表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
192/229

ミストも帰宅

3巻早い所では発売されているそうです。よろしくお願いします。

 クレアに色々と吸い取られ、へたってしまっていた。だがいつまでもそうしている訳にもいかず、仕事に取り掛かる。


 ユリスから上がってきた報告書から、計画の資料をすぐに作る。再びユリスに回して、確かめてもらう。今度はハルにまとめてもらった資料について同様の作業を行う。ユリスから返ってきた資料に情報の不備が見つかるが、不足した情報は上がってきておらず、急いでハル達に収集するように指示を送る。待ち時間に、文官達が行う通常の業務を引き受け、情報が来る前までに終わらせる。


 そんな作業を繰り返し、オラール家への対策を進めていると、日は既に暮れていた。どうやら今日中には終わりそうもない。


 ああ、要領が良くない。もっと効率よく進められる形を考えないと。


 そう思うが、慣れない事は多忙な時にすべきではない。今はこの形のまま急ぐのが最善だろう。


 メモにその旨だけ書き残しておき、素早く資料作りに戻る。再びペンを走らせていると、忙しなく廊下を歩く音が聞こえてきた。足音が部屋の前で止まるとすぐに、扉が開かれた。


「クリス様、夕食になります」


 ユリスが皿を乗せたトレイを持って部屋に入ってきた。


「もうそんな時間?」


 ユリスは「はい」と答えて、机の上に皿を置く。皿の上にはサンドイッチが乗せられており、片手でポーカーができるように片手で仕事ができる夕食だ。丁寧に手が拭けるようのナプキンまで用意されている。


「ねえ、ユリス? 今朝も昼もサンドイッチだったと思うんだけど……」


「早く別のものが食べたいですね」


「いや、ユリスがメニューを決めてたと思うんだけど……」


「それが何か?」


「……ごめん」


 俺はこれ以上突っ込んで、虎の尾を踏まないように謝っておく。


「それと子爵家宛に手紙が届きましたので」


 そう言ってユリスは手紙を差し出してきた。


 受け取って眺める。封をする蝋にはピアゾン家の家紋が押されていた。


 ミスト宛だろうか。そうだとしたら、なぜ、ミストが無事で、ドレスコード領内にいると知っているのか。


 疑問を抱えたまま、封を開けて中身を取り出す。内容は、数週間前に、国境近くの帝国領で臨時の課税が行われた、とのことだった。ミストの名前などはなく、周辺諸侯に向けての警戒を促すことが目的のようだ。


 ただ、険悪な状況にあるアルカーラ家にも手紙を送っている、と書いてあり、ミストの行方を知りたがっている節も感じられる。


「内容は?」


「帝国領で臨時の課税があったって」


「帝国側も動く準備を始めているようですね」


 ユリスはそう言って「どうされますか?」尋ねてきた。


「取り敢えず、ミストに手紙を持っていってから考えるよ」


 ***


 ミストが泊まっている部屋の前に立ち、扉をノックする。返事が来たので、扉を開いて部屋に入った。


 燭台に灯した炎がぼんやりと光を放ち、室内は顔が見える程度の明るさを保っている。ベッドに腰をかけたミストは、手で髪を抑えている。さっきまで眠っていたのか、手からはみ出た髪が跳ね上がった。


「何かな?」


「そこまで髪を気にしなくても」


「じゃあ、夜に突然女性の部屋にこないで欲しいなあ」


「そ、それはごめん」


 俺がそう言うと、ミストは髪から手を離して笑ったので、からかわれたのだと理解する。上手く嵌められたようで、何となく悔しい。


「それで、クリス君は何の用で来たのかな?」


「夜這いに」


 仕返しでそう言うも、ミストは「じゃあしよっか」と笑って返されたので、諦めて本題に入る。


「ピアゾン伯家から手紙がきてさ」


「うちから?」


 俺はミストに手紙を渡す。するとミストは立ち上がり、燭台の元へと歩き手紙に目を通した。


「なるほどねえ。早く帰ってきてって、催促されているみたいだ」


「ミストがここにいるとわかって?」


「多分ね。学園から逃げる手段は用意してたから、皆は私が油売っているせいで、中々帰ってこない、と思ってるんじゃないかなあ」


「で、手紙を送ったってことは、待ちきれなかった、ってこと?」


 尋ねるとミストは頷いた。そして「情けないなあ、もう」と言って、俺に目を合わせてくる。


「クリス君、すまないけど、私も帰らせてもらっていいかなあ?」


「体調は大丈夫?」


「うん、もう元気だよ。それに馬車に乗って帰るだけだから」


 体調に問題がないのなら、俺が止めることはできない。


 ミストには周辺諸侯を纏めて、帝国が差し向けてくる軍を阻んでもらわないといけないのだ。本音を言うと、会議には参加して欲しかったが、無理を聞いてもらって準備を遅らせるわけにはいかないだろう。


「わかった。多分、今日は無理だろうけど、明日には出発出来るよう準備するよ」


「急にすまないね」


「大丈夫。ミストがいると嬉しいけど、家の人間も優秀だから多分何とかなるよ」


「曖昧だなあ」


 ミストはそう言ってからからと笑った。


 それから何でもない言葉を少し交わしたのち、俺は「じゃあ伝えないといけないし」と告げて、ミストに背を向ける。すると、服の裾を掴まれた。


「どうかした?」


「……もう行くのかい?」


 ミストが上目遣いで切なそうな瞳を合わせてくる。しかしすぐに裾からパッと手を離して笑った。


「あはは。なんて、冗談だよ。ドキドキした?」


「冗談じゃない癖に」


 ミストの顔がみるみる赤に染まっていく。ついにはミストは俯き、少しして「……仕返しかい?」と伏し目がちな目を向けてきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。



hsub8z5zdno020cehytofvvfdchw_iga_9s_dw_2
コミックス2巻6・26日に発売ですよろしくお願いします>
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ