パーティーの後
毎日投稿6日目です!
パーティが終わり、今は後片付けをしていた。後片付けといっても、会場の後片付けではない。それは、頼んでおいた業者に任せて、会場を後にしている。
今いる場所はアルフレッドのサロンで、既に外は真っ暗であるが、室内は金属製の燭台に灯した炎で明るい。むしろ、調度品や、宝石が散りばめられた家具が火を映して、チカチカと眩しいくらいである。
そんな中、広い机の上で、一生懸命にペンを走らせていた。流石に二徹になりそうで、インクがより滲んで見える。目の前には同様に、らしからぬ真面目な顔をしたユスクがペンを走らせている。
書いているものは、今日きた学生が入ってくれるか、入ってくれるには何が必要かの書類である。詰まる所、今日の報告書のようなものを作っていたのであった。
俺は、一心不乱に書き続け、最後の一人に、『傘下に入れるには、金銭的報酬をチラつかせることが有効』と書き記すと、ペンを置いた。
「終わったぁ〜」
俺が伸びをするのと同時に、ユスクもペンを置いた。
「いやぁ、やっと終わったよ!」
ユスクも完了の開放感から、机に滑り込むように寝そべった。
「お疲れ、ユスク」
俺が、そう労うと、ユスクはにこやかに笑う。
「本当、クリス君が手伝ってくれて良かったよ〜。こういう、貴族事情を知ってるのは、俺しかいないから、一人でやってたんだよね〜」
「へえ。そうなんだ」
「ああ! クリス君が派閥に入ってくれて良かったぜ!」
恥ずかしげもなく、そういったユスクになんだか照れくさくなり、頬を掻いた。
「いやぁ、そう言ってくれると、嬉しいよ。まあ、でも厳密にはまだ派閥に入ってないんだけど」
「うん? どういう事?」
「まだ、許可を貰ってないっていうのが正しいんだけどね」
「うん? うん?」
頭の上にはてなマークが見えそうな程、首を傾げたユスクに説明する。
「実はさ、アルフレッド様から課題を貰ってさ。それにクリアしたら、認めてやるって言われたんだよ」
「う〜ん。アルフレッド様もなんで、そんな事したんだか。課題って何なんだ?」
「俺もよくわからないんだけど、3人が二週間生き残れるように、水と食料を用意しておけってさ」
俺がそう言うと、ユスクが再び首を傾げる。正直、自分で言っておきながら、再び疑問が強まった。
言われた時は、簡単な課題で良かったという安心感から、あまり気にしなかった。しかし、思い返す度に、その意図がわからなくなる。正直言って、用途も謎だし、難題を出しているってわけでもない。何かを試されているんだろうかとも思うが、全く予想がつかなかった。
「ユスク、なんかアルフレッド様に変わった様子はなかった?」
俺がそう問うと、ふと思い出したように話す。
「そう言えば、俺たちが一年の時の模擬戦の頃から、アルフレッド様は苛立たしげになったんだ」
「へえ、そうなんだ」
「ああ。で、クリス君が派閥に入ることになってからは、元に戻ったから関係あるかもな」
ユスクの言うことは何か、関係してそうだが、全く見当もつかない。
俺が再び思考の渦に身を寄せていると、ユスクはまた、思い出したかのように告げる。
「そうそう! あったわ! 変わったこと!」
ユスクは嬉しそうに、身を乗り出して続ける。
「俺に何があっても、ドレスコードを信じろってさ!」
ユスクの言葉に驚く。それは、今日のパーティーにおいて、皆に告げていた言葉だったからだ。
「俺はわかったぜ、クリス君! アルフレッド様は素直じゃないからな!」
「素直じゃないって?」
「クリス君が派閥に入った事が嬉しいんだ! 中々、靡かないクリス君にモヤモヤしてたんだと思うぜ!」
確かに、仮にユスクの言葉が本当だとしたら、説明がつく。
模擬戦から苛立たしげにしていたのだとしたら、傘下にならない俺が英勇扱いされた事が気にくわない。だが、傘下に入ってしまえば苛立ちも消えるというもの。課題が簡単なのも、素直になれず、傘下に入れたいが、タダで入れたくない、という気持ちから。
確かに説明がつく。でも、違和感が消えない。
アルフレッドが俺を嫌いなのは間違いないだろうし、簡単な課題といっても、食料という発想には至りづらいというものだ。
模擬戦の頃、というのも怪しい。
「なあ、ユスク。模擬戦の頃って、後? 前?」
俺は疑問を尋ねると、ユスクは「う〜ん」と悩む。
「覚えてないけど、模擬戦の最中からかも……。でも、後だったか、前だったか覚えてないな」
ユスクの言葉に疑惑が深まる。
もし、前だとしたらやはり、ユスクの予想は外れている。俺が英雄扱いされる前だからだ。しかし、かと言って、一番有力な説は、ユスクの説である。アルフレッドが天邪鬼なのはユスクが一番詳しいと思うので、俺はユスクを信じることにした。
「まあ、ユスクの言うとおりだったら嬉しいから、そう思っておくよ!」
「そうだな! それに、アルフレッド様がどういう考えかわからなくても、その考えは絶対に間違っていない! 昔からそうだったからな!」
ユスクは懐かしむように、そう言った。
やはり、長年ともにしてきたユスクが心酔している所を見ると、アルフレッドがカリスマである事がわかる。いずれは、この国のトップになるかもしれない。もし、ならなくとも、そのカリスマは、必ず仲間を集め、大きな勢力になるだろう。
「なあ、クリス君。一緒にアルフレッド様を盛り立てて行こうな!」
嬉しげにそう言ったユスクに頷いた。





