受け取りと交渉
俺は工房から出ると日はもう真上に来ていた。
早く帰らないと従士達が心配しているかもしれない。おそらくもう捜索しているだろう。
罪悪感に苛まれながら宿屋にもどった。
俺は一縷の望みを掛けて従士の部屋を順にノックしていったが何の返事も無かった。
やはり、俺を捜索しにいったかと思い最後にマクベスの部屋をノックすると「はい?」といった気の抜けた返事が聞こえた。
「マクベス。僕だ。開けてくれ」
「うーん?クリス様…はっ!?」
部屋の中からドタバタと音が聞こえる。
さっきの声からするとこいつ寝てやがったな!いい身分じゃねえか!
少し待つと髪の毛のところどころを重力に逆らわせたマクベスが部屋から出てきた。
「お、おはようございます。クリス様…」
「マクベス言いたいことはわかるな?」
俺が冷たい声でそう言うとマクベスは飛び上がった。
「は、はぃー!商品の受け取りという大切な任務がありながら眠りこけていてすいませんでした!」
「マクベス次はないぞ?」
「は、はい」
「受け取りの方は、恐らく他の従士がいっているだろうから、お前は罰としてメインストリートの屋台で唐揚げを今すぐ買ってこい!」
「はい!行ってきます!あ、あと勘違いならすいませんが、昨日はかなり呑んでいたのです。それなのに他の従士が動けるとは思えません。もう一度確認してみては?」
と言ってマクベスは走り去った。
まさか、そんなはずは無いよな?と思いながらもマクベスの部屋の窓から、ベランダに出て従士達の姿を窓から確認すると二日酔いでうなされている2人の姿があった。
マジでこいつらつっかえねえ!
☆☆☆
「というわけで宿まで運び込んで欲しい」
「そういう訳でしたらもちろん協力させていただきましょう」
「ありがとう!それにしてもサザビーが来てくれたんだね」
献上品をわざわざ王都まで運び込んでくれたのはサザビー商会の商隊と会長のサザビー自身であった。
「ええ。ここまで貴族が集まるのはそうあることではございませんからね。蒸留酒とリバーシ。今は麻雀ですかね。それらを広める絶好の機会です。こいつらは中毒性がありますから流行ると一瞬ですよ」
サザビーはクツクツと怪しげに悪い笑みを浮かべた。
全くこいつは優秀だが悪い商人だな。だが、こいつはグレーな事はするがブラックな事はしないので信用できる。
まあ、こいつが悪ければ悪いほどうちが儲かるのでよっぽどの事がない限りほって置くけどな。
「そうか。まあ、ほどほどに頑張ってくれ。それから、新しく仕事を頼みたいんだが」
「なんでしょう?」
サザビーの目つきが鋭くなった。
「新たな工房の建設とその工房で作られるものの販路の確保だ」
「ほう。それはまた大きな仕事ですね。実際にものを見なければ判断しかねますな」
「ああ。全くその通りだ。だから、運び込んだ後にここに向かって欲しい」
「クリス様は同行なされないのですか?」
「ああ。僕が交渉せずとも間違いなくサザビーは飛びつくだろう」
俺は不敵に笑うとサザビーは目を丸くした後クツクツと笑い始めた。
「そこまでの自信がお有りとは。いいでしょう」
と言うとサザビーは部下に耳打ちすると部下はどこかへ走り去った。
「なんて言ったんだサザビー?」
「ふふっ。新たにいくつ馬車を確保できるか確認させにいったのですよ。いるんでしょう?そこに職人が」
流石にサザビーだ。切れ者だな。あれだけの情報でそこに気づくとは。
「ああ、その通りだ。だけど良かったのか?見ないうちに馬車の確保をするなんて」
「あの、謙虚なクリス様がそこまで自信満々に仰るのです。それ以上に理由は要りません」
俺は全然謙虚じゃないんだがな。
「そうか。それじゃあ頼むよ」
「はい。お任せあれ」
そして俺はサザビーと別れた。すると遠くから袋を持って駆け寄ってくるマクベスを見つけた。
「クリス様〜!」
「良く買ってきたな。よくやった」
「はい!あの?唐揚げ屋にクリス様と同じ位のエラく綺麗な金髪の嬢ちゃんが、唐揚げ屋にずっと居座ってキョロキョロと誰かを捜してたんですけどあれ、知り合いですか?」
「……知らん」
多分、俺めっちゃ捜されてるやん。





