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背後3

 

「敵が騎馬から降りている」


 戦いの最中、視界に捉えたのは、歩兵となった下馬騎士が、左右に兵力を割いて突撃をしてくる姿だった。


 不味い、急に全身から冷たい汗が噴き出す。


 密集体系を組んだ歩兵は、最前列が盾を構え、前列が低い位置から槍を繰り出す。後列は投げ槍を用いて敵に被害を与える。左右に分かれた弓兵は、杭で敵騎馬の突撃を妨げつつ、矢を放って中央を援護する。


 この作戦が通用したのは、敵騎馬隊が柵を避けて中央を突破するという、前提があってこそだ。しかもこの前提、かなりの確率で成立すると踏んでいた。それは、騎兵の攻撃力と速さが背後への奇襲に最大限の力を持つこと。加えて、ここから前線まではそれなりに距離があり、泥の中を重装の兵たちが進むには、時間、労力を多大に消費するためだ。


 それに、この作戦を取らざるを得ない理由もあった。敵が騎馬での突撃をしてきた場合、この守り方ではなければ、ただひたすらに蹂躙されるだけなのだ。さらに、軽装で練度の高い自軍が力を発揮するにはこの作戦が最適であったこともあげられる。


 だから俺たちは終始、この作戦に徹してきた。実際に効果は出て、今の今まで兵力に勝る敵軍に五分以上の戦いを繰り広げてきた。だが、敵軍が下馬し、弓兵を狙って全進してきたことで、全てが崩れた。


 俺は必死に脳を回転させる。


 中央を薄くして援護に回らせるか。いや、密集陣形は崩れると脆い。持ち場を離れさせ、弓兵への援護に出た瞬間、戦列が崩れて、一気に敵に突破される。敵が左右に戦力を割いたとはいえ、中央にも敵はまだいるのだ。


 かといって、このまま見過ごすわけにはいかない。左右の弓兵が破られれば、そのまま包囲、挟撃にあって終わる。


 まさに八方塞がり。打つ手がない。


 そこまで思考が至って、ようやく嵌められたと理解する。


 敵が騎馬から降りるのは、当然のことだった。元々、騎馬突撃がいなされるから背後を奇襲しようと迂回してきたのである。当然ながら、騎馬突撃が通用しないことは敵の頭に入っていただろう。


 それでも、序盤に騎馬突撃を繰り出してきたのはこの状況を作り出すためにほかならない。こちらの布陣を機能させ、配置をいじれないほど固執させる。そうなれば、凝り固まった軍の布陣を変化させることは容易でないため、相手の真の主攻、つまり、今の下馬騎士の攻撃が機能するというわけだ。


 敵が下馬してくる可能性は頭にはあった。だが、みて見ぬふりをしなければならなかった。実際そうしなければ、騎兵の突撃で全てが終わっていた。


 歯噛みする。


 敵の作戦は、騎兵突撃が失敗に終わることを前提としている。そのため、それで削られた戦力を抜いて戦える兵力差、そして騎士の質による戦力差、その二つに圧倒的な差がなければ成り立たない。


 戦術、戦略どうこうじゃない。圧倒的優位だからこそできる策じゃないか。


 そう、恨んでも仕方ない。下馬し、泥のぬかるみに足をとられているとしても、敵兵は刻一刻と迫ってきている。何か決断せねば、全てが終わってしまう。


 くそっ、なら!


「中央はその場を維持! 前列後列、長槍に持ち替えて、円形の布陣を取れ! 弓兵は一度下がり、武器を変えて戦列を整えろ! 白兵戦に移行する!」


 俺は苦渋の一手を打った。


 今まで両翼弓兵、中央歩兵の凹型の布陣であったが、弓兵を引かせることによって凸型の布陣にする。これにより、弓兵が蹂躙されることはなくなる。突出する中央歩兵は敵兵に囲まれる形になるが、円形に密集することにより、最低限の防御力を手にすることができる。そうやって中央で耐えつつ、両翼から押し寄せてくる敵には、武器を変えた弓兵が前から、円形密集隊形を組んだ槍兵が左右両方から圧を加えられる。


 だが、こんなの理想論だ。現在左右が攻撃されていないわけではなく、引いて、武器を変えて陣形を整えることは非常に困難。さらに円形に密集隊形を組んだとして前左右から攻撃されれば、崩れるのは時間の問題。そして多くの農民からなる弓兵が近接武器を手に取って、騎士と戦うのだ。悲惨な結末は目に見えている。


 でも、こうするしかない。下馬騎士が突撃してくるのを目にして数秒、戦いの目的は、敵を打ち負かすことから、一人でも多くの敵を本隊の背後へ届けないことに変わっていた。


 腹を決めなければならない。


「下がる弓兵の支援に戦える者は前に上がれ!」


 俺はそう言い、剣を掲げて走り出した。



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コミックス2巻6・26日に発売ですよろしくお願いします>
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