質問会
こうして決まってから、数時間地下通路を進み、現在に至る。
今回はアリスの提案で、企画的な感じで、質問に答える形でのアピールに決まったらしいのだが、第一問から何かがおかしい。
けれども決まったものは仕方ないので、質問する。
「えっと、志望動機を聞いてもいいかな?」
頷きが返ってきたので、アリスに目を向ける。
「じ、じゃあ、アリス。どどどうして、俺の恋人に?」
自分の恋人になりたい理由を聞くという行為に、恥ずかしさが湧き上がってきて、ろれつが回らなくなってしまった。
しかし、俺とは対照的にアリスは「はい!」とはっきり元気よく返事した。
「私は、賊から助け出してくれたことがきっかけで好きになったの。それからクリスに騙されたり、意地悪されたりしたけど、その一つ一つがすっごく楽しかった! だから私はさ、これからもずっと一緒にいたいし、離れたくない」
ーーーっ!!
恥ずかしいやら嬉しいやらでごっちゃになって、手で顔を抑えて悶えてしまう。これが俗にいう恥ずか死という奴だろうか。
アリスはなんでそんなに純粋に言えるんだ。とは思ったが、それもそのはず。元々アリスは俺に告白をしているし、勝負に乗っているのだから、どこか吹っ切れた所はあるのだろう。
なんとか、心を鎮め手を開けると、アリスは俺の態度に手応えを感じたのか満足そうな顔をしていた。そんなアリスを見ているクレアは、うう〜と羨ましそうな視線を送っている。クレアの視線に気づいたのかアリスは、ドヤ顔でふんと一つ鼻で笑った。クレアがギシりと歯を鳴らし、視線を自らの腰に向けた。
「じゃ、じゃあ、次はクレア」
クレアが剣に手を伸ばそうとしたので慌てて質問をした。すると、クレアは突然振られ少し慌てたが、一つ咳をして気持ちを切り替え、有能なキャリアウーマンみたいな澄ました顔に変わる。
あっ。これダメなやつだ。
クレアが何も言ってないうちに、そんな直感に襲われる。けれど、気にしないことにして耳を傾ける。
「はい。私は以前、自身の強さから婚約者を見つけられなかったという経験があります。しかし、入学試験の際、強い私を女性扱いされた事に受け入れて貰えると思い、それをきっかけに恋人になりたいと考えるようになりました。その後ーーー想いはーーーとなり、変化しつつも強まりーー」
わ、わ〜凄い。面接だぁ。完全に面接だぁ……。
「ーーーため志望いたしました。恋人としての実務経験はありませんが、恋人として必要とされる、強い愛情による信頼関係を結ぶ力、見た目の美しさには自信があります。また、侯爵家令嬢の地位を生かした関係各所との調整力、幼い頃からの教育により身につけた剣術は、クリスの嫁として役立ちます。一日でも早く嫁としての家事などの専門性を身につけることで、貴方様に貢献できる嫁に成長したいと考えていますーー」
趣旨が違うわけではないんだけど、ずれているというか、残念というか。クレアの熱意を感じるたびに力が抜けて行く気がする。いつの間にか恋人から嫁になってるし。
それからもクレアの志望動機は止まらず、数分間語り続けた。
「というわけで、どうだろうクリス! 私の誠実さや強い想いが伝わって来ただろうか!? 完璧な志望動機だったと思う!!」
キラキラと目を輝かせるクレアに、俺は「う、うん、よかったよ」と手で目を覆いながら答えた。
とても見てらんなくて目を覆ったのだが、どうやら、アリスの時と同じ反応だと勘違いしてくれたようで、クレアのふんす〜という鼻息が聞こえる。
俺はそんなクレアから目を背けるようにミストの方を向いてから、手を下ろした。
「最後にミストお願いできる?」
すると、ミストは目を伏せ、顔をそらし、口を手でおさえた。頬にはほんのりと桃色がさしている。淑やかな姿は、美しい一輪の白百合を思わせる。
ミストは伏せていた目だけを俺にゆっくりと向け、すっと花弁を舞わせるみたいな弱い声をだす。
「……そんなの、言えるわけないじゃないか」
ただただミストが可愛く思え、言葉を失ってしまう。頭はぽーっとして、頬に血がのぼってきて熱い。呑まれたのか、のめり込んだのか、引き込まれたのか、分からないが、ただ瞳はミストを捉えて離さない。焦点はミストにしかあわず、他はぼけて見える。
絵画を見ている時のように、ただ時間が流れる。しかし、アリスとクレアの抗議の声で現実にひき戻される。
「「ずっっっっっっっっっっるいいいいい!!!」」
ミストはさっきまでの様子はどこへ行ったのか、いつもの調子でカラカラ笑う。
「あははは。ずるいなんてお角違いさ」
「そんなの無しでしょ!! ちゃんと答えなさいよ!」
「なんでもありだよ? そう決まったじゃないか」
「だとしてもだ!!」
「だとしても何だい? 私は本気でクリスくんを落としに行ってるからの行動だよ? むしろ、思いつかない自分を恨みなよ」
「「ぐぬぬ……」」
ミストの言葉は確信を得ていて、アリスとクレアを黙らせた。俺はそんな様子を見ながら額の汗を腕で拭う。
それにしても危なかった。あのままいくと、第一回、1問目で優勝者をミストに決めてしまうところだった。今後、アリスもクレアも同じ手を使ってくるし、さっきみたいに責めたりしなくなるだろう。
これからさらに過激になる、そんな予感をひしひしと感じた。
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