閑話1 女性陣
閑話について、時系列、くちゃくちゃになるかもしれません。あとで並べ替えるかもしれません。
領主館の一室を与えられて2日目。私とアリスはテーブルを挟んで向かい合わせに座っていた。
「はあああああああああ」
アリスは大きな溜め息をついて、テーブルに上半身を伏せて腕を伸ばす。このまま萎んでしまいそうなほど大きなため息、ぐたっと溶けたような体勢、このまま消えるんじゃないか、と思う。まあでも、そんな事はあり得ないので、私は嗜めることにする。
「おい、テーブルの上に寝そべるな。はしたないぞ」
「だって〜〜〜」
アリスは顔も上げずに不平を垂れてきた。
「わかる。気持ちはわかるが、他家のテーブルに寝そべるな。礼節を知らないのか?」
「だって〜〜〜!」
「気持ちはわかる。だがな、自分の状況というのは、人には関係ない。ここは礼節を守るべきだ」
「だって〜〜〜〜〜!!」
尚も顔は上げないくせに、不満の声を上げるアリスを見ていると、真面目でいる自分が馬鹿らしくなってきた。この部屋には二人しかいない。そんな状況で、私が王女を嗜めてやる必要はあるのか、いやない。そもそも、私も『だって〜〜〜』と駄々捏ねて、『クリスちゅきちゅき、私だけを見てよぉ』と甘えんぼしたい気分なのだ。
うむ、そうしよう。
私はアリスの上に重なるように上半身を伏せた。そして背中に顔を埋め、鼻頭を擦り付ける。
「ううぅ〜〜! クリスぅ!」
「ごめん、クレアやめて! 私が悪かったからやめて!」
アリスを無視してずっとやっていたが、部屋の外から足音が聞こえて、すっと起き上がる。するとすぐに、ノックが聞こえ、扉が開かれた。
「お嬢様方、お茶をお持ちしました」
メイドが入ってきた。銀髪の美しい女性で、一介のメイドとは思えないほど、高貴な雰囲気を身に纏っている。
本能的に畏れのような感情を抱き、丁寧に礼を言う。
「有難うございます」
「ありがとう!」
私とアリスが礼を言うと、メイドはティーセットのワゴンを運びながら口を開いた。
「いえ、お客様を饗すのは当然のことですので。当然の事ですので。ええ、当然のことですので」
「なぜ三回言った?」
「お気になさらずに。そんな事より、お茶をどうぞ」
メイドはそう言って、優雅な所作でカップに茶を注ぎ、私に差し出してきた。
思うところがないわけではない。だが、なんとなく不穏なものを感じて、素直に受け取ることにした。
カップを手に取り、茶を飲む。茶葉の香りは高く、ほんのりと甘い。丁度良い濃さで、渋みとはかけ離れた清涼感があり、とても美味しい。
アリスにもメイドは差し出す。しかしアリスは、手でそれを遮った。
「あの、明らかに話を逸らしたよね?」
「何を言っているのですか。頭弱めですか。さあ、お茶をどうぞ」
「ん? なんか、暴言混ざってなかった? 気のせいだよね?」
「貴方に至っては、気にしてみてはいかがでしょうか。さあ、お茶を」
「待って、なんで私にそんな強気なの!? おかしくない!? こんな事言いたくないけど、私王女よ!?」
「何か気に触ることをしましたでしょうか?」
「何で心当たりがないの!? どんだけ優しい人達に囲まれてきたの!?」
関わりたくなくて、黙ってお茶を飲む。
窓の外に視線を移し、心を鎮めるため、ぼーっと空を眺めた。しかし、アリスとメイドのやり取りは、いつまで経っても絶えず、厭わしくて仕方ない。こんな時は、クリスの声真似をして、一人二役のイチャイチャごっこで気分を晴らすのだが、それも公の場ではできないだろう。
私は溜め息を吐いて、仲裁に入る。
「まあまあ二人とも、そこまでにしておかないか?」
私がそう言うと、アリスは疲れた様子で「それもそうね」と言った。
「もうこれ以上体力使いたくないわ。本当、何もしたくないくらいに凹んでいるのに」
アリスが溜め息を吐くと、メイドは不思議そうに首を傾げた。
「凹んでいる? どういうことですか?」
「そうね。貴方みたいに無神経な人の方が、愚痴を聞いてもらうにはいいかも」
アリスはそう言って、話し出す。メイドの眉がピクリと動いたのを見逃さなかったが、気づかなかったことにして、耳を傾ける。
「いやね、私達はさ、クリスに告白したんだよ。で、誰か一人を選んで欲しいーって」
さらにメイドの雰囲気が険悪になる。私は妙に具合が悪くなってくる。だが、クリスに看病して貰って、そのままベッドに引きずりこむ妄想をすることで耐えた。
「それでどうなりましたか?」
「好きだーって言われた」
さらにさらにメイドの雰囲気が悪くなる。もの凄く恐ろしい。クリスに告白されたのは自分もであるが、何となく話に出さないでくれ、と切に願う。
「それ自体は嬉しいんだけど、クレアにも同じこと言ってるの。別にクリスが本気で好いてくれているのも伝わったんだけど、私は選んで欲しかったーって」
「惚気ですか?」
その声は酷く冷え切った声だった。私にも視線を寄越してきたが、カップに唇をつけて気づいてないフリをする。お茶は残っていなかったが、それでも唇をつけた。
「惚気じゃないよぉ。でも、こっちとしては、クリスだけしか目に入らない、って感情だからさ、替えが効かないっていうかなんというかさー、いや、それは向こうも同じだと思うんだけど。でも、私はそれを受け入れられないといいますか」
メイドの口は動いたが、声はなかった。
ああ、やっぱりこの人もか。本当、私は大変な人を好きになってしまったんだなぁ。
「惚気ですか?」
メイドはどこか誤魔化すように、閉じた口をすぐに開いてそう言った。
「惚気じゃないって。でもね、私としてもそこは譲れないし……。クリスのことを思うと責める気にもなれないしで、結局クリスをフったのか、フられたってのかもよくわかんないし」
「さあ、私の知ったこっちゃありません」
「だよねー。私としても、そこはどーでもいいんだけど」
「取り敢えず、女子感強くてキツいです。王女の癖に」
「癖に!? 王女の癖に!? てか、キツいって何!?」
また始まった、と煩わしく思いながらも、メイドが物怖じしない性格で安心して聞いていた。
やがて、メイドが去ると、アリスは私に抗議してくる。
「なんで助けてくれなかったの!? それにクリスの話にも乗って来なかったし!」
「いや、何だかんだ言って、私は恵まれてることに気づいたからかな」
「え? どういうこと?」
あのメイドの出なかった声、口の動きから読み取れた言葉を思い出す。
じゃあ、代わってくださいよ。
3巻決まりました!予約開始してます!
どうかよろしくお願いいたします。





