裏道と酔っ払い
社交界はあの後、すぐに終わった。まあ、当然である。
あのメモが晒され小貴族は政争に巻き込まれるのを恐れ、大貴族はどちらに与するか早期に迫られることを恐れた。
そのため、当初予定されていたダンスパーティは王家と宰相の争いを加味した上で、繋がりを持つ貴族を再検討するため貴族の意向により中止となり、そのまま王女の誕生日は幕を降ろした。
社交界が早期に終えたため、俺はミストの猛アピールを必死で避けきることが出来たのは僥倖であった。
しかし、それでも酷く精神が困憊した状況で帰途につくことになったのである。
帰り道では、貴族達の気も知らずガヤガヤと騒ぐ喧騒に苛立ちを隠し切れていない貴族もチラホラと見かけ、揉め事になる前に俺は1人貴族達とは別に裏道を通って帰ることにした。
裏道は裏道の名に恥じぬよう暗く灯すらなかった。
初めは暗闇に包まれているような感覚で夢の中にでもいるような気がしていたが次第に夜目が慣れてくるにつれ現実へと引き戻され、幻想世界からのトンネルを通り抜けて行く感覚に陥った。
その後歩み続けると、足音が聞こえ、この暗闇の中で正確に襲うことが出来るものがいないと踏んで、裏道に入った自分を呪ったが足音が正確なリズムを刻めていなかった事で安心した。
何だ、酔っ払いか……
警戒して損したわ。
多量に摂取した酒にここまで操縦されてきたのであろう。
「うーん、誰かいるのかぁ?」
たどたどしい口調の男の声が聞こえた。
うわっ絡み酒かよダルいな!無視しよう無視!
「やっぱり、いるじゃねぇか!道に迷っちまってさぁ家まで送ってくれよぅ!」
「……」
「おーい!聞こえてますかぁーーー!」
うるせえ!聞こえてんだよ!無視してんの悟れや!だから酔っ払いは嫌いなんだよ!
「聞こえてねぇみたいだなぁ。もっと声はるか。もしもーーーーし!!」
「うるせえっ!!」
「おぉやっと聞こえたか!にーちゃん家まで送ってくれよぅ」
「まぁ、そう言わずになぁ」
男は肩を組もうと迫ってきたが俺はそれをひらりとかわすとそのまま男は転んだ。
よっしゃ!今のうちだ!
俺は走って逃げだした。
が、後ろから伸びてきた手に足を掴まれ、頭から転んだ。
「痛え!なにしやがる!」
「わりいわりい。でも送ってくれよ〜」
「何で僕が送らなきゃいけないんだ!」
「送ってくれねえと足を離さねえ」
俺は、手を振りほどこうとするととんでもない握力で握ってくる。
「痛い痛い痛い痛い痛いっ!わかったから送ってくから!」
すると、男は手を緩めた。
「おお、そうか!ありがとうにいちゃん!」
クソが!まじでうぜえっ!
「どこにつれてきゃいいんだよ!」
「わからん!」
「はあ?」
「とりあえず寝れっとこ!」
「ここで寝とけバカッ!」
足元に激痛が走った。
「痛い痛い痛い痛いっ!わかったから連れてくから!」
その後、俺は渋々男の肩を担いで宿まで運び自分の部屋の床にゴロンと捨てて眠りについた。





