現状
全ての燭台に炎を灯していたが、会議室は尚も暗かった。ロ型に並べた長机に、等間隔で離れた椅子。そこに、アリス、クレア、そして子爵家の面々が席についている。隣の人間と小さな声で話したり、何をするでもなく、机の木目を見てぼーっとしていたりして、各々が会議の始まりを待っていた。
扉が開き最後の一人であるミストが部屋に入ってきた。ミストは空席だったアリスの隣の席に座り、俺を見てきた。すると、他の皆も顔を向けてきたので、俺は立ち上がって口を開く。
「集まってくれて、ありがとう。今から会議を始める」
全員の顔を見回すと、皆真剣な表情をしていた。
昼間、ハルに告白した影響はない、と言い切ったが、不安な気持ちは抱えていた。だがその心配は無用だったようだ。皆、気持ちを切り替えており、今後を決める会議に真剣な様子である。
「いきなりだけど、まずは現状の共有をしたいと思う」
そう言ったは良いものの、気持ちが重く言葉が軽く出てこない。
アリスを見る。逃亡中に状況は説明したが、再び、王の死、つまりはアリスの父親の死を告げることになる。山道を進んでいる時には、沢山の問題があて考えている余裕がなかったのだろう。だから悲しんでいるそぶりは見せていなかったのかもしれない。
だけど、今はもう違う。俺が話すことにより、父親の死と向き合わせてしまうことになるかもしれない。
ただ、躊躇っているわけにはいかない。避けられない道だ。これ以上、長引かせるのは誰にとっても良くない。
俺はアリスから視線を外し、しっかり前を向いて口を開く。
「オラール公爵が差し向けた暗殺者、セルジャンによって、王と宰相が殺された」
横目でアリスの表情を窺う。反応は変わらず、会議を始めたときのままだ。
「それはオラール公爵が、王位に着くために仕組んだ策だ。だが、公爵としてはアリスが逃げたせいで、計画は狂っている。そこで今どうなっているか、ユリスの方から話してもらう」
ユリスは立ち上がり「今のクリス様のお話を踏まえまして、推測も交えながらお話していきます」と前置きして話し始めた。
「現在、オラール公爵は、我々を暗殺の首謀者、と声明を出しています。ですが、我々を攻めるに至ってはおりません」
クレアが「まあそうだろうな」と口を開く。
「王と宰相という、両派閥のトップ、加えて王女の行方不明といった事態に、国内の貴族家が混乱しないはずがない。そこで、いきなり戦争をするから力を貸せ、と言われても、相手はアルカーラ家にピアゾン家。情勢が掴めないまま、そう簡単には動けないだろう」
クレアの言葉にユリスは頷いた。
「はい。ですので、今すぐに戦争が起こることはありません。ですが、いずれ起きてしまうことには変わりありません」
「時間と王女。その二つだね?」
今度はミストが口を挟み、ユリスはまたも頷いた。
「その通りです。現在、アメリシア様以外の王族の方々は外国に出ています。王の死が国外に届いているかどうか、そしていつ帰ってくるかは私達には知るすべがありません。何より、王族側だった方が呼び戻すとしても、混乱の最中です。どこに戻すかの場所が定まっていません」
「そこで王女が旗になれば、どこに戻ってきていいか、はっきりするわけだ」
「アルカーラ様の言う通りです。その旗が立ち上がった時、国内は王族側とオラール侯爵側に分かれることになります。さらに、我々を、王女を攫って擁立しようとする悪と断じて宣戦されるかもしれません」
ユリスは「次に時間です」と告げる。
「現在、公爵は、王と宰相のいなくなった王家を纏めようとしています。それが成れば、公爵は王家を牛耳り、次代の王として我々を罪人に仕立て上げ、他の貴族に命を下すことができるようになるでしょう」
「王女や王族の生き残りは、公爵にとって憂いにしかならないからな。こっちが服従の意を示しても、攻めてくることは変わらないか」
「はい。公爵のことを犯人だと気づいている貴族家は消しておきたいはずです」
「結局、戦争は避けられないようだな。ミスト、どう思う?」
クレアが尋ねると、ミストはからからと笑う。
「変わらないよ。元々、宰相派と王族派で戦争だったんだ。それが、オラール家か王女かに変わっただけ」
「そうだな。変わったわけだよな」
そう言うとクレアは、俺の方を向いた。
「クリス。会議はこれから、今後どうしていくか、という議題になっていくと思う。だが、私はそれを聞けない」
「ありがとう、クレア」
クレアの言葉の意味がわかり、俺は礼を言った。
クレアは侯爵家の人間だが、所詮は長女に過ぎない。侯爵ではないのだ。だから、勝手に王族側としての行動はできない。それでも、仮にアルカーラ家が公爵家についた時のことを考えて、俺たちの不利にならないよう聞かないようにしてくれたのだ。
「すまないな、クリス。クリスについてきて、結果的にアルカーラ家を公爵家の敵に回しておいてなんだけれど、私の意思はクリスの元にあるが実家の意思はない」
「大丈夫だよ、クレア。わかってる」
「くりしゅ……」
一瞬、甘い雰囲気が流れたが、すぐにわざとらしい咳が3つも聞こえ、そんな空気は消し飛んだ。
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