社交界、怖い
俺がハート子爵に何人か顔繋ぎして貰っていると会場内には既に高位の公爵、侯爵、伯爵の人間が続々と入場し始めている。
それに伴い多数の下級貴族はそわそわとし始めた。というのも下位貴族は上位の貴族と関係を持つ事が社交界での最も大きな目標である。
しかし、社交界でのマナーとして自分より身分の高い貴族に対して話しかけるのは違反とされている。そのため、はやる気持ちを抑え、高位の貴族からのお声掛けを待つしかないのである。
その為、全ての貴族は今からが社交界の本番となった。
もちろん、俺も例外ではない。ドレスコード領を囲むアルカーラ侯爵家、ピアゾン伯爵家、オラール公爵家の3つの大貴族家に対して攻められないよう友好を築くことが目的となる。
それも3家と平等に友好関係を築かなければすぐに攻め滅ぼされるであろう。今、我が家はまるで三権分立のような3家の力の釣り合いによって平和が保たれているにすぎない。
と言うわけで俺もそわそわしてる人間の一員なのである。
「これで、儂が紹介できる方はもうおらぬ。儂の人脈の無さにお恥ずかしい限りじゃ」
ハート子爵がすまなさそうにいった。
「いえいえ。充分すぎますよ。本当にありがとうございました!」
「お役にたてたならば幸いじゃ。それではまた今度お主の領の我が子達に宜しく伝えてくれ」
「承知しました。それでは」
ハート子爵は手を振って去っていった。
ハート子爵と別れまた暇になってしまった。いつ話しかけられても良いように気を張り1人で優雅に振舞っていたが、誰も声かけてくるものが居らず寂しさとあまりの所在無さに端っこに行こうと決めた。
はあ、なんだか息がつまるな。やっぱり俺はこういうところは向いてないや。このまま終わるまで端っこにいよう。
1人で隅でボソボソと美食に舌鼓をうっていると会場が少し騒がしくなってから静まった。
「今日は第2王女アメリシア殿下の成人式にお集まりくださりありがとうございます。グモド陛下と第2王女アメリシア殿下の入場です」
どうやら、王と王女の入場が始まったようだ。
「なんて美しい絹のような髪なんだ!」 「美しく暖かい海のようなブルーの澄んだ瞳にすいまれそうだわ!」「天使はここにいたのか!」
隅っこにいるから見えないが、周りの感嘆の声を聞く限り相当な美人なのだろう。
皆は早速、王女の方に集まっている。
浮かないように俺も最後尾に混ざっておこう。
「本日は、私の成人の誕生日にお集まりいただきありがとうございます。僭越ながら些細な美食などご用意致しましたのでどうかごゆるりと楽しんで行ってください」
王女の綺麗な声のスピーチが終わると拍手が起こり貴族達が挨拶を交わそうと余計に前のめりになった。
というか、何か聞いた事ある声だな。まぁ、いいや。そのうち潰れるか滅ぼされる王家の人間にそう親しくなる必要は無いし、後で人が空いてから形だけの挨拶をしよう。
俺はまた隅に戻って行った。隅に戻ると俺と同じように隅に桜のような色の髪の、おだやかな美しい瞳を持ち、大きな双丘を抱えた美少女が巧みに盛り付けられた料理を食べていた。
彼女は俺に気付いたようで、一瞬目を丸くした後に皿を置き興味深げに近づいて来た。
「少し時間いいかい?」
なんの躊躇いもなく俺に話しかけて来たという事は相当なお嬢様なのかな?
「ええもちろん。貴方のような女性とならば時間が無くともつくって参ります」
「これはまたお上手で」
少女はからからと笑った。
「私はミスト=ピアゾンと申します。一つ質問宜しいでしょうか?」
ピアゾン!?ピアゾン伯爵家か!
最初に頭の悪そうなこっぱずかしいセリフなんて言うんじゃなかった。扱いを間違えられない。きんちょうしてきたぁ〜。
「これはこれはピアゾン伯爵様のお嬢様でしたか。私の無知をお許しください。私はクリス=ドレスコードと申します。私に答えられる範囲ならいくらでもお教えしましょう!」
すると、ミストは苦い顔して口を開いた。
「君は子爵。私は伯爵の娘でしかない。貴方が私にかしこまっていたら外聞が良くないじゃないか。もう少し砕けた言葉で話そう」
自分と同世代(20下)位の女の子に諭されるとは…
もうやだ!恥ずかしい!
「わかりました。それで質問とは?」
「うん。まあ、君の名前を聞いて確信はしたけど一応話を聞いておこうとおもってね。なぜ、王女様に会いに行かないのかい?」
どう答えたら正解なんだ?
まさかそのまま王家は、オワコンだからそんな急がなくていいや〜と言うわけにも行かない。
「ふふっそこで言葉につまった時点で私の予想は正解だったみたいだ。貴方は先が見えてるのね」
ば、ばれて〜ら……
「な、何のことですか?」
「それに貴方が子爵になってからドレスコード家が力をつけ始めるほど優秀。その上、先までしっかり見てるなんてこの上なく厄介」
「か、家臣のおかげですよ……」
「まあ、そういうことにしておくわ。先で熟すとしても採れなくなるなら今の内に収穫しちゃおうかしら」
「な、何の話ですか?」
俺がそういうと彼女は俺の耳元で「家の隣の果実のことよ」と妖しげに呟いて去っていった。
何この少女怖え〜〜!!





