王女3
遅れましたすみません。
「でさ、ちょっと冗談に逃げちゃったけど、私はそういう普通の女の子なんだよ。だからもっと泣いてもいいんだろうけど、どうしてもさ、現実に起こってることとは思えなくて」
そしてアリスは美しい水色の瞳をまっすぐに向けてきた。
「何でなんだろうね?」
「う〜ん……」
アリスは父の死を事実だと受け止めている。その上でそれが本当のことだと感じられていない。
一見矛盾しているようで、筋が通っている。どうしようもなく難しくて、易々と答えが出てこない。
そもそもアリスは、言うように普通の女の子なのだろうか?
自分が特別視しているから、そんな疑問が浮かぶのかわからない。だが、すっきりとせず、尋ねてみる。
「あのさ、仮にアリスが、何もないって言うなら、王女の肩書きに縋ったりしないの? 普通の女の子ならそう言う部分ってあると思うんだけど」
アリスは「性格悪くない? まあいいけど」と言ってから答える。
「私はちゃんと縋ってたよ。だから、王女に対してって、怒れるし。いや、何言ってんだろう私」
「わかるよ。王女って部分に何も思い入れがなかったら、怒れないって事だろ?」
そう言うとアリスは頷いた。
アリスは普通の女の子なのかなあ。俺が単純に、仲の良い友達に対して、変わってるやつだ、と思うみたいに、特別視しているだけのようだ。
でも、そうだとすると、俺はアリスを特別視している。だから、アリス自身が自分に普通の女の子という評価を下しているだけのように思う。
そんなモテない哲学教師のような考えに陥っていると、アリスは大きく伸びをした。
「うーん! まあいっか!」
「え、いいの!?」
「クリスがわからないなら、私が考えてもわかんないし! それがわかっただけで、悩みは解決したようなもんだよ!」
たしかにアリスの言ってることはわかる。考えても答えが出ないから悩むのであって、考えることを放棄すれば、悩まない。でも、このまま放っておいてもいいのだろうか。
「ごめん、もうちょっと時間を貰えたら……」
俺がそう言うと、アリスは狼狽した。
「や、やめて! 自主的に私の為に何かされるのって、慣れてないから何かやだ!」
「いや、王女なんだから、慣れてない筈ないだろ」
「違うじゃん! 王女の為にするのと、私の為にするのとは違うじゃん!」
アリスの言葉を聞いて胸がキュッと締まった。
俺は立ち上がってアリスの元へと歩く。
「え、え、えクリス!? 何!? どうしたの!?」
戸惑うアリスに構わず、椅子の背ごとぎゅっと抱きしめた。
「いきなりハグ!? ど、どうして!? いや嬉しいけど何で!?」
「いや、アリスを抱きしめたくなって」
「だからそれは何で!? そうなったのはわかるけど!?」
「ごめん、何となく」
「え、えー」
嬉しさと戸惑いが混ざった微妙な表情のアリスを、俺はしばらく抱きしめていた。
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