魔法の格差
「まあ、それは置いておきまして、クリス様こちらをどうぞ」
ユリスから、ターコイズのような水色で輝きは無いものの、一目で美しいとわかる小さな宝石がはめられた指輪を渡される。
「クリス様。これがドレスコード子爵家の宝具でございます」
「これが、うちの宝具か」
たしか、叙爵式の後は、宝具の引き継ぎが行われる事になっていたので気にせずに受け取った。
宝具は各貴族に一つ存在し、その貴族の血族が持つとその宝具から魔法を与えられる。やはり、ここは異世界なんだなぁと再確認させてくれるファンタジーな道具である。
だけど、あまりにも簡単に引き継ぎが終わったので、疑問を覚える。
「え? 引き継ぎってこんなにあっさりしていいの? せめて父上は?」
「家から出るのがダルいとおっしゃられましたのでクリス様が叙任式に出ている間、言伝と共にお預かりして参りました」
俺は唖然とした。父上は、もともと怠惰なところもあったが、一生に一度のこの重要な時まで来ないなんて。 これは、期待してないのかそれとも信頼の証だと受け取れば良いのか……。
「それでは、旦那様の言伝をお伝えいたします。『ユリスに任せれば大丈夫。ユリスに逆らうな』とのことです」
ユリスへの信頼かよ!
どんだけ自領のことをユリスに任せてたんだよ! ユリスはただのメイドなんだぜ!?
確かにユリスが居なきゃやって行けないだろうけど!
父上の言う通り、ユリスに従うしかないのである。
「父上の言葉はしかと受け取ったよ。これからは、領主としての僕を支えてくれるかい?」
「そんな、いや、いきなりそんな、でも私も、いや身分だって、あのクリス様が……」
突然、ユリスは真赤になって身悶え始めた。普段見られないユリスが可愛いような怖いような……。何か勘違いさせてしまっている気がするが、面白いのでこのままにしておこう。
それは、ともかく魔法だよ! 魔法! 転生してからずっとユリスの拷問を受けてきて、異世界を満喫できてないんだ。絶対に魔法を使ってみたい!
「魔法ってどうすれば使えるの?」
ユリスの顔の赤みが引くのをウズウズしながら待って、引いてから尋ねた。ユリスは、そんな俺の様子を気にすることもなく淡々と答える。
「ドレスコード家の宝具はあらゆる形の石を創り出せる魔法です。どのような石か想像して指輪に願えば、石を創る事ができると先代様が仰ってました」
早速、ユリスの言うことに従い実践する。
(全ての辺が10cmくらいの石ができてくれ!)
立方体の石をイメージし、指輪に願った。すると突然、指輪が光り出し、イメージ通りの石が目の前に現れた。
すっげえ! なかなかいい魔法じゃん! 巨大な岩を飛ばせば、相手がどんな軍でも倒せるじゃないか! 俺TUEEEEできそうだ! この魔法を駆使して生き残って、早いうちに領主を隠居してスローライフを送ろう!
魔法が使えた嬉しさと将来に光が見えた嬉しさから、自然と笑みがこぼれた。
「喜んでらっしゃる様子ですが、大した能力ではありませんよ。石は手の届く範囲にしか出せませんし、大きさも大きくて1メートルほどにしかなりません」
「まじ? でも、流石に数は出せるよね? てか、石っていうからには、宝石とか鉱石とかも含まれたりなんて?」
「いえ、重ければ重い程、数が多ければ多いほど体が疲れますので、数は出せません。それに、宝石や鉱石が出せれば、もっとこの領地は栄えてますよ」
は? 全然使えないじゃん。
「それじゃあ、父上は何に使ってたの?」
「我が領は街道だけは立派だと感じませんでしたか? あれは、先代様の魔法で、毎日、こつこつと創り出された石で整備されていました。まあでも、それ以外に使っているのは見たこと無いですね」
使えねえ。異世界の魔法って言ってもこんなもんかよ……
「貴族の魔法ってこんなんしかないの?」
異世界の魔法に幻滅したくなくて、恐る恐る尋ねた。
「まあ、大概の貴族はそんな感じですが、我が家の周辺の貴族の魔法は凄いですよ。アルカーラ侯爵家は、自由に強風を起こし海戦では無敗を誇り、ピアゾン伯爵家の五感強化の魔法で強化された軍は、王国一だと言われております。また、オラール公爵家では、公爵様の半径50メートル以内の生物の時を奪うことができる魔法です」
ひえぇ! なんて、バケモノたちに囲まれてるんだ我が家は! 石を出す能力だけでどうすれば勝てるんだよ!
こんな化け物たちに滅ぼされないようにするなんてどうすればいいんだ!