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修羅場


ちょっと待って、ちょっと待って!どういう状況なんだよ!


もう一度、扉をほんの少し開け、無理な体勢を維持して、隙間から覗く。


さっきより、玄関に近づいて来ていた。

儀礼の終了は今か今かと気持ちが、はやって来ているのだろう。


睨み合っている3人のうち1人は、見覚えのある女性だった。


桜色の美しい髪、そして何と言っても豊かなお胸。

ピアゾン伯爵嬢のミストじゃないか。


しかし、以前と違って、ゆるやかな瞳には、どこか冷たさを感じる輝きを放っている。


また、他の2人は太り気味の短身長の男と女性にしては高めの身長で、肩くらいまでの黒髪の女性であった。


ただでさえ辛い体勢をより厳しい体勢に変え、もっとよく見てみた。


短身長の男は、金や装飾をあちこちにつけたセンスの悪い服を着ており、不機嫌そうな顔を隠しもしないでいた。


黒髪の女性は、短身長の男とは違い、派手な服を着ているが全身の調和がとれており、御洒落だと感じた。

さらに、2人を上から見下ろすようにしていて、傲慢な様子も見てとれた。


何でこんな事になっているんだ!?


「クリス様!どうなされたのですか?」


「うわあああ!?」


不意にマクベスに、後ろから声をかけられたのに驚き、扉を押しあける様に転んでしまった。


ふと、顔を上げると驚いたような顔をした男と呆れたような顔をした黒髪の女性と笑いを堪えている桜色の少女が見えた。


桜色の少女が近づいてきて口を開いた。


「随分奇抜な登場だねぇ。これも儀礼の一部なのかい?とりあえず、成人おめでとう!」


「い、いや違うんすけどねえ…ははっ。ありがとうございます」


俺は、ふらふらと立ち上がり、乾いた笑いを上げた。


「おい、ピアゾンの3女。これは、抜け駆けと考えていいか?」


黒髪の女性が近づいてきてミストに向かって馬鹿にした様に問いかけた。


近くで見ると、少しつり上がった大きな目は吸い込まれるように美しく鼻も唇もスッとした美人にみえる。


「ここは、祝いの場だから。むしろ、お祝いの言葉をかけるのを遅れた自分を恥じるべきなんじゃ?」


「チッ、相変わらず面倒くさい女だ」


数秒睨み合った後、捨て台詞を吐き、俺の方を向いて、気を取り直した様に黒髪の美人が言った。


「私は、クレア=アルカーラという。この度は成人おめでとう」


「あ、ああ。ありがとうございます」


俺はおどおどとして礼を言った。


「あの、傲慢なアルカーラの娘が礼をできたとはね」


「礼をする機会など本来は無かったんだがな。どこかの家がわざわざ我が家の者の馬車を監視しなかったらな」


「いやいや。道に迷ってわざわざ遠回りになる領主館への道へ行こうとされていたので最短距離でお帰りになられる道を教えて差し上げただけでしょう」


「ああ!偶々、街道の門の前にいたピアゾン家のものにな!」


「それを言うなら、私が使者を送る度に使者が野盗に襲われて帰ってくるというのも偶々かい?」


「偶々だな」


「そうかい。おかしいと思って調べて解ったけれどどうやら、うちに一匹ネズミが入り込んでたんだ。そのネズミはアルカーラ領で育ったって喋ってたんだけど知らないかい?」


「知らんな。喋るネズミなど聞いたこともない」


「そうかい。お陰で君達と違って名分はあったのに来るのが今日になってしまったよ」


ミストとクレアが言い争いをしている。


話を聴いていると、他にも邪魔のし合いをしており、それを子爵家の者に悟らせないということは高度どころか公侯伯家の最高峰の情報戦をしているのだろう。


子爵家もこの情報戦で勝てるようにならねば確実に滅ぶだろう。

何とかしないと、怖すぎて夜も寝られないな……


新たな課題が見え、この状況下においては余りに呑気に対応策を考えていると低身長の男に声をかけられた。


「おい!貴様がドレスコード子爵か?」


「は、はい。そうですけど?」


さっきまで聞いていたんだからわざわざ聞かずとも分かるだろうに……


「単刀直入に言う。我が家の傘下に入れ。厚遇してやってもいいぞ」


「はあ?」


俺は男の余りにも直球すぎる言葉に驚愕を露わにした。


「ははははは!アルフレッド=オラール殿は外交という物をご存知ではない様だな!これはオラール公爵も人選を間違えた様だ!」


クレアが笑いを堪えられず馬鹿にしたように大きく笑った。


「はっ!くだらんわ!馬鹿みたいに監視しあって、もし抜け駆けがされたとしても2家で潰そうとする。しかも、それで名分を得て庇護下に入れようとした慎重さが今、この子爵家の力の増大を招いたのでは無いか!ここまで来てまだ続けるつもりか!」


アルフレッドが怒気を強めて言った。


「今日まで抜け駆けした家を2家で潰そうという密書をせっせと送って来た公爵家の者がそれを言うとはな」


「それこそくだらないね。ドレスコード家が力を持つことによって価値が跳ね上がるのもわからないのかい?」


「ふん、密書にせずとも暗黙の了解だろうが!それにそんな事は、当に承知だ!ただ、リスクの問題を言っているのだ!」


「おや?子爵家が強くなって何のリスクがあると言うんだ?良くない事でも考えているのか?」


「チッ!このカスどもが!」


三人と三人の取り巻きが余計にヒートアップしている。


それに比例して子爵家の人間は冷えて行くばかりである。

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コミックス2巻6・26日に発売ですよろしくお願いします>
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