雇用
「それで、借金はいくらなんだ?立て替えといてやるよ」
「この工房自体は金貨30枚位で買い取ったんだけど……」
そんなもんか。この世界での貨幣の価値は白金貨=1000万、金貨=10万.銀貨=1万、大銅貨=1000、銅貨=100、小銅貨=10円位の価値になっており工房自体の価格は現代日本で言う300万円位となっている。
治水工事でうん億、うん千万と動かしてるので300万を安く感じるのは感覚が麻痺していることに気付いてはなかった。
「そん位ならすぐ払ってやるよ」
軽い調子で言ってのけた俺に、ナミとハズキは目を丸くした。
「金貨30枚ですよ?」
「ああ。そん位ならすぐ払ってやれるよ。ただし、お前らの給料から毎月天引するからな」
「ありがたいね。ただ借金は工房だけじゃないんだよ……」
ハズキが済まなそうに巨体を小さくして上目遣いで見てくる。
まだ借金があるのか。救いようがないな。核シェルターを作るのに地下でも掘らせてやろうか。
「いくらだ?言ってみろ」
「それが、金貨70枚……」
はあぁ!?めちゃくちゃ高えじゃねえか!
「一体何にそんなに使ったんだ!」
「ひいぃ!」
俺が怒鳴るとナミが怯えて縮こまった。
「あたしらが開発した道具が全く売れなくてねぇ。作れば作るほど赤字が嵩んじまったんだよ」
「何をどんだけ作ればこんなに赤字が出るんだ!」
まじのクソ経営だな!取り引き先のあても無しに大量生産するな!
「仕方ないじゃないか!絶対に売れると踏んでいたんだよ!」
ハズキが逆ギレしてきた。あまりの剣幕に気圧されてしまう。
「わ、わかったよ。取り敢えず見せてみろ。それが使えそうなら買ってやる」
「本当か!?」
「本当ですか!?」
ハズキとナミが手を叩いて喜んだ。
俺が見る前から喜ぶとは、それほど自信があるのだろうか。
ハズキとナミに案内され工房の奥へと進んだ。そこには、最奥地に大きな窯があり、通路を隔てて机や機材が配置されていた。そこから隅へそこいらに散らかっている工具やガラクタを踏まぬよう埃を被った通路を進むと製作品が山積みにされたものが見えた。
「こいつらがうちの自慢の商品さ!」
ハズキとナミが誇らしそうに見せてくる。
そこには、ハサミや片刃の日本刀があった。
特に刀に対して知識も何もない俺でも一目で名刀だと感じた。ハサミにしろ制作するのには高い技術力を求められる。
こいつら、本当に腕は良いみたいだ。
「ほう、あんたにはこの片刃の剣の良さが分かるようだね?でも、あたし達が推したいのはこれさ」
そう言って、ハズキは先が渦巻いた笠の平たいキノコのような小さな鉄で出来たものを取り出した。前世ではよく見られたが、今世では初めて見るものであった。
「これは、ネジじゃないか!?」
「知っているのかい?あたしらが開発したと思ってたんだが先駆者がいたのか」
「いや、見たのは初めてだ」
「そうなのかい?じゃあ使い方はわかるか?」
「ああ!」
この世界でネジがもう使われているかどうかは知らないがあまり見られていないことに変わりはない!このネジは金の卵になりそうだ!
「仕方ない。お前達の借金も払って商品も買い取って高待遇で雇ってやるよ」
「本当ですか!?」
「やったー!」
就職先が決まったのが嬉しいのか、二人は手をつないで回りながら浮かれて騒いでいる。
「従業員も雇ってやるから、従業員全員と引越し準備をしてこい」
「「はい!」」
俺は浮かれた2人を尻目に黒い笑みを浮かべるのであった。





