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パーティ

間に合った……

 

 あれから、キユウと勧誘を続け、昼休みギリギリに教室へと戻る。


 教室に入ると、不意にアリスへと目をやってしまう。アリスは何人かと話しており、昨日あれほどの事があったのに、いつもと変わらない様子だ。


 アリスとしては、あれで、俺への気持ちに区切りをつけてくれたのだろうか。ここに来てアリスの精神的な強さに気づく。


 そう言えば、アリスはどんな扱いをされてもめげる事はなかったし、立ち直りも早かった。


 アリスと関わる事があれ程嫌だったのに、今では惜しく感じてしまう。


 そんな自分の女々しさに笑う。


 いや、どちみち、いつかはこうなる事はわかってたんだ。これ以上、気にしても仕方ない。俺はせめてもの罪滅ぼしとして、命だけは救ってあげたいんだ。


 俺は決意を新たにし、このクラスの学生を誘おうと、目的の生徒の居場所を探す。すると、いつもと変わらない教室ではあるが、一箇所だけ異常な空気を醸し出しているところが目についた。


 そこを中心に空白な円ができており、誰もが見ないふりをしている。円の中心にいるのは、黒髪の少女。いつもの艶やかな黒髪は、くすんでいる。彼女は、机の上に置いてある、紙に、一心不乱に何かを書いている。


 遠目でよくは見えないが、気になって見てみると、どうやら、文章が綴られている。


 本でも書いているのだろうか。


 時々、いや、頻繁に口元を二ヘラと緩めている所を見ると、何を書いているのかきになる。だが、一心不乱に、何かに取り憑かれたように書いている姿は、どこか狂気を孕んでおり、近づけそうにない。


 クレアが、突然小説家になった経緯はわからないが、俺がクレアと敵対する翌日であるので、少なかれとも関係しているのではないかと思う。


 なんというか、色々な意味で見るに耐えないクレアにしてやれることなんて、俺には何も思いつかない。けれど、何より、俺がしなければいけない事は、戦いを起こさないようにする事だ。


 そう思い、俺は勧誘をはじめた。


 *********


 あれから数日間、勧誘を行い続け、ついに今日はパーティの日。


 会場は学園のホール。真っ白のテーブルクロスがかけられた、丸テーブルが並び、囲むようにして学生が談笑している。学生の服装は、少し、丈の余った貴族らしい煌びやかな服。学生と言っても、気持ちは社交界の貴族なのか、全員がおしゃれしていた。


 テーブルの上には、ワイン、蒸留酒、彩り鮮やかな料理。全て、自分がサザビー商会を通して、手配したのだが、学生だからと言って、適当なものを用意せずに良かったと思う。


 当初は、オラール家側に着けば、これほどの豪奢な待遇を受けられるぞ、というアピールも兼ねて用意したのだが、これくらいで丁度なのかもしれない。


 俺は、そんな事を考えながら、会場を見渡す。会場は埋め尽くさんばかりに人が集まっており、各人にアルフレッドの派閥の人間がさらりと、派閥外の人間と楽しく話している。


 これに、関しても、厳しく指導した。ごりごりに勧誘をすれば、引かれてしまう、もしくは、嫌な印象を与えてしまう。なので、直接的な勧誘をせずに、会話の節々に、アルフレッド側について、良かった事、楽しんでる事を話させる。


 そして、食いついたら、軽い感じで誘い、アルフレッドの元へと連れて行く、というやり口だ。軽い気持ちでついて行ったが最後、アルフレッド直々に勧誘されれば、断りづらくなる。その場で逃げても、後に悩まされ、ストレスから解放されようと、派閥に入りたくさせる狙いがある。


 本当、我ながら詐欺のようなやり口だが、なりふり構ってられないので何の後悔もない。


 それから、パーティーが進み、アルフレッドを訪れるものがいなくなったので、俺は声をかける。


「アルフレッド様。傘下になりそうな人間はいましたか?」


 アルフレッドは俺の問いに、不機嫌そうに答える。


「ふんっ。貴様の小賢しい策のせいで、ほぼ全員だろうな」


 おおっ。それは良い報告だ。パーティを開いて良かった。


 今回、声を掛けたのは、前々から目につけた有力な生徒や、俺が説得すれば靡きそうな生徒だったので、ある程度は大丈夫だろうと踏んでいた。しかし、ここまで効果があるとは思わなかった。


 アルフレッドが卒業するまであと少しだが、アルフレッドがいるうちにもう一度くらいパーティを開いてもいいかもしれない。


 それにしても、なんて声をかければ、ここまで効果が出るのか気になり、アルフレッドに尋ねる。


「アルフレッド様の元に来た学生に声を掛けてましたが、なんて言ったのですか?」


「お前が知る必要はない」


 アルフレッドから、相変わらずの、愛想ない返事が返ってきたので、諦める事にする。


 しかし、今後の活動の上で知っておいたほうが得だという結論に達し、アルフレッドから聞けないのならば、言われた側に聞こうと動いた。


「やあっ。トリコ君」


「ああ! クリス君じゃないか!」


 顔を真っ赤に染めたトリコ君は、陽気に手をあげた。


「いきなりなんだけど、聞きたいことがあるんだ」


「なに? 何でも答えるよ!」


「アルフレッド様から何を聞いたの?」


「いやあ、貴族としての心構えには感心させられたね! あと……」


「あと?」


「よくわかんないけど、『俺に何があっても、ドレスコードの奴を信じろ』って」


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コミックス2巻6・26日に発売ですよろしくお願いします>
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