奇襲
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夜襲を行ってから3日目。その日も戦いの最中にいた。
鬨の声を上げて果敢に敵兵に斬りかかる。辺り一杯に金属音が鳴り響き、激しい戦闘が繰り広げられている。
既にして奇襲は成功よりも失敗が増えていた。昼間にオラール軍の連絡係が奇襲に注意を促していたのだ。そのせいで、今現在も、奇襲に備えていた敵兵に反撃を喰らわされている。
ただそれでも、数刻戦うと、勝利を手にすることができた。士気の上がった子爵家の精鋭の力は凄まじく、2対1程度の不利ならものともせず、勝ちを収めるからである。
しかし、装備は至る所に傷跡がつき、怪我人も増えていた。三日の間に幾度も戦った。もう既に疲労困憊、満身創痍の状況だ。
当初、50人を編成していたのだが、まともに戦える人員は、36人まで減らしていた。重い怪我を負った兵士は軽い怪我の兵士に伴われ、ドレスコード領に帰還している。
さらに、物資も乏しくなっていた。夜襲の成功で敵兵から矢などの物資を奪えるとは言え、その数はめきめきと減っている。警戒されるにつれ、ある程度の打撃を与えた後に退却を迫られることが増えたからだ。
結果、物資の不足は白兵戦を挑む機会の増加を招き、怪我人が増していく、という悪循環に陥っている。
子爵家の精鋭はボロボロの様相を呈していると言って良かった。
「はあ、はあ」
体の重みに耐えきれず地面にへたり込んだ。大の字になって天を仰ぐ。雲がかかって星も月も見えない。ここ数日、雨が続いていた。雨に重みを増した鎧や衣服に、地面に縫い付けられそうになる。しかし、なんとか起き上がる。
休んではいられない。頬についた泥を拭う。
オラール家の分隊も奇襲されると知って合流を急ぐはずなのだ。
そう思った時、放っていた斥候が馬に乗って駆けつけてきた。
「クリス様、敵分隊は全て本隊に合流いたしました。明日にでも本隊は町から出て、行軍を開始するようです」
「そんな!? まだ三日だぞ!」
「ですが、確かです!」
俺は「くそっ」と吐き捨てた。
確かにオラール家の動きは早いと予想していた。それは、セルジャンが個々の町に分隊をわけ、それぞれが物資を持って行軍し、集結すると考えていたからだ。実際、その通りになり、こっちとしても少数相手に夜襲をしかけることが出来ている。
だが、思いの外、早すぎる。それほどまでに精強な軍隊だと言うのか。
たしかに、オラール軍は奇襲に対しての連絡手段しかり、規律統制が取れていた。よくよく考えれば、分隊が集結する戦略自体も並みの軍隊では不可能に近い。精強なオラール軍だからこそ為せるものなのかもしれない。
予想以上の敵軍の強大さを今更ながら実感する。だが怯え、恐れ、慄いても仕方がない。今はその軍団相手に何をして行軍を遅延させるべきか考えないといけない。
「……どうすれば」
苛立ちを抑え、必死に頭を回す。
明日にでも行軍を開始するということは焦っているとみていいのか。だとすれば、なぜ焦っている。急いでいいことはあまりないはず。いや、ある。もし仮にオラール家がこっちが野戦を挑もうとしていることを知っているのならば、焦る理由はある。
「もう既に、うちの軍は着工していると思うか?」
斥候に尋ねると頷きが帰ってきた。
だとすれば、十分に移動を早くする理由がある。オラール家自体も包囲戦を考えていたことだろう。そんな折、野戦の陣地を築いている報告が入ったのだ。数で勝るオラール軍が、包囲戦でなく野戦を行えるというのなら、これといった機会はない。ドレスコード家の気が変わる前に、野戦に持ち込みたいはずだ。
それに、急ぐ理由はまだある。工事に着手していることを知っているのならば、完璧な陣地を築かれる前に決戦したい筈だ。
オラール軍が先を急ぐと言うのなら、こちらだって付け入る隙がある。
「今すぐ、ドレスコード家に戻って、100人の騎兵隊を編成したら、何日くらいかかる? 街道沿いのこの地点の森に伏せさせる」
俺は懐から泥だらけの地図を取り出して、場所を指し示す。すると、斥候はすぐに応えた。
「恐らく、二日ほどかかると思われます」
「そうか、オラール家の先手は取れそうか?」
頷きが返ってきた。なら、遅延させられるかもしれない。
オラール軍が急ぐと言うのなら、行軍は縦に長くなる。それは、先について英気を養っていた兵士とギリギリにたどり着いた兵士との間で行軍速度に差が生まれるからだ。
急いでいるなら歩調は合わせず、最後尾が疲弊した軍。そして行李となり、つまりは兵站が伸びた状態に陥る筈。
そこを奇襲し、成功すれば敵軍は物資を失い、士気を大いに下げることになるだろう。さらに奇襲に怯え、行軍速度を落とすことにつながる。
だが、この作戦は極めて厳しい。
何しろ、ボロボロの36人と、急いで布陣しなければならず、疲弊しているであろう100人の騎兵で襲撃せねばならないのだ。失敗する可能性はいくらでもありうる。むしろ高いくらいかもしれない。
しかし、やらねばならない。勝つには完璧の防御陣地を築き上げて、迎え撃つしかないのだ。
俺は斥候に告げる。
「今すぐ、騎兵を編成して布陣するように伝えて欲しい」
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活動報告に詳細を載せていますので、見てくださるとありがたいです。





