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アリスと王女

新作『どうして今更傭兵に?』 https://ncode.syosetu.com/n3606gl/

テンプレの見せ方の原点に戻った作品です!どうかよろしくお願いします!


「私に演説をさせてほしい」


 扉を開けたのは、涙と雨でずぶ濡れになっていたアリスだった。


「今はそんな議論をしている場合じゃない。王女様にはわりいが下がってくれ」


 荒い口調で言ったハルを臆ともせず、凛としてアリスは答える。


「話は聞こえてきた。廊下中に響き渡っていたもん。聞くなって方が無理な話だよ」


「聞いてたなら、どうしてそんな事を言うんだよ。ずぶ濡れで……顔も酷い。メイドに言って風呂にでも入れてもらえ」


「濡れているのはクリス達だって同じ。それに私は役に立てると思って入ってきたの」


 アリスはそう言って、目を俺に向けてくる。その瞳には決意の強い光が点っているように感じた。


「私に演説させて欲しい。それで士気を上げて、労働者を戦地に行かせてみせる」


 息を呑む。泣きはらしたあとの枯れた声が身体中に響く。会議室は静寂に包まれ、足元がふわふわするような不可思議な感じ。淀んだ重苦しい空気が真っ白に書き換えられたような感覚を覚えた。


 出来るかもしれない。不思議にそう思えた。が、感覚とは反対に理性では不可能だと告げる。


「アリス、議会の演説とは程度が違う。議会には命がかかっていない、けど戦地に赴くとなると生死に関わる」


「それでも心を掴むことは同じ。私、父様が亡くなったことを理解して、本当に生きるっていうことがわかった。だからもう、私は皆の気持ちだってわかる」


 アリスの言葉の意味がわかる。それは、生きることに真剣な人らの気持ちが分かった上で、つまりは戦地に赴きたくない人らの気持ちを分かった上で、心を掴めると言っているのだ。


 本当に出来るのか? 


 今までの記憶が蘇る。失敗の連続、良くない記憶ばかりだ。だが、そんな記憶だけじゃない。


 学園でも、告白でも、一緒に逃げてくれた時だって、良くも悪くも心を動かされてきた。つい最近も、塔の中で心を揺り動かされ、再び演説を行うと決めたばかりだ。


 それはもう、心を掴まれていると言って差し支えない。いや、そこまでじゃないだろ。


 理性が精一杯の抵抗をする。


「演説を行うなら明日しかない」


 ユリスの方を向くと、頷きが返ってきた。


「野戦に決めるのならば、今日中に敵軍を遅らせるための夜襲の部隊を編成、明日には出立してもらわなければいけません。そして今日中に演説の布告、明日に実行でも……ぎりぎりですね」


 ユリスにハルは同意した。


「ああ。演説のあと工兵として編成、指揮を弟に取らせるとして、そこから二週間。……っかなり厳しいな」


 そう言った兄妹は「ただ……」とのちに言葉を紡ぎ、


「「無理ではない」」


 と続けた。


 暗闇の中に一筋の光が差した。それは、とてもか細くて、儚くて、薄い。けれども、どうしようもなく縋りたくなってしまう。


 アリスに目を向ける。雨に晒され、涙に目が腫れ、ただただ痛ましい。体も小さく、器量も大きくない。そんなただの、普通の少女に未来を背負わせるはあまりに酷だ。


「アリス、失敗したら、生きていられない。その意味を知った上で、演説しようと思えるか?」


 我ながら意地の悪い質問をしたつもりだった。だけど、アリスは何の動揺も見せずに涙声を強く発した。


「わかってる! それでも私は! 私は王女になりたい!」


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コミックス2巻6・26日に発売ですよろしくお願いします>
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