社交界 挨拶しません
「それで?頼みごとって?」
「私も王女への挨拶はしていないんだ」
まぁ、王女が入ってきてから並んでる様子は見えなかったからな。
「それで?」
「私は挨拶はしていないがした事にしたいんだ。というのも私は王女が苦手でね」
ミストが何かを懐かしむように遠くを見て答えた。
何があったか知らんが王女に会わずに挨拶をしたいという事だろう。
なるほど、それで俺とウィンウィンということか俺も会わずに挨拶した事にしたいからな。
「話はわかったが何か案はあるのか?」
「ないよ」
ミストはあっけらかんと言った。
「じゃあ無理です」
「それを考えるのが君の仕事だよ」
「まじか……」
どうやってやるんだよ……
俺が熟考している隣でミストがニコニコと笑っている。
何がそんなに楽しいんだか……
俺は王女周辺の様子を見ていると王女の側にいた衛兵がメモをしている様子が見て取れた。
「あれは、何を書いているんだミスト?」
「ああ。あれは恐らく大臣派の子飼いで王家派か大臣派か挨拶する態度でどちらになり得るかメモしているんだよ」
「また、面倒な事に」
「そうなんだよねぇ。ウチとしても中立を保ちたいからあのメモ書きに書かれる訳にはいかないんだ」
なるほどそういう事情もあったのか……
なら、ウチとしても書かれる訳にはいかない。
「少し思いついた」
「へえ?何を?」
「単純かつシンプルな手だ」
俺は計画を説明した。
「ふふっ。いいねぇ。やってみようか!」
☆☆☆
結論から言うと成功した。
まず、初めにミストに「王女の服が破れていたと聞いたのだがどこが破れていたの?」と知り合いに話してもらった。すると、噂が広まり始めアリスは服の破れの確認のため、部屋の外へと出て行ってしまった。
その時に俺は、例の衛兵に接触を図った。
「王女様に挨拶をさせていただいたのですが、献上品の目録に付け加え忘れがありまして。王女様は何処にいらっしゃいますか?」
「一度お色直しにもどられました。失礼ですがお名前をお伺いさせて頂いても?」
「はい。私はドレスコード子爵家のクリス=ドレスコードと申します。それでは」
といった会話をしている時に窓の外でガシャンと何かが壊れたような大きな音が聞こえた。皆が音のほうを振り向く中、俺は全く振り向かなかった。
というのも俺が魔法を使って窓の近くでギリギリカーテンで隠せる大きさの外壁と同じ石を作り出しておき、カーテンの裏に隠しておいたものをミストに落とすように頼んでおいたのである。おそらく壁にぶつかり砕けたのだろう。
衛兵は、何事かとそちらに向く隙におれは衛兵のメモをスリ取った。
その後、衛兵が王女に話しかけているのを見てから目立つ位置に衛兵が持っていたメモを落とした。
「何だこれは!大臣派か王家派になりうるかのメモではないか!」
そして案の定すぐに見つかり、これが明るみに出たことによって他の貴族は王家の派閥争いに巻き込まれるのを恐れ、王女への挨拶をさけた。つまり、ミストも挨拶をせずとも良い理由が出来たのである。
「と言うことで成功しましたよ。お嬢様」
俺はラノベ主人公さながらのやれやれ感を出してミストに近づいて行く。
「うむ。くるしゅうないぞ!」
「へへえ〜」
このくだらない遣り取りに、この少女独特のカラカラと笑った後に、少しまじめな顔をして口を開いた。
「正直失敗すると思ってたんだ。計画自体は悪くない。しかし、衛兵がメモをすられたと気づかないほどの技術は持ち合わせていないと思っていた」
失敗すると思ってやらそうとしてたのかよ……
まじで怖えわこいつ。
「まあ、あの衛兵のメモを奪う上で死角になるように音の方向を指示したからな」
それと、ユリスやマクベス達の攻撃から逃れるために身につけた瞬発力と正確性がなければ危なかったな。まるで、スったときの俺はスタープラチナだ。オラオラオラオラッ!!
「さすがドレスコード子爵だね。やはり君が欲しくなってきたよ」
「はぁ?」
「そうだ!私達で結婚してピアゾン伯爵家と婚姻同盟を結ぼう!」
「いやいや!なんでだよ!」
「細かい事は良いじゃないか!大分前から敬語も抜けてるし気を許してくれてるってことだろ?」
確かに、いつの間にか気を許してしまってるかもしれない。けれど、3家のうち一つと婚姻同盟なんてしたら翌日には他の2家によって攻め滅ぼされるわ!
そしてなにより、こんな怖え女結婚できるか!
「いや、少し気を許してるかもしれないがそれ以前の問題だ!」
「それ以前ってことは私に魅力が無いってことかい?」
目をうるうるさせて桜色の大きな瞳で上目遣いで俺をしっかり見てくる。心なしかたわわに実った果実もぷるぷるさせている様に見える。
「うっ、か、かわいいけど魅力は凄いあるけどダメだーーーー!」





