、いいや!これでボッチを卒業できる!俺は返事をしながら、ガバッと顔をあげた。
「はい!もちろ……」
顔を上げると目の前には、金髪に長い睫毛のパッチリとした目を丸くし、紅く美しい唇を開きポカンと口を開いた、美少女が目の前にいた。
「ク、クリス?」
「げっ、アリス……」
「やっぱり!って、げっ、てどいうことよ!?」
「い、いや」
アリスは、満面の笑みを浮かべた後、急転直下で憤慨した。
くっそうか!アリスも同い年ならこの試験に居て当然だ!声を聞いて不用意に顔をあげてしまった。
人恋しさに冷静さを欠いたか……
悔やんでも悔やみきれないな。
「い、いや。じゃあわからないわよ!どういう事なのよ!?」
「す、ストップ!取り敢えず、周りが見てるから!ね?どうどう」
「がるるる」
周りの貴族が、大きくざわめいたのは、アリスが来たからか……
それに、アリスが大きな声を出したせいで周りの貴族がこっちを見ている。
ここで、王女との仲を周りに知られることは、損でしかない。
例えば、王族と縁を持ちたい貴族からは妬みにあうし、それ以外の派閥からはアリスの仲間として敵対視されるだろう。
この状況、どうやって切り抜けるべきか……





