要求と儀礼
欲しいものか……
滅茶苦茶欲しいのがあるんだよな。
「本当に何でもいいの?」
「ああ!何でもいいぜ!」
俺の遠慮ない質問にヤクトは嬉しそうに笑って答えた。
まぁ、無理だとしても言ってみるだけ言ってみるか
「俺に文官を紹介してください!」
俺は意を決して言った。
「いいぜ!」
「いいの!?」
ヤクトがあまりにも簡単に即答したので俺は拍子抜けしてしまった。
こんな簡単に決めてしまって大丈夫なのだろうか…
「ありがとうございます!でも、そんな簡単に紹介してもらってもいいの?」
俺が尋ねるとヤクトは大きく口を開けて笑った。
「俺の国では戦ばっかだったから、武官に比べて待遇が悪くて燻ってる奴等がいっぱいいんだよ!気にすんな!」
なるほど。そういう事情が有れば、快く来てくれそうだな。
「なら、遠慮なく雇わせて貰うよ!」
「ああ!だが、大切にしてくれよ?」
「もちろんだよ!大切に(こき)使わせて貰うよ!」
思わぬ形で、文官を引き抜くことができそうだ。
これから、戦乱になる世の中で、国内で誰とつながっているかわからない人間より、異国のしがらみのない人間を雇う方が断然いい。
人選としては、最適といえた。
ヤクトには、感謝してもしきれないな!
「今回の礼としては物足りないけど、しがない祭りではあるが、もてなさせてくれ」
そういうとヤクトは渋い顔で頭を振ってから笑ってこっちを見て言った。
「それでは、俺が余計に恩を感じるじゃねえか。これからは、唯のヤクトとクリスとして祭りを楽しもうじゃあないか!」
ヤクトは本当にいい奴だな。甘えさせてもらうとするか。
「そうだな!」
それから、ヤクトと街へ繰り出して真っ暗になるまで遊び倒した。
☆☆☆
次の日の朝、ヤクトは急いで直ぐ様帰って行った。
まあ、そもそも王子であり、ポッドインポッドの責任者として多忙であり、今回こちらに来たのも相当、というか滅茶苦茶無理して来たのだろう。
今日は昼から成人の儀がある。成人の儀は子爵家の一室で執り行なわれる。
儀礼は、その時の従士長から剣を授与され、その後、部屋から出て従士達にお祝いの言葉を貰って終了である。
儀礼の意味としては、従士や領民を守るため剣をとって戦う決心を促すためであるとか聞いた。
しかし、今では、剣も従士長に返してしまうし、兄達の時もサラッと終わってしまった様に形だけになってしまっている。
街では、領民が昨日と変わらず気軽に祭りを楽しめるように、たかが俺の成人の儀をあまり意識させないように伝えていない。
儀礼は、一応、正装で行わなければいけないので今、ややっこしい服を着ている最中だ。
「ユリス。この服何とかならないのか?」
「我慢して下さい。成人になってもロクに服を着られないクリス様に着せてあげてるのです。文句より先に感謝の言葉では?」
「……ごめん」
俺はユリスに着々と服を着せられて行った。
服を完全に着終わり、儀礼の時間まで執務室で仕事をし終え、ついに儀礼を迎えた。
マクベスからの剣をしきたり通りに受けとり、つつがなく儀礼を扉を開けた。
扉を開けると、いやに静かであった。
外て従士や塾生、公務員達がまってるはずだから、こんなに静かなのはおかしいよな。
何かあったか?
俺は、玄関まで歩を進めてそっと扉を開いた。
そこには、三人の高価そうな服を着た人間が無言で睨み合い、その三人の背後にそれぞれ屈強な男が数人ずつ並び、それらを遠巻きに見る子爵家の人間がいた。
俺は、そっと扉を閉じた。





