落とし方1
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場所は地下通路の終点。狭い通路が上り階段に変わり、天井へと続いている。
俺は階段の一段目に座って一枚の紙を手にし、上を向いていた。焚火から舞い上がる煙が階段を登り、天井の板にある切れ間へと抜けていく。
現実逃避をほどほどに紙へと視線を戻し、書かれている内容を再度見た。
うん。見間違いではないようだ。
誤解ではないとわかったが、半信半疑なのは変わらない。
紙から視線を外し、焚き火を挟んで向かい側に座る三人に尋ねる。
「……これを質問すればいいの?」
彼女らからは、ただ頷きだけが返ってくる。
「せめて階段から降りていい? 読みづらいのだけど……」
今度は、首を横に振られる。
断固たる意志を感じて、どうしようもないことを悟る。一つため息をついて、俺は1問目を読み返した。
『問1. 貴方が私の恋人になりたい志望動機は?』
何この入社面接みたいな感じ……。
何故こんな状況に置かれたのかと、数時間前を振り返る。
****
俺の全力で落とされるよ宣言の後、長く静寂に包まれていた。
ミストがそんな空気を終わらせるようにパンと手を叩く。
「さて、決まったことだし、内容を詰めようじゃないか」
「どうする? 遅れさせちゃってもダメだよね?」
「ああ。最低でも、計画を持っているクリスには集中してもらわないと遅れるな」
「ええ……。でもそれってさ、振り向かせないといけないけど、気をそらされちゃ困るってことだよね?」
「まあ、そうなるな」
一同、う〜ん、と首をひねり考えこむ。
相反する考えだと思う。一方をたてれば、一方がたたない。決まったはいいものの、変わらず二兎追うものは一兎も得ずの状況。どうすれば、逃亡に遅れを出さず、落として貰えるのだろうか。
けれど、改めて真剣に考えると、我ながらなんとも滑稽で、傲慢で、なんだかとても恥ずかしい。俺は何故、みんなが無理なく俺を落とす方法を、全力で考えているのだろうか。そんな想いが湧き出してきては、脳内でわちゃわちゃ手を動かしてかき搔き消す。
クレアが大きく息を吐いて、呆れたように声を出す。
「冷静に考えると、命が懸かっているのだから、そんなことしてる暇があったら逃げろ。我ながらそう言いたくなるな」
「え、クレア。それ言っちゃったら終わりじゃない」
「だけどなあ……」
クレアはそう言って声を篭らせた。
確かに俺もついさっきまでそう思う気持ちがなかったわけではない。けれど、今の俺は違うと断言できる。
「それは違うよクレア」
クレアが小首を傾げて尋ねてくる。
「どういうことだ?」
「今は逃げることに集中してもいいかもしれない。けど、無事に逃げ切れたとしても、クレア達には何も残らない。どころか、俺を自分勝手に助けたせいで、色々責められることは多いと思う。そうなれば、精神的に大きな傷を負うことになる」
俺がそう言うと、皆んなから厳しい視線を突きつけられる。
「張本人の君がそれを言うかい?」
ミストの呆れた言葉に、大きな杭を胸にぶっ刺されたかのように痛む。
「クリス、それは選ばれなかったら同じことなんだが」
クレアの核心をついた言葉に、斜め上から飛んできた電柱が背中から突き刺さったような感覚に陥る。
「酷い」
アリスのシンプルな言葉に止めを刺され、足元がふらついた。しかし、なんとか踏みとどまる。
でも、これは言っておかないと駄目だ。絶対にただ逃げるだけでは駄目なんだ。いつかこの事に気付いた時、心が折れてしまう。これから逃げる上で、より厳しい環境におかれることは容易に想像できる。だから、精神的な支えがないと希望を失ってしまう。
それが、俺を落とす勝負で緩和するかはわからない。けれど、何もしないよりは絶対にいいことだけはわかる。
「ごめん。けど、これは大切なことだから」
ミストは本気で思っていなかったのかカラカラと笑い、冗談口調で話し始める。
「あははは。そんなことわかってるよ。けどまあ、普通に考えれば、クリス君が必死になって『俺を落とすのを諦めるな』って言ってるのを考えるとねえ?」
「うっ。まあ、自分でも傲慢で都合の良いことを言ってる自覚はあるよ」
罪悪感から俯き気味に言うと、クレアは優しげな声をかけてくる。
「クリス、本気で責めてないから安心して良い。自ら決めたことだ。そこに後悔なんてない」
「うん。ちょっとした冗談だから」
アリスもクレアに続けて言った。皆んなの様子から冗談であったことがわかって少し安堵する。
「まあでも、これは私達が決めることじゃないかもね」
ミストの言葉がわからず尋ねる。
「どういうこと?」
「私はクリス君じゃない。だから、どうしたら逃亡に集中できるかわからないんだよ」
「そういうことか」
ミストの言葉にそれもそうだと納得する。でも、逆に言えばみんながどうやって落としにくるかもわからない以上、基準を出せない。俺が下手な基準を作って中途半端にしても、不完全燃焼で悔いは残るだろう。
だったら、互いに何をしてもいい時間が必要、そう考えれば自ずと案ができる。
「わかった。それじゃあさ、休憩時間に限定しよう。その間はなんでもあり。これでどう?」
俺がそう言うとミストは笑う。
「あははは。完全な妥協案だね。いいよ、でも時間が限られてるよね」
ミストが問題点を出し、クレアとアリスが続く。
「短い時間だというのに、誰かが長く落とす事に時間をかけると困るな」
「チャンスは平等がいい」
確かにそうかもしれない。なら、どうすればいいかと悩んでいると、ミストが手を叩いて鳴らす。
「よし! それじゃあ、私たちが順番に休憩時間にすることを決めるよ。それでいいかい?」
内容まで俺が決めるのは矛盾するので、それは願ったり叶ったりの提案だ。
アリスとクレアの顔を見ると、頷きが返ってくる。
俺はみんなが同意したと考え、ミストを見た。すると、ミストも意を汲み取ったのか口を開く。
「よし! これで決まりだね!」
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