手紙
クリス=ドレスコード子爵様
拝啓 草木の緑も一段と濃くなって来ましたがお変わりなくお過ごしでしょうか
先日は王都におきまして私が過分なご厚意を受け、宿までお借りさせていただき本当にありがとうございました。
心より御礼申し上げます。
また、お食事の席で教えて頂いたポッドインポッドなるものについてご報告させていただきます。
お陰様でポッドインポッドなるものは無事完成し、実用化してからまだ日が浅いなれど着々と効果をあげ争いが無くなる日も近いのではないかと考えております。
またの機会に、是非お返ししたく御用のものがあれば差し上げに参りますので何でも仰ってください。
どうぞお体にお気をつけてお過ごしくださいませ。
敬具
ヤクトワルト
☆☆☆
手紙を開くとこう書いてあった。
うーん…… 俺が教えたのは間違いないだろうけれど記憶がないから手紙の内容はさっぱりだ。
「誰か思い出されましたか?」
「恐らく、手紙の内容と名前から多分、酔っ払いのヤクトだと思うけどなあ」
「あぁ、クリス様が連れ込んでベッドの下に挟まったという方ですか?」
「まぁそうだけど言い方もうちょいあるよね?」
「それでは、ベッドに固定された男をヌこうとして無理やりやった時の方ですね?」
「悪化してる!?」
ちょっと想像して気分が悪くなってしまったじゃないか!
「まあ、冗談はさておいて何て書いてあったのですか?」
「ああ。こう書いてあったよ」
俺はそういってユリスに手紙を渡すとユリスはふむふむとサラッと読んで俺にすぐに渡して来た。
いや、読むの早すぎだろ。
本当に読んでいるのか?
気になって聞いてみた。
「本当にちゃんと読んだのユリス?」
「ちゃんと読みましたが?」
「本当に?ちょっと内容いってみなよ」
俺がそう言うとユリスは唇を不機嫌に歪めると
「クリス=ドレスコード子爵様拝啓 草木の緑も一段と濃くなって来ましたがお変わりなくお過ごしでしょうか。先日は王都におきまして私が過分なご厚意を受け、宿までお借りさせていただき本当にありがとうございました。心より御礼申し上げます。また、お食事の席で教えて頂いたポッドインポッドなるものについてご報告させていただきます。お陰様でポッドインポッドなるものは無事完成し、実用化してからまだ日が浅いなれど着々と効果をあげ争いが無くなる日も近いのではないかと考えております。またの機会に、是非お返ししたく御用のものがあれば差し上げに参りますので何でも仰ってください。どうぞお体にお気をつけてお過ごしくださいませ。敬具ヤクトワルト」
と一字一句間違えずに早口でまくし立てた。
「ごめん僕が悪かった」
次からは下手なことを言うのはやめよう。
「それで、どうなさるのですか?」
「ああ。取り敢えず、このヤクトワルトって人がヤクトと決まった訳でもないし、何も御礼は貰わずに、『御礼としてもし良ければ俺の成人の儀にご出席ください』という旨の手紙を出すのが無難かと思うんだけど」
そう、俺が答えるとユリスは1度軽く頷き
「そうですね。いらっしゃれば本人かどうか知れますしね。しかし、成人の儀に来て頂いても楽しんでいただけないのでは?」
不安そうな顔で口を開いた。
我が家の成人の儀は代々伝わる30分くらいの儀礼で人に見せるようなものでも何でもないのでユリスの不安は当然である。
「それなんだけどさあ。今回は俺の成人の日と干拓の完成。それと、収穫祭も併せて領民全員を巻き込んで大きな祭を開きたいと思っているんだ!」
「それはまた……それをするには多大な労力と費用。クリス様の負担も大きくなりますよ?」
「うっ、まぁそれはそうなんだけど。領主になってから5年間、無茶する俺に付いてきてくれた皆に馬鹿騒ぎして楽しめる機会を設けたいんだよ!」
「はあ、仕方ないですね。それでは私も微力ながら
手伝わせて頂きますね」
ユリスは目を細めゆったりと優しい笑みを浮かべた。





