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宝具

コミカライズ版もよろしくお願いいたします!

https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_AM17201641010000_68/

 オラール家の軍勢とアルカーラ家の軍勢で小競り合いを始めた。オラール軍は先ず、本隊よりも大きな分隊と中央諸侯でアルカーラ家を攻めた。オラール軍本隊は、小分けにされた軍勢を徐々に集合させつつ、三週間後には完全な状態でドレスコード領内を闊歩しようとしている。


 それが今朝入ったひとつ目の情報。そしてもう一つ入った情報、いや得たものが、ドレスコード家を大いに揺るがしていた。


「北方の貴族をハート家が仲立ちに入り、中立を約束させました。そしてもうひとつ、先代様からこちらを」


 領主室に入ってきたユリスに、北方貴族からの誓約書と共にピアスを渡される。そのピアスは水色の小さな宝石がついていて、慎ましくも絶対的な美しさ放っていた。


「ユリス、これは直接受け取った?」


「いえ。こちらは先代様からの手紙に入っていました。ただ、これを王女にとだけ」


 父から受け取ったのは間違うことなき宝具である。それも、王家の宝具だ。


 どうして持っていたのか。そんな疑問に囚われざるを得ない。


 たしかに父は宝具を求めて手中に収めていた。でもそれは、前王家の宝具、グモド王家の宝具ではない。


 前王家の宝具を手にするついでに見つかったのか、いや、それはない。王と宰相が暗殺されたのは突然のこと。死ぬまで宝具を手放すことはないはずだ。そもそも、それ以前に父はハート家に身を寄せていた。なら、考えられるのは、王が自分の死期を予期して、父かハート子爵に託していた可能性。


 だが、そんな馬鹿な話があるか。父とハート子爵と王の間に関係あるなしに考えてだ。王が自分への暗殺を読めていたとしたら、何らかの手を打てた筈。いやだからこそ、暗殺を予期して国外に王族を逃していたのか。


 だとすれば、アリスはどうして国内に残されたのだろう。国王からの寵愛を受けていたことに疑いはない。だから、アリスの存在がどうでもよかったわけない。だったらやっぱり、アリスを危険に巻き込むと知っていたなら、暗殺を未然に防いでいたはずだ。


 わからない。全くと言って答えが出てこない。


 否定しては肯定し、肯定しては否定しを繰り返しているうちに、そもそも宝具が本物か疑わしくなってきた。


 もし仮に本物であれば、考えることは色々あれど、絶対に考慮すべきことがある。それは、他国にいる王族は単なる留学、嫁ぎ先が目的ではないということだ。


 暗殺されることを事前に飲んでいたとするのなら、諸外国に何らかの事情を伝えていることだろう。そして宝具が外国ではなく、我が家に送られてきたということは、アリスを女王にするつもりだったのかもしれない。ただそれは、死刑宣告をされたことに他ならない。


 うちは他国からの援軍をあてにしているのだ。援軍のない籠城など、ただ死を待つ病棟である。


 王位が既にして定められているのに、他国は援軍を送ってくるだろうか。そう考えると、全身から汗が吹き出してきた。


 未だ他国からの手紙は届いていない。使者を送ってかなりになる。嫌な予感がぐるぐると体内を渦巻き、吐き気まで催してきた。


「ユリス、とにかくこの宝具が本物かどうか確かめよう」


「ええ、そうしないと話が始まりません」


 深刻な空気の中、アリスの部屋を訪ねる。


 アリスはベッドから身体を半分だけを起こし外を見つめていた。倒れてから数日が過ぎ、既に体調は回復していたが、それでも無理をさせていないのは大事をとってのことだった。


「どうしたの? 二人とも?」


「実はアリス、宝具が届いたんだ」


 アリスは「宝具?」と首を傾げた。しかし、俺がピアスを差し出すと、目を丸く見開いた。


「父様の!? どうしてここに!」


 動揺し、詰め寄ってきたアリスに事情を説明する。


「父から今朝送られてきたんだ。どうして、父が持っていたのかもわからない」


「そうなんだ……」


 宝具を差し出すと悲痛な面持ちでアリスは受け取る。


「本物かどうかわかるか?」


「多分、本物だと思う。でも、違うかもしれない」


 そう言ってアリスは俯いた。


 使ってもらうしかない。だが、結果として、アリスに再び父の死に向き合わせることになってしまう。


 逡巡したが、使ってもらうことに決める。


「アリス、その宝具を使ってもらっていか?」


 アリスは悲痛な面持ちを向けてきた。だがすぐに、こくりと頷いた。


「わかった。どうすればいいの?」


 ユリスに目を向けると、ユリスは口を開いた。


「グモド王家の魔法は、雨を降らす魔法です。外へと場所を移しましょう」


 ユリスの言葉に従い、屋敷の庭に場所を映す。空は薄くかかった雲が一杯に伸び、太陽を覆い尽くしていた。明るくもなく、暗くもない、奇妙な天気。雨特有の匂いはなく、風で運ばれてくる竈門の煙の匂いが漂っていて、今すぐに雨が降る様子はなかった。


「雨を降らす想像をしてください」


 ユリスが言った。アリスはピアスを耳につけ、目を瞑る。すると、ピアスを中心に水色の幻想的な光が放たれた。


 雲が流れ、重い灰色の雲が垂れ込んできた。そして、ぽつぽつと水滴が肩を叩き、やがて岩を砕かんばかりの豪雨が俺たちに降り注いだ。


「本物か……」


「どうやら、そのようですね」


 雨に振り付けられながら、俺とユリスはそんな言葉を交わした。一方のアリスは、雨に負けることなく天を仰いでいた。


「父様、本当に死んじゃったんだ。父様もみんなも生きたかった」


 アリスの顔を伝うのは薄黒い水滴ばかりでなく、光り輝く水滴も混じっていた。


 悲痛なアリスの姿を見て思う。以前のアリスは王の死なんて気にしていなかった。だが今はどうだ、歯を食いしばりくしゃくしゃな顔で父の死に心を痛めている。それは、『生きることに真剣』その言葉の意味、真理を覚えたからかもしれない。


 土砂降りの雨の中、どうしてか動けないでいたその時、つんざくような声で名前を呼ばれた。聞こえた方を向くと、諸外国に送った使者の姿があった。


 使者は、身に纏うもの全てに切れ込みが入っている。所々は完全に破け、傷口が見えている。息を切らし、膝に手をつきながらも顔を上げ使者は口を開いた。


「亡きグモド王との約定により、王子を国に戻すことはない、とのことです……!」

新作 どうして今更傭兵に?https://ncode.syosetu.com/n3606gl/

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コミックス2巻6・26日に発売ですよろしくお願いします>
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