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脅迫

 夜、スッキリした顔の3人と飯屋で合流した。


「いやぁー最高だったな!」

「まじでな!」

「俺なんか、延長しちまったよ!」


 ギャハハと酒を酌み交わし品の無い会話を繰り広げるのは我が従士である。荒くれ者のようで恥ずかしいからやめて欲しい。


 その上、そんな荒くれ者の中に少年が混じっているのだ。悪目立ちするのは必然であった。


「お前ら!いい加減にしろ!お前らの辞書に恥や外聞といったものはないのか!?」


 俺は強い口調で叱った。


「なんですか、ぼっちゃん?置いて行っちゃったからひがんでるんですか?」


「あーあ。これだから童貞は」


「クリス様もそう言わずに飲んで飲んで!」


 ど、どうていちゃうわ!というかすぐに酒を勧めるな酒を!

 こいつら、全くどうしようもないな…


「そもそもですねぇ。うちの訓練は厳しすぎるんですよ!」

 

「そうだ!そうだ!」


「その上、休日も賊が出たら即出動で振替の休日もない!」


「「「訴えてやる!」」」


 3人が俺を指差してきた。


「そうか。じゃあ、僕は3人がそう訴えたとユリスに伝えておくよ」


 俺がそう言うと3人は手をワチャワチャさせ慌て始めた。


「そ、そんな訴えるわけないじゃないですか!」


「そうそう!訓練なんて余裕ですよ!」


「あーもっと山賊でてこないかなー?」


「わかった。そう伝えておくよ」


「「「すいませんでした!」」」


 三人は見事な土下座を決めた。


「もう、そろそろ宿に帰るぞ!明日は、領内からの王女への献上品の受け取りがあるんだから」


 俺たちは、昼間俺がとった宿に宿泊した。

 もちろんマクベス達は宿をとっていなかった。


***

 

 朝、カーンカーンと硬いものをたたく音が聞こえめざめた。


 まじでうるせえな。そりゃこんな音が聞こえるなら、ここの宿も人がいなくて当然だ。


 俺は2度寝しようとしても出来ないので、諦めて音の鳴るほうへ歩んでいく。するとそこには、古びた石造りの家があり、やけに頑丈そうな扉が開きっぱなしになっていた。


 俺は家の中を覗き込む。奥の方にもう一つ扉が開いており、その奥に灯りが見えた。


「おい!お前もか!」


 背後から声をかけられて振り向く。背が高く、骨格も大きい女性が顔を顰めていた。


 で、でけえ。いろいろでけえ。


「お前もかと聞いているんだ!早く答えろ!」


「な、なにが?」


「あたしらの工房を潰しにきたんだろ?」


「はあ?」


 何のことだ?何か誤解されていそうだ。


「なんだ、違うのかい。じゃあどうしてこんなとこにいたんだい?まあ、入んなよ」


 俺は肩を組まれ中に連れ込まれた。


 肩を組まれたは良いが、身長差からおっぱいが顔に‼︎

 まじで天国かよ。


「客だ。打つのやめて茶だしな!あとドア閉めてから打てって何回言わせんだい!」


 大きな女性が奥に向かって叫ぶと奥からショートカットの少女が出てきた。


「自己紹介がまだだったね。あたしはこのべズ工房長のハズキこいつは副工房長のナミだ。こいつは、こんな見た目してんけど男だぜ」


 マジか。こんな可愛い子が男だなんて。いや、でも最近は男だと思ったら女だったのパターンも多いし信用できんな。むしろ、女であってくれ!


「ナミです。よろしくお願いします」


「ああ、僕はクリスといいます」


「で、あんたはなんで覗いてたのかい?」


「それは、カーンカーンといった音で目覚めてしまってその音を辿っていったここに」


 俺はサラッと答えたが、ハズキとナミは申し訳なさそうに頭を下げた。


「それは済まないことをしたねえ」


「すみませんでした」


「いえいえ、そんな別に大丈夫ですよ。むしろ起こしてもらえてラッキーでしたし。それより何と僕を間違えたんです?」


 おっぱい柔らかかったからね。


「それならよかったよ。少し長くなるけどいいかい?」


「大丈夫ですよ」


 それから、ハズキに事情を聞いた。


 若手の腕利きの職人達は、年功序列式の鍛冶屋の体制と、古臭くて頭の固い職人達を嫌っていた。そこでハズキ達は工房を辞め、志を同じくする職人達と起業したらしい。


 喧嘩別れのような形で辞めたのだから、工房の古い職人達はいい気分ではない。結果、その人達に圧力をかけられ、取引先が見つからず、借金だけが嵩み、今まさに、この工房を取り押えられようとしているのだった。


「なるほど。話はわかりました」


「ああ、だからあたし達は何としても取り引き先を見つけなきゃなんねえんだ」


 なんか嫌な予感がする。早く帰ろう。


「そうですか。大変でしょうけど頑張ってください」


 そう言って、俺はドアノブに手をかけた。動かない。


「あのー?開かないんですが?」

 

  後ろからナミに掴まれる。

 

「貴方、貴族ですよね?しかも当主じゃないですか?」


「な、なんでそれを?」


「えっ、そうなのかい!?」


 俺とハズキは驚いて、飛び上がりそうになった。


「ふふっ、私の友達に娼館で働いている子がいるんですよ。なんだか、子供の子爵が来ているんですって」


「だ、誰のことかなー? 僕はただの商人の子供だよ?」


「朝早くに、こんな外れをフラフラとしていられる商人の子供なんていません」


 くっ、万事休すか。いやでも、取り引きしなければ良いんだ。貴族の権威を振りかざそう!


「御前達! 僕を誰だと思ってるんだ! 貴族に楯突いてタダで済むとおもうなよ!」


「いやーそれに関しては、このまま取り引き相手が見つからなきゃ死ぬし。それにただの顧客ってだけじゃ、もう借金を返せないんだ。雇ってくれないかい?」


 くっそ逃げ道無いじゃないか! 扉を破ろうにも頑丈で壊れそうにない!


 しかも余計高くなっている。これから値段が嵩んでいくかもしれない、そう考えては肝が冷える。その上、一刻も早く脱出しないと、受け取りにも間に合わなくなる。


 俺は溜め息を吐いた。


「わかった。雇ってやるから扉を開けてくれ」


「本当か⁉︎ やったー!」

「やりましたね!」


 ハズキとナミが手を取りあって喜んでいる。


 馬鹿め! 約束外に出てしまえば速攻破棄してやる!


「それでは、はい」


 ナミに何か紙を渡される。


「これは?」


「ああ、それは王家を仲介役にした雇用契約書だよ。これは私が王女の剣を献上した時に頂いたんだ。雇用した人間に技術を盗んで逃げられたら困るだろう? そんな時、雇用契約を破棄して逃げた奴を、王家が代わりに裁いてくれるんだ」


「雇用者側が契約破棄しても、もちろん裁きが下りますよ。まあ、大丈夫ですよね?」


「……はい」


 俺は渋々と頷くのであった。

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コミックス2巻6・26日に発売ですよろしくお願いします>
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[気になる点] >「朝早くに、こんな外れをフラフラとしていられる商人の子供なんていません」 その理屈なら、朝早くにフラフラしている貴族家当主はもっといないと思うのだが
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