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前兆

ランキングタグのイラストを2巻のカバーイラストに差し替えました。素敵なイラストです!

 

 王都の門を抜けてから半刻ほど馬車に揺られていた。馬車内は無言で、どこか冷たい空気が流れている。不穏な雰囲気と言っても過言ではないのだが、みぞおちに突っかかりを感じて気にしないことにした。


「クリス君? 街道を走ってきたけどこのままでいいの?」


 静寂を破るように、御者台からミストが振り返り、声を掛けてきた。


「あと少し走ったら荷物を持ってさっきあった森に入ろう」


 あの後ミストは、逃走経路を俺に委ねた。ここまで用意周到なミストのことだから、自身の経路は持っているだろうとは思ったが、別に俺の経路でもどっちでもいいので、深く考えることなく俺の経路で行くことに決めたのだった。


「目の前の森じゃなくて?」


 近くで座っているアリスから声が上がる。


「馬車に乗ってきてるからね。馬車は一応は隠すけどすぐ発見されると思う」


「なるほど。馬車からその森に逃げたように見せかけるというわけか」


 感心したように息を吐いたクレアに、俺は頷き返した。


 クレアの言う通りである。いずれオラール公爵は追手を向けてくることは容易に想像できた。だから、当たり前のことだけど、実際の逃げ先を隠す為には、別の所に乗り捨てておく必要があった。進んだ位置を選んだのは、ドレスコード領に近い位置から、遠い位置に戻るとは思わないと考えたからだ。気付かれたとしても、時間稼ぎにはなるというのも大きな理由である。


「……ということは、車内の旅はここで終わりか」


 クレアはぽつりと呟いたかと思えば立ち上がり、モジモジしながら目の前に立った。


「どうかした?」


「い、いや……少し腰が痛くなってな」


 クレアはしどろもどろにそうは言ったが、木箱の上に座っていたので、直接振動を受ける俺やアリスよりは腰を痛めてないんじゃないかと思う。だが、痛みの感じ方は人それぞれなので、特に気にしないことにする。


「そっか。もう少し行った方がいいけど、この辺りで馬車を止めるか……」


「いや、いい!!」


 クレアは大声を出し、俺の提案を遮った。


「遠慮しなくていいよ。ここで降りれば、その分早く逃走経路に入れるっていう利点もあるし」


「駄目だ! 今は逃げている最中だ! クリスの話なら公爵が追手を向けてきてる!」


 ぶんぶんと首を振り、必死の形相で言ってきたクレアにハッとさせられる。


 一番の難関を切り抜けて安心し切っていた。けれども、未だ追われており、見つかれば生きて帰れる保証はない。


 それに最大の難所を抜けたと言っても、あくまで俺視点での話だ。逃走に協力してくれた皆んなにとっては、今からが本番だ。


 だめだ。気を抜きすぎた。


 皆んなの気持ちにどう向きあおうだとか、考えるのは今ではない。いずれ向き合わないといけないが、まずは何より全員無事でドレスコード領まで帰ることを考えなければ。


「ごめん。俺が間違ってた。あと少し進もう」


 そう言うと、クレアはパッと顔を明るくさせ「うん、うんそれがいい」と返してきて、すっと俺の隣に腰を下ろした。そして、俺の肩に頬を寄せる。


 驚いてクレアの顔を見ると、目を細め、口元はだらしなくふやけていた。


 あれ、もしかしてこれが狙い?


「何してるの!?」


 今度はアリスが立ち上がり、大声でクレアを咎めた。


「何か問題が?」


 クレアは頬を俺の肩につけたまま、アリスに煩わしげな視線を送る。


「あるわよ! さっき腰痛いって言ってたじゃない! 木箱の上に戻りなさいよ!」


「あと少しならここでも我慢できる」


 そしてクレアは小首を傾げながら覗き込んで来て、「クリスも良いよな〜」とふやけた声で同意を求めてきた。アリスからは、射抜くような眼差しを送られる。


 汗が流れ、胃が痛む。


 俺を信じてくれたクレアの好意を跳ね除けて退いてくれと言えないし、俺を認めてついて来てくれたアリスの好意を否定してそのままクレアを受け入れることもできない。


 何より、今はただ逃げることだけを考えたい。ここで逃げることに集中せず、誰かが囚われたり殺されたりなんかしたら、後悔どころの話じゃない。


「「クリス?」」


 二人の視線が突き刺さる。


 やばい、やばい、どうしようか。でも、何か答えないと。


「え、えっと、そのあの……」


 ど、どうしよう言葉が出てこない。


「ち、ちょっと待って」


 どうして!? クレアやアリスはなんで逃げることを第一に考えず、ここまで余裕があるんだ!?


 すぐに答えは出る。クレアもアリスも自らの好意から俺を助けることに決めたんだ。だから、俺のことを信じるから逃げる。逃げる為に俺を信じるではない。


 詰まる所、逃げることと、俺のことは優先順位は同じか、後者の方が上である。


 いや、そんな答えなんか出なくて良い! 肝心の言葉が出てこない!


「クリス。待ってとは何だ?」


「そうよ! 待ってって何? この状況でおかしくない?」


 二人の視線が訝しげなものへと変化する。


 は、はやく答えないと。ど、どうしよう。そ、そそそそうだ!


「ア、アリスも来る?」


活動報告あります。

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コミックス2巻6・26日に発売ですよろしくお願いします>
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