決着の刻
少女との話し合いは平行線であったが、決着の刻が近づいていた。油の弾ける音と唐揚げの香ばしい香りが感じられたのである。
その時俺と少女は目が合い、早期に決せねば、と以心伝心したのである。そう、揚げたてを食す為に!
「小娘よ。このままでは埒が明かない」
「誰が小娘よ! 貴方がさっさと引いてくれればいいのに、異常な情熱で引き下がってくれないからじゃない!」
この唐揚げへの情熱は至極まともだろう。断じて異常ではない。と思う。
「このままでは揚げたてが食べれん。だからすぐに終わるゲームで決めよう」
「ゲーム?」
「ああ。それはジャンケンという!」
俺はジャンケンのルールを説明した。
「なるほど。確かに簡単でフェアなルールね! いいわ! さっそくやりましょう」
少女はふむふむと頷いたのち、身を乗り出して言った。
「じゃあ始めるぞ!ジャンケン…」
「ちょっと待ちなさい!」
俺がジャンケンを始めようとすると、ニヤニヤ顏の少女に止められた。
「私はパーを出すわ!」
ふふんと少女は誇らしげにしている。何か思いついたのだろう。だが、所詮ジャンケンを覚えたての少女である。この瞬間俺は勝ちを確信した。
「よし!じゃあ行くぞ!ジャンケンポン」
俺はパーを出し。少女はグーを出した。やっぱりバカである。
「な、なんで〜!?」
「これが現実だ。じゃあ唐揚げは僕のものだ!フハハは!」
少女は、ぐぬぬ、と唸り、涙目で睨みつけてきた。それでも意に介さない俺に沸を切らしたのか、走り去った。
「唐揚げあがったぞ〜。あれ?常連さんの方は?」
「唐揚げたべれない悔しさで、あっちの方に走っていったよ」
俺が指を差すと、おっさんは急に青ざめた。
「なんてこった…俺は火を止めてから行く! 坊主は早く追っかけてくれ! あっちは柄の悪いやつばっかなんだ! ほら早く!」
「は、はい!」
俺はおっさんに急かされるままに追っかけ、路地に入っていった。
路地は暗く、辺りにゴミ散乱しており、人の気配が感じられない。どこに行ったんだ。
路地の奥に進んでいくと、建物の中から少女の声が聞こえた。
「助けて!」
悲鳴が聞こえた建物のドアを蹴破り、中に入る。
部屋の中にはチビ、デブ、ガリの男3人と手足をロープで拘束された少女を見つけた。
なんというか、テンプレなゴロツキだなあ。
「誰やお前!」
男達は突然の出来事に驚愕していたが、すぐに馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「なんや。ガキ一人が何しに来たんじゃ」
「頭。よう見ればこんガキも顔は悪ぅないですぜ。こいつも売れそうですぜ」
「今日は、上玉が2人もつれるとはツイてんなぁ!」
どうやら、奴隷にして売り出そうとしているようだ。無闇に突入するべきじゃなかったかも。せめて、機を見計らってはいればよかった。
俺は自分の安易な行動に自嘲した。
「おい!お前ら金ならある!どうか俺とそこの少女を許してくれないか?」
「てめえみてえなガキがそんなに金持ってる訳ねえだろ」
俺は懐から金貨のつまった袋をみせつける。
帰りの旅費や社交界後の接待用に大金を持ってきたのだ。
「!?」
男達と少女は目を丸くしている。男達はコソコソ話し合ったあと、笑みを浮かべて手招きした。
「ああ。わかった!その金で解放してやろう。その金をこっちにもってこい」
俺はデブに近づいて金貨を渡す。
「これでいいだろ。早く解放してくれ」
「ああ。確かに受け取った、だがかんけいねえなぁ!!」
背後からガリの男が俺を羽交い締めしようと迫ってきた。俺は屈みながら身を引きつつ、男の横腹に肘を打ち付ける。
その後、かかってきたチビの大振りのフックをかわし、逆に顎にフックを入れてやった。最後に、唖然としているデブの顔面にハイキックをかまして3人を制圧する。
てか、全員一発とか弱すぎだろう。ちょっとでもびびった自分が馬鹿らしいわ。
そして俺は、少女のロープを外した。
「もう大丈夫だ。怪我はないか?」
「大丈夫……ありがとう」
少女はよほど怖かったのか、目を真っ赤にして上目遣いで答えた。よく見れば、サラサラの金髪に長い睫毛に、スッキリとした鼻に紅くて形のいい唇、と整った顔立ちをしている。悔しいけど、めちゃくちゃ可愛い。
「無事でなによりだ。それじゃあ帰るぞ」
「ごめんね」
少女がしゅんとしていう。
「何が?」
「すぐに来てくれたから、唐揚げ食べられなかったでしょ?」
「そんな事気にすんなよ。おっさんのとこに戻れば食えるんだから」
「でも、冷めて美味しくないよ……」
落ち込む少女に、俺はドヤ顔で告げる。
「知ってるか?二度揚げの唐揚げって美味いんだぜ!」





