指揮官
アリスが率いていた非戦闘員は凄まじい迫力で敵兵を襲っている。多少の怪我なんて気にせず勇猛果敢に戦う姿。怯むことなく前へ前へと進む姿に、敵兵は慄いていた。
元いた兵士だって負けていない。怪我を負っても、倒れても、立ち上がる。味方の兵士は大声を上げ、敵兵に立ち向かっている。
窮地の中、大将が援軍にかけつけた。それだけでは説明できないほどの士気の上がりよう。皆の瞳は鋭く輝き、華々しい未来を見据えているようにも見えた。
誰もの心の中に王女の言葉が息づいていることは、目に見えて明らかだった。
つい数日前までは何も心に響かなかった世迷言だった。
泣いたろう、辛かったろう、思い悩んだろう。
果てしない苦しみの末に生まれた言葉が、いまや人をつき動かす燃料になっている。
体が疼く。闘志に火がつくどころじゃない。大炎が燃え上がっている。
俺もまだまだやれる。いくらでもやれる。
敵を切り、前に出る。襲いくる凶刃を避けては切り返す。
前へ前へ前へ。
敵を倒し続けると、いつの間にか隣に味方の槍兵がいた。
「クリス様、クリス様だ」
左右、前から、攻撃され続けた彼らは俺の名前を呼んだ。
見るからにズタボロ。鎧が自らの血と返り血で真っ赤に染まっている。腕は震えていて、槍を支えるのもやっとだろう。
味方の援護は心許なく、孤軍奮闘していた彼らだが、今現在まで倒れなかった。目にはまだ光が宿っており、これからも倒れないだろう。
「苦労をかけた! あと少しだ!」
檄を飛ばすと、呼応して彼らは叫んだ。
今俺がいる場所は左翼の最前線。横を見ると、左翼同様、槍兵の隣まで上がってきた右翼がある。凸の字型だった陣形は激闘の果て、□になるまで押し返していた。
敵の様子は、と前を見る。
明らかに敵の数は減っていた。もう、全ての兵が自軍とぶつかっている。
俺は剣を握り直す。
ここを凌げば勝利を収めることができる。
「ふざけるな!! 貴様ら何をしているのだ!!」
敵軍の指揮官が叫んだ。大気がびりびりと震えるほどの迫力。自然に目を奪われてしまう。
「目の前の王女さえ捕らえれば、この戦いは我らの勝ちなんだぞ!!」
そう言ったあと、指揮官は「俺に続け!!」と大剣を高らかに掲げ、こちら目掛けて突っ込んできた。
「通してたまるかよ!!」
隣にいたアリスが率いてきた兵二人が、指揮官に向かっていく。
「邪魔をするな!!」
指揮官の首元から赤い光が発せられる。と、同時に、剣をバットのように構えた。
急に悪寒に襲われ、俺は叫んだ。
「防げ!!」
俺の叫びが聞こえたのか、兵士二人は剣を構えて防御態勢をとる。だがそれは、意味をなさなかった。
指揮官は彼らに向かって、思いっきり横薙ぎを放つ。大剣が兵士の剣を叩き折り、二人ごと吹き飛ばした。
人智を超えている。明らかに魔法の力だった。
奇襲を務める騎馬隊の指揮官。エリートである騎士の集団を纏めあげるには、それなりの地位が必要。そう考えると、指揮官は貴族の当主であっても不思議ではない。
冷や汗が流れる。
どうやら、このまま簡単に終わらせてくれないらしい。あの超常的な力を食い止めねばならない。
だが逆に言えば、奴さえ倒せたら、敵軍は瓦解する。他に魔法を使うものがいないのだ。なら、誰が指示を出すか定まらず、指揮系統が混乱して敗走に至るだろう。
すぐにそんな結論に至るも、俺の足は動かなかった。あの剛力を攻略するにはどうすればいいのか、全くと言って思いつかなかったのだ。
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