王女!
ピアゾン伯爵嬢に脅されてしまったが、釘を刺された訳では無かったので、恐らく彼女の自尊心を満たす為のものか人を虐げて喜ぶアレな人だったのだろう。
ここ貴族の外交として、無駄に脅すことは何の得にもなり得ない。むしろ、反感を買う恐れもあるからだ。
こう考えると少女は背伸びしたのではないか?
可愛けり、可愛けりと去りゆく双丘に想いを馳せた。
ふと王女の方を見ると挨拶回りの集団が少なくなっているのに気付き、さもハナから居ましたよ。とひょうひょうとした顔をして列に並んだ。
まえに並んでる貴族達はニタニタ顔と少し弾んだ声で大げさな身振り手振りをしてからキザッたらしいセリフを吐いて会場内に戻っていく。
うえぇ。あんなんやんのかよ…
やだなぁ、ちゃんと出来るかな。
俺は俯いて何度も頭の中で反復練習した。
そのまま列に流されるまま5度くらい歩き前を見上げると数人の前に並ぶ貴族と王女の顔があった。
王女はよく見ればサラサラの金髪に長い睫毛、スッキリとした鼻に紅くて形のいい唇をしていてめちゃくちゃ可愛い…… あれ? デジャブ?
その時、王女と俺は目があった。そして、王女は目を煌めかせ、ガタンと音を鳴らし立ち上がった。
「どうなさいましたか⁉︎」
「ご無事ですか王女様!」
王女を囲むように衛兵が集まる。
王女はなんでもないの!! と衛兵をなだめているが衛兵は取り付く島もない。
「おい!貴様何をした!」
衛兵が俺の前に並んでいる貴族に声をかける。
「俺は何も!」
「問答無用!」
「うわぁぁぁ!!」
前の貴族の人は衛兵に抱えられ連れて行かれてしまった。
アーメン。前の貴族の人。
この混乱に乗じて逃げだそう。さらばじゃ!
俺は、さっと人混みに紛れた。
はあ…… 王女がアリスだなんてな。
貴族とは思っていたが王女とは。そんな王女が城を抜け出してまで食べにくる唐揚げの魔力に敬服である。情が湧かないように今度からはマクベスに買いに行かせなきゃ。
すでに情が湧きだしているのを感じたがそれに頭を振り、情は無いと思い込んだ。
遠目で見る王女は衛兵の誤解を解き終えたのか。ホッとした表情をした後にあたりを見回し愕然としていた。
おそらく、俺を探しているのであろう。
見つかるのはまずい。ここで見つかりアリスが親しげな態度を出してしまうと周りの貴族のやっかみが凄い。
しかし、同時に社交界に来て挨拶もせずに帰るというのは外聞が悪い。
さて、どうしたもんか……
俺が考え込んでいると、桜色の少女、ミストがやって来た。
「やあ。ドレスコード子爵!君は王女の知り合いなのかい?」
「な、なんのことかな?」
俺が答えると少女はカラカラと笑って言った。
「まず、さっきの騒ぎがあった時に君が王女の視線の先にいた。そして、騒ぎに乗じて人混みに紛れていった。これはおかしい」
「視線はわかりますが、僕はただ驚いて逃げただけですよ」
「逃げる方向がおかしいんだ。他に逃げた方達は、衛兵の方に向かって逃げたのに対して、君1人貴族に紛れるように逃げた。これは、犯人の思考じゃないかな。木を隠すには森の中ってね。そして王女が焦って衛兵を宥めてたあたり単純に驚いただけでその後…いや今もキョロキョロしている。だから知り合いだと思ったんだけど違うかい?」
あってる。コナ◯かこいつは ……
「正解です」
「そうだね。でね君を王女に突き出しても良いんだけどひとつ頼みごとがあってね」
「頼みごと?」
「ああ。君とウィンウィンになる事だから安心してよ」
全く安心出来ないんだが……





