治水工事
あれからユリスの計画を実行した。
治水工事関係はジオンに任せ、清掃業務と警察隊をハルに編成してもらった。
はじめの方は上手く行かなかったが、警察隊による取り締まりが強化されていくのにつれ、スラム街はみるみるうちに消えていった。
消えていくに伴い、増える公務員の対処にハルやジオンの仕事量は増していき、立派なブラック会社の社員のようになっている。
また、子爵軍はユリスの訓練に全部振ることになり、とても落ち込んでいた。あわれなり。
治水工事では、俺の魔法で、形にあった石材を死ぬほど辛い思いをしながら大量に出して、それを用いて防波堤を築いたり、水路を整備したり、水門を作ったりしている。
人件費がめちゃくちゃかかるんだから、材料費ぐらいは節約しないとね。てか、魔法の使い方こんなんでいいのか……
そして、今日はその治水工事の視察に来ていた。辺りには、キラキラと日の光を浴びて輝く川を中心にして、重そうな石材や木を運んだり、組み立てたりしているガタイの良い労働者が沢山いた。
そんな、労働者とは毛色が異なった設計図らしき紙を片手にして、労働者を指揮する線の細い未だにあどけなさが残る銀髪の青年に声をかけた。
「現場の指揮まですまないね。ジオン」
「いえ、なかなかやり甲斐のある仕事で自ら指揮を執って完成させたかったんで!」
ジオンは見るからに疲れ切っていたが目だけは輝かせていた。
「そうか。まぁ無理はしないようにね。それにしても防波堤も立派なものが出来ているし、水門もよくこんなものを建てられたな」
「ありがとうございます。まあ、自慢になりますが、これだけのものを作れるのは僕ぐらいですよ」
「流石だな。この後はどうする予定なんだ?」
「はい。このあたりの風の強い地形を生かして、風車を建てて大規模な干拓をしようと思っています」
「ああ、以前僕が思いつきで言ったやつか。実際にできそうなのか?」
「はい。工夫すれば確実にできると思います」
本当にできるのかすげえな。てか、有能すぎだろ。
「流石だなぁジオンは。やはり、ハート家の家系は優秀だねぇ。というか俺はハート家について何も知らないのだけど教えてくれない?」
「はい。自分で言うのもなんですけど、ハート家は子爵家で過去に将軍や宰相も輩出してるいる名門家です。そのため、幼い頃からスパルタ教育を受けるため優秀なんですよ」
「すっげえ! でも、なんでそんな家の娘であるユリスがうちで働いているんだ?」
と聞くとジオンは苦虫をかみつぷした顔になって口を開いた。
「姉は、ハート家の中でもずば抜けて優秀で、武術の才も学術の才も優れ容姿にも恵まれ、王都の学院も史上最年少の10才で卒業という快挙を成し遂げ、やんごとない方々に欲されたのですが……」
「ですが?」
「あの性格ですので、婚約も仕官も行く先々で相手を激怒させたり号泣させたり心を折ったりして断わられ続け、唯一あの性格を受け入れられたのが、あまり気にしないプライドのないドレスコード子爵家しかなかったのです」
「……」
俺は、途轍もなく微妙な気持ちになって黙り込んでしまった。





