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背後1

更新再開します。次回は明後日の予定。

 

 泥の中をかける。檄が飛ぶ。飛沫が上がる。数百の兵士が行軍し、甲冑の金属音が辺りを支配する。


 敵軍は、森を迂回し、自軍の後背をつこうとしているだろう。敵軍の襲来に先んじて陣を敷くため、自軍の中央歩兵隊半分と両翼の弓兵の予備部隊が反転して行軍していた。


 後ろを抜かれれば、挟撃にあい、殲滅されてしまう。仮に抜かれなくとも、敵を退却させるのに時間がかかれば、ここに人員を割いた分薄くなった本隊が抜かれてしまう。


 焦りや不安に震える脚に鞭を打ち、物資を乗せた行李車両、非戦闘員が滞在する補給地を経て、さらに後方へと進む。


 いつから、敵軍は迂回していたのか。第二軍の前進時には、まだ動いていなかった。おそらく、敵軍が発ってから時間はそれほど経過していないはず。


 それでも間に合うかどうかは賭けだった。森を迂回する敵軍に比べて、こちらは直進するだけでいい、とはいえ、部隊を編成、反転、行軍、これだけで相当時間がかかっている。さらに、まだ陣をしく作業が残っている。


「全体止まれ」


 ようやく、行軍が終わり、号令をかけた。布陣したのは平野で、森の終わりまでギリギリの所。右手には川が続いていて、位置取りとしては悪くない。森を迂回しきり、背後をついて挟撃しようとしてくる軍に備えるには、正解と言ってもいいかもしれない。


 だがこれもまた賭けだ。布陣としては、森を自然の要害と考え、正面に集中する形となっているため、別方向からの攻撃にはてんで弱い。後背をつこうとしてくる敵軍は、予備戦力として後ろに控えていた部隊、つまり精確に兵科がわからない未知の部隊で、もし彼らが軽装の歩兵だとするならば、森を抜けて、こちらの側面に襲撃する可能性がある。そうなれば、自軍は恐慌を来することになり、崩壊は免れない。


 だから賭け。敵軍がこちらを挟撃しようと完全に迂回しきるか、それともこちらの動きをいち早く把握して森を抜けてくるかの二択だ。


 緊張に汗が滑る、自分の判断が間違っていないか手が震える。ただ怯え竦んでいるわけにはいかない。


「杭を刺せ」


 声を上げると、兵士各々が持っていた杭を地面に突き刺し始めた。泥が飛沫を上げ、むせ返りそうなほど土の匂いが濃くなる。


 杭は前線に敷いた柵の余りで、両先端を尖らせたものだった。大きさは長身の男一人分程度。弓兵達はそれを、自分たちの前一列に斜めにして打ち込み、敵の方向へ先端が向くようにして簡易の防護柵を築いている。


 作業は順調であれど、焦りに手が震えてくる。


 そんな折、蹄の音が聞こえてきて、脱力感に襲われる。敵は騎馬隊。森を抜けてくることはないだろう。


 だが安堵の隙などない。ぎゅっと拳を握り、声を出す。


「もうすぐ敵がくる! 全員配置につけ!」


 作業を終えた弓兵が杭から一歩下がり、矢を弓の弦に添える。前列の歩兵は大盾を構え、騎馬の襲来に備えた。


 蹄の地面を打ち鳴らす音が森の奥から響いてくる。段々音は大きくなり、そして遠ざかった。それからしばらくして、迂回してきた騎兵を視界に捉える。彼らはそのままこちら突撃してくることはなく、300mほど距離をあけて陣形を整え始めた。


 おそらく数は数百程度。こちらより多いとはいえ、いけない数ではない。だが優位は敵にある。


 早鐘を打つ心臓、血がぐっと頭に上ってきて視界が白む。全身はかっと熱くなり、何も考えられなくなる。


 ここを抜かれては、早期に敵軍を退却させねば、全てが終わってしまう。その想いだけが体を奮わせている。


 遠くの敵から叫び声があがった。


 いよいよ、来る。


「総員、構え」


 この戦の重大局面が今始まろうとしていた。

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コミックス2巻6・26日に発売ですよろしくお願いします>
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