主人公
負傷者の治療を終え、再び本隊へ急ぐ。
片足が動かないので、肩を借りながらゆっくり、じっくりと歩く。
背後の憂いがなくなったとはいえ、精強なオラール軍本隊と戦闘は続いている。指揮する人間として、一早く戻らなければならない。
だが不思議と焦りはない。
どこか他人事のような安心感。侵略されている領の領主であるというのに、当事者という感覚が消えてしまっている。
どうしてか、考えたらすぐに思いついた。
ああそうか。
俺は脇役だ。この戦いの主人公じゃない。
自分の運命に悩んだ少女。
挑んで、失敗を知った少女。
自らの生き方を否定された少女。
他人の生き方を倒れ苦しみながら学んだ少女。
否定された生き方を肯定した強い少女。
それを希望とし、人を立ち上がらせた少女。
不可能と思われた陣地を作り、熱い闘志を持つ兵を作り上げ、つい先ほども軍の窮地を救った少女。
アリスが主人公でないとして、誰を主人公とすればいい?
彼女はすでに、本隊にたどり着いている。主人公がいる戦場で負けるはずがない。
泥池をゆっくりと進み、一時間ほどかけて本隊に合流した。
ほらな。
退いていく敵軍、喜び勇み勝鬨を上げる自軍の姿がそこにはあった。
コミカライズ版3巻の発売日です。
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