誤解
目がさめると、窓から差し込む心地よい朝の光に包まれ寝起きの重い瞼をさらに重たくさせた。
気持ちいいな。もう一度、寝ようかと思い寝返りをうつと、ほんの少し開いた瞼の隙間からベッドの下から出ている男の足を捉えた。
「うわあああっ!」
あれほど重かった瞼が、軽すぎて大きく開くほど驚いた。
「うん?」
ベッドの下からくぐもった声が聞こえる。
昨日は暗くてよく見えなかったが男の皮膚は焼けた小麦色で外の国の人であるときづいた。
「おい!何でそんなとこいるんだ!出てきて今すぐ帰れ!」
「あぁ、昨日連れ帰ってくれた人の声だ。ここはどこだ?」
「ベッドの下だよ!早く出てこい!」
俺はいらいら口調で褐色の男を急かした。
「寝相が悪いのにも困った困った!ハハハハ!」
男は飄々と笑った。
「早くでろって!」
「わかった。わかった。よいしょっ …… あれ?」
突然の声色の変化に嫌な予感を覚える。
「おい、どうした?」
「抜けない」
「バッカっ!どうやって入ったんだよ!」
「寝てた俺に聞いてくれ、ハハハハハ!」
この野郎!人の神経を逆撫でする天才じゃねえか!
「とりあえず引っ張るからな!」
「ああ、頼むよ」
俺は両脇に褐色の両足を抱え引っ張った。
その時バタンと音を立てて開いた。
「ご無事ですか!?クリス様 ……?」
「ま、マクベス……」
マクベスは唖然としている。
それもその筈であろう。マクベスの角度的には、大人の手押し車の体勢に見えるのである。
「クリス様…… 私はクリス様がどんな性癖でも少ししか気にしませんから。私にその気は無いのでやめていただければに限りますが……」
「いや!誤解だから!」
「誤解?」
その時、褐色の男がくぐもった声をあげた。
「痛い痛いっ!もっとゆっくり!」
「やっぱり!」
マクベスは、顔を青くして部屋から走り去ってしまった。
「おい!何てこと言うんだ!」
「いや!もっとゆっくり引っ張ってくれねえと痛えんだよ!」
その後すぐさまマクベスを追いかけ、マクベスの誤解を解くのに1時間かかった。
「で、これが連れ込んだ男ですか?」
マクベスはベッドから足だけ出ている男をみて言った。
「まあな、まだ足しか見えてないけどな。あと、言葉に気をつけろ。まだ信じてないのか?」
「いえ、ちょっとからかってみただけです」
「そうか。それじゃあベッドを持ち上げるぞ」
俺とマクベスはベッドの両端にわかれタイミングを合わせて持ち上げた。
「よし、持ち上げたぞ!早く出てこい!」
すると、ゴロンという音が聞こえたので俺とマクベスはベッドを降ろした。
しかし、ベッドの外に男の姿どころか足すら見えなかった。
「バッカ!ベッドの方向へ転がってどうすんだよ!」
「ふあああ、うん?」
ベッドの下から気の抜けた声が聞こえてきた。
「この野郎寝てやがったな!」
「うわあああっ!身動き取れねえ!何だこれっ!」
「ベッドの下敷きになってんからだよ!」
その後、他の従士も呼んでようやく救出?する事が出来た。
「いやぁ、済まないねえ。迷惑かけちゃって」
男は悪びれた様子を感じるものの男本来の口調のせいか俺の苛立ちは収まりはしなかった。
「迷惑だと思うなら去ね」
「なんの御礼もいらないなんて、良い兄さんだな!頼む俺に酒でも奢らせてくれ!もちろん、全員の分も奢らせてもらおう!」
いや、そうじゃなくて本当に帰ってくれ。頼む。
しかし、俺の気持ちとは別に三人は歓喜の声をあげた。
「よっしゃ!」
「あざます!」
「昼間から酒だー!」
「じゃあ行くぞー!」
「「「おーーー!」」」
4人がスキップしながら街へ繰り出していったので、俺はそれをとぼとぼと歩いて追いかけた。





