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模擬戦前日

活動報告あります。

 

 俺は今、上流階級が好むと有名な喫茶店の窓際の席に座っていた。


 店内は白いテーブルが所々に並び、赤の絨毯が敷かれている。天井にはシャンデリアとキラキラと美しい。

 そんな店内は、襟が詰まったシャツやマント、女性は裾の長いドレスと、いかにも貴族といった身なりの客がティーカップを片手に笑みを浮かべている。


 あたりには、スイーツの甘い香りと紅茶の吹き抜けるような爽やかな香りが交じり合い、高尚なものへと昇華している。


 俺も陶器の滑らかなティーカップに口をつけ、紅茶を含む。


 紅茶には、ハーブやミントを使っているのだろうか。人を落ち着ける作用のある香りのはずだが、居心地が悪くどこか落ち着かない。


 仕方ないので、窓の外に広がる王都の町並みを見つめ、目の前にいるユリスがケーキを食べる終えるのを待った。


 赤い屋根の建物や、青い空に映える立派な王城を眺めながら思い返す。


 王都を抜け出した後、すぐに俺は使者を出した。その内容は、リストにあった戦場になりうる場所の調査とクレアの父が酒を飲んだ時の様子だ。


 使者が戻って来る間、俺はクレアを倒すための案を考えて待っていた。


 そして、今日。使者が戻って来ると連絡を受け、サザビー商会へと立ち寄ると、商会の客室にユリスがいたのであった。


 俺は、何故ユリスが来たのかと思い、問うと「お兄様方や前子爵様に逃走経路を伝えるためです」と答えたので、ああそういえば頼んだなあと納得した。


 その後、ユリスにその場で話をしようと言う前に、どこか期待の籠った瞳で、「落ち着けるところで話しましょう」と先手を取られた。


 嗚呼、めんどくさい。その場でいいじゃないかと思ったが、怖い思いをするのも嫌なので、クレアのデートの場所を探しているときに偶々見つけたこの店を選んだのだった。


 侯爵家の令嬢とはボロい酒場を選んだというのに、自分の家のメイドに対しては高尚な喫茶店を選ぶとは、我ながら何とも不思議な気持ちである。


 まあ、案内した際、ユリスにここを案内した時にユリスの声が少し弾んでいたように感じたので良いか。


 実際ユリスを見ると、先ほど来たばかりなのに食べ終え、優雅にナプキンで口元を拭っており、満足そうにしている。


「さて……報告を始めましょうか」


 ユリスはナプキンを綺麗に机に置いた。


 やっとかと思ったが、俺はただそれだけの所作に呑まれて息を飲んだ。


 というのも、今のユリスは、サザビー商会でかっぱらって来た青を基調とする肩の露出したドレスを着ており、輝くような銀髪が映え、美しい。そんな姿のユリスから、誰もが思い浮かべる王女のように優美で、品位、風格といったものを感じたからであった。


 返事がうまく出来ずにいる俺を気にすることなくユリスは続ける。


「模擬戦の場所ですが、私が実際に川の水位から土質まで調査して来た詳細をまとめて来たものを持って来ましたのでそちらをご覧になればと」


 あれ? ユリスが調べて来たのか? ただでさえ今王都で帰れないというのに、仕事とか良いのだろうか?


 意外にもユリスが自分で調べに行った事に驚き、畏れを忘れて尋ねてみる。


「えっユリスが調べてくれたの?」


「はい」


「その間、仕事とかって……」


 俺がそこまで言ったところでユリスが口を挟む。


「クリス様」


「な、なに?」


「今、ドレスコード家は危機に瀕しています」


「ま、まあ」


 いつものことだろうと思いながらも、ユリスから放たれる圧力に屈して相槌を打った。


「ええ。ですから、最も有能な私が行うのは当然ではないですか?」


「ま、まあ」


「ご理解頂けたようで何よりです。クリス様には侯爵令嬢と婚姻するわけにはいきませんからね。もっと手近な人間と婚姻するべきです」


「……ソウデスネ」


 ユリスの有無を言わせぬ雰囲気からはただ相槌しか打てなかった。


 しかし、何かがお気に召したようでユリスはご機嫌で続ける。


「はい。クリス様は手近な人間とお似合いだと思います」


 別にそんなことが聞きたい訳ではないのだが、まぁ機嫌を損ねてもあれなので、一通り聞く側に徹する。その後、頃合いを見計らってアルカーラ侯爵がうちの店に来ていた時のことを尋ねる。


「あと、アルカーラ侯爵の件だけど」


「その件ですか。どうやら最初、家臣には酒を飲むなと言われていたそうです。しかし、……」


 ユリスの推測も交えて告げた内容はこうであった。


 元々アルカーラ侯爵は呑まされることはなかったのだという。しかし、アルカーラ侯爵は俺の領地の特産品を実際に知るため、蒸留酒を頼んだのであった。その蒸留酒はうちの店でも高品質のもので勿論アルコールが高い。家臣たちは侯爵に呑ませまいと、その酒を飲んでいたのであったが、アルコールに負け、侯爵は勝手に飲み始めたのだという。その後は、侯爵が頼みに頼み、俺が去った後ですら浴びるように飲んでいたという。


 最後にユリスは、侯爵が酒に強すぎるという事が止められていた原因ではないかと締めくくった。


 俺はその話を聞いて、確信した。


 酒に強いか否かは遺伝的なものが関与するとテレビで聞いた事がある。


 アルコールの代謝に関与する酵素は二つある。そのうち片方の酵素を作る遺伝子の型は1と2があり、2の遺伝子から作り出される酵素は働きが弱いらしい。その為、2を持つ人は酒に弱くなるらしい。


 父母から伝えられる遺伝子が両方2・2型を持つ人が東洋人には多く、酒に弱いとかなんとか。


 異世界だから酒に強くなる遺伝子があっても不思議では……と言うか、大切なのは、父に似てクレアは酒に恐ろしく強いと言う事だ。


 だがこれが事実だとすると、模擬戦に試せそうな事がある


「どうしたんですかクリス様? 急に笑みを浮かべて」


「いやね。行軍だったり、陣取りだったり、本気で戦の真似事をするなら行けるかもと思ってね」


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コミックス2巻6・26日に発売ですよろしくお願いします>
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