剣
対抗策を考えている間も、敵指揮官は暴れ回る。
まさに怪力無双。寄っていく兵をなぎ倒し、吹き飛ばし、台風のように兵の海をかきわけている。
このままでは、すぐにアリスの下までたどり着いてしまう。
あいつは捕らえると言っていた。ならば、アリスを捕らえたあとに隙ができるはず。抵抗する人一人を抱えては、ろくに戦うこともできまい。
いや、ダメだ。敵を襲う自軍の刃がアリスに届いてしまう可能性がある、それに人質として盾に取られれば、こちらは抵抗できない。
やはり、アリスの下までたどり着かせてはいけない。
止める術を見出すため、弱点がないか、必死に目を凝らす。
人数的有利で死角からの攻撃は? ダメだ、今もやっているけど、後ろに目でもついているのか、剣で弾き返されている。体力が切れるのを待つか? 無理だ、こっちだって疲弊している、持久戦に持ち込むと一人の強敵を凌ぎ続けている間に敵軍が息を吹き返してしまう。相手の武器を壊すか? ダメだ。繰り出された槍や剣は、まるで飴細工であるかのように叩き折られてしまっているのに、相手の剣は刃こぼれ一つしていないように思える……いや、武器だ。目の前で輝く金属が蘇る。
兵の間をかき分けて、無双し続ける敵指揮官の下まで走る。
「兵の態度を見るに、将の格だな?」
目の前に立ちはだかった俺に向けられた問いには答えず、ただ剣を構える。すると、台風の目のように兵が広がり、男と俺が戦うスペースができた。
ビリビリとした殺気に肌が震える。ある程度距離があるのに、一歩近づけば即切られる間合いにいるような感じがする。だがそれは相手も同じようで、あれほど突撃してきたのに足を止めている。
しばらく続いた睨み合いは、指揮官が破った。
野太い声とともに剣が振り下ろされる。俺はそれを後ろ飛びに躱す。派生した切り上げも仰け反って躱す。
全てを躱され、一度構え直した指揮官は、バッティングのような態勢に入った。
ここ。
俺は敵の横薙ぎに合わせて魔法を使う。剣の軌道上に石が現れ、接触し、高い音が鳴った。
石が弾き飛ばされた方向を見た指揮官が、俺に目線を戻した。そして、抑えきれない、といった風に笑う。
「くっくく。魔法を使ったお前は、子爵だな?」
指揮官は続ける。
「浅はか、浅はかだ。石を切らせて剣を壊そうとしたのだろう。だが無駄なことよ、この剣は剛力の魔法を持つ、我が一族に代々伝わる名刀。いくら粗雑に激しく扱おうとも刃こぼれ一つしない」
「何度も石を切りつければ、どんな名工の剣だって折れるに決まってる」
「ふん、なら試してみろ」
鋭い剣戟に襲われる。
「俺の剣より、お前の剣が折れるだろうよ!」
まともに受け止めれば、こちらの剣が壊される、だが、敢えて剣を使って防御する。そして隙をみて、石を剣にあてる。そんなことを繰り返していると、当然と言うべきか、手にしていた剣が割れる音を立てて折れる。
「終わりだ」
そう振り下ろされた剣は当たることなく上空に舞った。
手首と鋼鉄のブーツの衝突、攻撃に合わせたピンポイントでの蹴りが成功した。とてつもない力が自らの体に跳ね返ってきて、敵指揮官は手首を押さえてのたうちまわる。
石で敵の注意を武器に向け、壊れるまでひたすら剣で防御、攻撃し続け、さらに武器に目をいかせる。そして最後には、意識していない蹴りでダメージを与える。筋書き通りに上手くはまった。
だが、一方の俺も、足から全身にずんとした衝撃が響き、軽い脳震盪が起きていた。アドレナリンで痛みはないが、蹴った足は骨が折れているのか、動かそうにも動かない。
「いまだ、止めを」
めまいの中、俺は周りの兵にむけてそう言った。





