奇襲
コミック発売26日よろしくお願いいたしますm(_ _)m
馬のいななきが響き渡る。蹄が地面を太鼓のように打ち鳴らす音。張り裂けんばかりの鬨の声。敵後方から動揺の悲鳴が辺りを支配していた。
森に隠していた騎馬隊が出動したのだ。一目散に目がけていくのは本隊から切り離された後陣、主に歩哨と行李にだった。
敵数はおよそ300程度に見える。敵兵は、半狂乱に陥って四散していく、中には思考が停止してその場に立ち尽くすもの。慌てて本隊に追いつこうと前へと走り出すものが多い。だが、武器を取り出して冷静にこちらへ構えるものもいる。その者らは行手を阻もうとして壁のように隊列を組もうとした。
馬上で前後に揺られながら、風を切りながら思う。
関係ない。勢いに乗った騎馬を止められるものなんかいない。
敵軍と自軍がかち合う。鋭い金属の響き、馬が轢き殺す鈍い音、槍が肉を貫く激しい音。そして悲鳴が一気にあがる。
そんな莫大な音を置き去りに、馬はかけ続け、兵站に狙いを定める。
「狙えっ!!」
俺の声に呼応して周囲の騎兵が雄叫びを上げた。
前をゆく敵兵の背中を裂き、槍で突き殺す。慌てふためいた敵兵は転がるようにして逃げ、歩哨の多くは恐ろしいものから身を隠すようにうずくまる。
行李を蹴散らし、本隊に合流すべく急いでいた馬車の目の前まできた。
車輪を狙いすまし、投げ槍を放とうとした時、馬車越しに重装騎兵隊が現れた。
太陽の照り返りの金属光で見えなくなるほどの重装備、さらに馬にまで頑強な鎧を着せている。そんな敵救援部隊に、血の気がひいていく。
救援までが早い、統制が取れている。いや、取れすぎている。ここまでオラール家の兵隊は精強だと言うのか。
「反転!! 退却!!」
刹那の判断。兵站まであと少し。ここで一戦交えるかどうか。それとも、被害を恐れて逃げるかの二択だった。
「退却! 退却!!」
味方兵士が声を掛け合い、隊列を崩さずに綺麗に反転を決める。
ついてくるかっ!?
振り返って後ろを見ると、敵兵は俺たちを追い払うと、陣形の回復に努めようとしていた。
窮地を脱したと言っていいのか、それとも窮地に陥ったと言っていいのか。どちらともわからないまま、ただただ逃げ出した。
***
ついに作戦が失敗してしまった夜。先に夜襲をしかけていた従士と、後から奇襲に参加した従士の二人を連れて、会議を開いていた。
俺は唇を噛みながら、声を出す。
「今日の奇襲は失敗に終わった。敵兵站を焼くことは出来ず、ただ無為に怪我人を増やしたばかりだったかもしれない」
後から来た従士の一人が「いや」と口を開く。
「たしかに失敗に終りましたが、クリス様の決断は正しかったと思います。俺たち後から来た組だからこそ分かることですが、無理して編成されて、この場に来たんですよ」
「つまりは、兵力を少しでも損なわなかったことは、大きい、と言いたいわけだよな」
頷きが返ってくる。だが、もう一人は顰めつらのままだった。
「いやクリス様この失敗は大きい。これが兵站を焼く最後のチャンスだったかもしれない」
そう言って続けた。
「今まで夜襲や奇襲を成功させてきたが、今回の敵の動きは早すぎた。まず、奇襲に慣れていた後方の兵士の壁に止められた。そして、力を蓄えていた前方の重装騎兵が救援に駆けつけるのも早すぎた」
俺も、戦いが日々困難になっていくことは、ひしひしと感じていた。だが、ここまでとは、誰も予想だにしなかった。
オラール軍は強い。数だけでない。力もある。並の諸侯相手なら、少数で敵兵を蹴散らすくらいのことやってのけるかもしれない。
よく考えてみると、当然の話だ。王と宰相を暗殺し、戦を起こそうと言うのに、その準備をしてなくてどうする。当たり前のことだが、訓練に訓練を積ませていたのだろう。
だが、それはこっちだって同じ。騎兵隊の動きは統率が取れ、尚且つ敵歩哨を蹴散らすだけの力があった。最後に決めた反転だって並の業じゃない。これもひとえに地獄のような訓練を受けていたからだ。
だとすれば、まだ戦えないわけじゃない。
あとは指揮官同士の戦いだ。俺の方が上か、それとも公爵の方が上手か。この行軍中での戦いはそこが重要な鍵である。
行軍を遅延させなければならないが、戦力の低下を避けるなら、今からもう引くべきだろう。
「なあ、お前ら俺はやれると思うか?」
尋ねなくてもいい質問を尋ねると、意外や意外に、すぐに頷かれた。
「正直、クリス様はいつも情けない姿ばっか晒してますけど、やってきたことは誇っていいんじゃないですか?」
「そうだな。クリス様はなんだかんだユリス様の訓練を耐え抜いてきているし、夜襲だって何度も成功に導いてきた。俺はクリス様だからついてきている節もある。いや、やっぱユリス様が怖いからだわ」
「お前ら、巫山戯てないでまじめに考えてくれ。よいしょはいらない」
こっちは真剣にそう言ったのだが、めんどくさそうな顔で口を開かれる。
「本気ですって。それにさっきの言葉のどこに忖度があったと思うんですか? ちょっとは嘗められてるところを怒りましょうよ」
「言う通りだ。おれも真剣にクリス様のことは買ってます。だから任せます」
それに、と後から来た従士は続けた。
「俺たちを無理して送り出してくれたんです。それは残った人間がクリス様に期待しているってことじゃないんですか」
暗に裏切るな、と伝えてきた。
それはそうかもしれない。向こうだって人手は喉から手が出るほど欲しい。それなのに、俺のため、アリス、領のためにと人手を割いてくれたのだ。
だったら、裏切るわけにはいかない。
なるほど。よいしょなんかじゃなく、厳しいことを言ってくれるじゃないか。
「よし、決めた。俺はまだ戦う。俺と敵指揮官の力比べに乗ってくれるか?」
するとそいつらはいい笑顔で頷いた。
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