入学試験
「ついにこの日がやって来たか」
刻は早朝。俺は、目の前にそびえ立つ、鉄で出来た蜘蛛の巣のような大きな門を目の前にして立ち尽くした。
門に立て掛けられている板には、入学試験と書かれている。
周りには、受験生と思われる貴族の子息、子女達がちらほら見られ、皆、緊張した面持ちで門の中へ入っていく。
彼らは、この乱世が見据えられている中、有力貴族とお近づきになる為の政治の道具として送り込まれてきており、親の重圧を一身に受けているからだ。
辛そうなのは、誰の目から見ても明らかである。
無論、俺も例外ではない。寧ろ1番、入学しなければならないのは、俺なのは間違いは無い。
しかし、今せねばならぬことは試験会場に早々に入場し、万全の状態で試験を受ける事ではない。
皆が浮かぬ顔をしている中、比較的明るい顔をしているやつを探す事だ。それもできるだけ早い時間に来る奴だ。
というのも古来からこの学園の試験では、しばしば不正が行われているらしい。
不正の種類については2種類存在する。一つは不正な採点である。
これは、大貴族家の子弟に適用され、学園側も大貴族の子弟を落として仕舞うような命知らずな事は出来ないであろう。
もう一つは試験問題の流出で、上流貴族であれば金を積めば渡される事がある。
これらの不正はこの国では暗黙の了解となっており、こう回りくどいやり方になったのは、初代学園長が決めた制度に関係している。
その制度とは入試の問題と解答は公開され、自分の答案は返却される事で、返却された答案が高得点であれば、それが貴族のステータスになる為である。
その為、ここ入学試験において皆が浮かない顔をしている中、比較的明るい顔をしている奴は不正をしている奴であるのだ。
比較的明るい顔をしている奴の中でも早い時間に入学試験で準備する必要のある人間は、試験問題を入手している人間である。俺は、試験問題を入手している人間を捜しているのだ。
何故なら、この入学試験の席順は会場に着いた者順で決められるため、カンニングするのにカンニングできる相手の近くの席になる為である。
正直いって、今まで、死ぬほど勉強して来たから、普通の問題であれば、俺はつつがなく解答することができるが安全策を張っておかなくては……
そうして、受験生の表情を確認していると比較的、明るい顔をしている男を見つけた。
長机が階段状に配置された試験会場に入ると、案の定その男の隣の席に配置された。
周りの受験生は、ギリギリまで勉強道具を出して必死に勉強しているが隣の男は、筆記用具の手入れをするだけでノート以外の勉強道具を出してなく俺は隣の男が試験問題を入手していることを確信した。
よし。これで少しは安心できたかな。
その後、続々と受験生が入ってきて後ろの席に座っていき、満席になったと同時に試験官が入って来た。
試験官は、一人一人、受験票を確認すると試験問題を一人ずつ配りはじめた。
しかし、俺の受験票を確認した試験官は目を見開いてから口元をニヤリと歪め、ゴソゴソとして試験問題を配った。
……なんだ?
俺は、試験官の変わった挙動に嫌な予感がした。
その後、全員に試験問題を配り終えた試験官は、開始の合図を告げた。
合図が告げられるや否や紙のべらんと裏向けられる音が響いた。
俺も同様に試験問題を捲る。
俺は、同様に試験問題を一通り目を通した。
なんだこれ?
試験問題は、余りに簡単であった。
自分が勉強しすぎたんではないよなぁ。
過去の問題と比較しても簡単すぎている。
一瞬、多くの貴族が関わりを持つためにほとんど入学できるようにするという配慮かと考えたが、周りの受験生の顔を見る限り、険しい表情をしている者が多かった。
はぁ。ということは、俺だけ別の問題ってことか……
心当たりが無い訳ではない。
敵対すると決めた3家が俺が学園に入学して他の貴族とコネを作るのを良しとする訳ないのだ。
だが、これは僥倖だ。試験問題に細工をしてくるという事は、採点の方に細工出来なかったという事だろう。
それにしても、たちが悪いのは試験問題が、簡単な事だ。万一、カンニングでもされて問題が違うのがバレないように簡単な問題にしている。
まぁでも、こう言う細工をしなければ、カンニングを防ぐ事が出来ないって言う事がわかっただけでもラッキーか。
試験問題が違うと抗議しようにも、なぜ試験問題が違うと気づいたのですかと聞かれたら、カンニングしたからです!と答えるわけにもいかないからな。
本当に、安全策とって置いて良かったわ〜
俺は、カンニングしてサラサラっと解答を書き写し、試験終了時間前になって解答をやめた隣の男の問題用紙をすり替えた。
そこから、残り少ない時間で慌てて見直し、間違っている所を直して試験を終えた。
試験会場から出ると、低身長で太り気味の男が待ち構えていおり、偶然気づいた風で俺に近づいてきて、ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべて、口を開いた。
「やぁやぁ、ドレスコード子爵!」
「これは、アルフレッド=オラール殿」
アルフレッドが着ている制服を見ると、ここの学園の高等部の2年生のものであった。
試験の日にも、登校して制服を着ているのは、恐らく俺に見せつけるためであろう。俺が試験に落ちるのを見越して。
このタイミングで話しかけてくるとということは、こいつが試験問題に細工をしたのであろう。
本当に嫌なやつだな。
「ところで、試験の出来はどうだったのだ?」
「はい。とても簡単でしたのでスラスラと解けましたよ!」
「とても、簡単……ブハッ!いや、すまない。この前急に帰ってしまって悪かったが入学したら仲良くしようではないか!入学したら!」
アルフレッドが笑いを溢れさせる。
俺を入学させない方法は他にも沢山あるのに、こんな回りくどい真似をしたのは恐らく、こうやって笑うためだけに試験問題に細工したのだろうと合点がいった。
「いえこちらに非がありますので、何も返す事は出来ませんが許して頂けますか?」
「あぁ!許そうではないか!クフッ」
笑いが堪えきれていないアルフレッドの言葉に笑いを堪えるのであった。
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