まずは、戦力差を広げないこと
泣きそうな、涙目の、泣いているハルから目をそらし、俺は話を切り出す。
「で、大きく二つあるうちの一つ、戦力差を広げないことについてだけど、まずは北方を抑えたいと思う」
この提案の意図は三つある。
一つ目は、宰相側に味方していた北の諸侯の南下を防ぎ、北とオラール家に対応しなければならないアルカーラ家の負担を少なくすること。
二つ目は、戦況が厳しくなったアルカーラ家が、王女よりオラール家を選ぶことを防ぐ目的。
そして、負担が少なくなり、戦況に余裕ができたアルカーラ家に援軍を送ってもらうことだ。
「北方ですか……」
ユリスは唇の下に人差し指を添えた。
「どうかした?」
「いえ、クリス様のお考えはわかります。ただ、優先的にやる意味はあるのでしょうか」
「と、言うと?」
「北は今回の戦いに対する興味は薄く、例え懐柔できたとしても、オラール家に対する牽制や援軍は期待はできないでしょう」
ユリスの言葉にハルとジオンが同調した。
「そうですね。前王家の時代には中央の影響力も大きかったそうですけど、グモド家になってからは、最北の勢力なんて王家を王家と思っていないようでしたし」
「北の中でも中央によっている諸侯は、一応、グモド家に恭順の意を示していたがなぁ。だが、多分、すぐ下のオラール家派に攻められることを嫌って、日和見を決め込むだろうさ」
報告書にあったので、北の情報は知っていた。ユリス達の言っていることは間違いないし、優先的な事柄ではないかもしれない。ただ、アルカーラ家が敵側についた時点で終わりなのだ。詰むかもしれない問題を、放置しておくわけにはいかない。
「でも、北方を無視するわけにはいかない。オラール家も北方を気にせざるを得ない状況なんだ。懐柔されて敵の戦力が増えることは避けたい」
「確かに僅かな可能性であれど、排除しておきたいですね。ですが、懐柔の方法はどうされるのですか? それ相応の報酬がなければ、靡きませんよ」
「それは、金で何とかしようと思う」
「金銭……ですか? まあ、うちが差出せるものは金銭だけでしょうけど、相当な額の支出になりますよ。これから嵩んでいく戦費を考えれば、僅かな成果のための出費は避けた方がいいのでは?」
ユリスにハルも同意した。
「そうだぞ。懐柔しなきゃならないのは、北方だけじゃなく、オラール家の中央や、西の王家の影響下にある貴族も同じだ。全てに対して金で解決しようとすれば、溜め込んでる金だけじゃ足りねえぞ。借金しねえと、とてもじゃないが、やっていけねえ」
ハルの言葉に、ユリスは首を振る。
「借金は難しいです。負ければ踏み倒されるというのに、大きな額を貸してくれる商人を見つけることは困難でしょう。仮にできたとしても、綻びが出ます。籠城するのですから、士気を保たないといけません。莫大な負債があるという事実が、士気に影響することは避けられないでしょう」
二人の言っていることは最もだ。だから、その問題を解決するための方法も考えてきた。
「うん。だから、臨時で徴税しようと思う」
そう言うと、ジオンは首を傾げた。
「臨時で徴税しようとすれば、領民たちが叛意を抱くんじゃないですか? 姉が言っていたように、士気を下げては籠城することができませんよ」
「大丈夫。普通にすれば難しいけど、幸いうちは、領民に稼ぎがあるし、商会だって沢山ある。何と言っても、王女がここにいるから、協力はとりつけ易い。運がよければ、全員の士気だって上がると思う」
そう言った後、ジオンもハルも要領を得ない顔をしていたが、ユリスだけは考え込むように指を唇に添えていた。
「……いいのですか?」
ユリスは少しして、そう尋ねてきた。
「まあ、この先、ずっと先どうなるかはわからないけど、今は目の前のことに集中しないと」
そう言うと、ユリスはため息をついた。
「わかりました。金銭を確保する手段はあるにしても、費用を削減するに越したことはありません。北方の件、実家に掛け合ってみます」
今更ながら、全員が北方事情詳しいわけがわかる。
「ああ、ハート子爵家は北の方にあるんだっけ」
「はい。うちは、子爵家と言っても、前王家の側近であったようなので、北の貴族達に顔が利くんです」
「じゃあ、北の件はユリスに任せてもいい?」
尋ねると「お任せください」とユリスは頷いた。
「ど、どうしたんだよ。面倒そうなことなのに、やけに素直に受けるじゃないか? も、もしかして、クリス様が言っている徴税はもっと……」
ハルがそう言うと、ユリスはただ「頑張ってください」と告げた。





