アリス
あれから、まだ恐怖が抜け切れていない少女の手を引いて来た道を引き返した。途中で必死の形相で少女を捜しているおっさんと合流するとおっさんは安堵で砕け落ちた。
確かに少女は心配ではあるがこんなに必死になっているのは普通ではない。
恐らく、おっさんはロリコンなのだろう。
その後、屋台まで戻って二度揚げの唐揚げを作ってもらうことにした。
おっさんがジュワジュワと揚げている間、手をつないだままの少女が俺に話しかけた。
「さっきはありがとう」
「どういたしまして」
「自己紹介してなかったわね。私の名前はアリスよ」
「そうか」
「そうか、じゃなくて私が名乗ったんだから名前教えなさいよ!」
「ああごめんごめん。僕の名前はクリスだよ」
「そう…クリスって言うんだ」
アリスは顏を赤らめクリス、クリスと呟きながら俺と繋いだ手を見るように俯いた。
ずっと手繋ぎっぱなしだったなぁ。さすがにはずかしいんだろう。
俺が手を離そうとすると強く握ってきた。
離せないんですけど。
「クリスはどこに住んでいるの?」
「俺はこっから遠くのドレスコード子爵領の町に住んでるよ」
「遠いんだ…。でも、今はどうして王都にいるの?」
うーん。貴族としての身分を打ち明けて良いものか。別に大丈夫な気もするけどこのアリスに気を遣わせるのもなんだし黙っておこう。
「ちょっと人を探しに来ててね」
「それってどんな人?私助けになれるかも!」
少女は顔を明るくし声を弾ませた。
「いや、ちょっと人手が足りなくて事務処理とかができて賢い人を捜してるんだ」
「うーん。最近、仕事をやめた人なら紹介できるよ!」
「本当!?」
あんまり期待して無かったけどラッキー!
「うん!私の執事をしてたんだけど定年で辞めちゃって。王都から離れて暮らしたいって言ってたからぴったしだと思う!」
は?執事?
「もしかしてアリスってどこかの貴族様だったり?」
「ひゅーひゅー、な、なんのことかな?」
口笛すらふけてねえじゃねえか。
てか、貴族だとするとどこの貴族かわからない限り関わらない方が良いだろう。
「アリス。気持ちはありがたいけどその人はやめておくよ。ちょうど唐揚げもあがったようだし帰るよ!さよならー!」
俺は、アリスの手を振りほどきおっさんから唐揚げをひったくって走って逃げ去った。





