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パーフェクト・ナンバー  作者: なつ
第二章 三十六枚銅貨
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 4

 門を抜けると、向こうから大柄な男が駆け寄ってきた。この暑い中ご丁寧にスーツを羽織っている。非常に体格がよく、頬に大きな切り傷がついていて非常に痛々しい。

「やあ、隆志君、待っていたよ」

「どうしたんですか?」

「ええっとだな……」

「ああ、こちらは権藤さん。今回の事件を担当してくれている、警部?」

「はい、まあ、警部であります。こちらのお二人は?」

「僕の友達の甲斐雪人君とその妹の桃花ちゃん」

「事件のお話は神田君から聞いています」

「そうか。ああ、それでだ、事件が新たな展開をみせてしまってな、それを報告に来たわけだが、出かけているというので」

「何かあったのですか?」

「うむ。実は、第二の事件が発生してしまった」

「いつ?」

「つい今しがた。現場に残っていた弾から凶器は同じものであることがすぐに判明した」

「それも金目当てだったのか?」

 甲斐雪人の後ろから篠塚桃花が声を出した。

「金庫が荒らされていたところまで確認してある」

「荒らされていたのか」

 権藤警部が頷く。

「つまり、その金庫の中身は確かめられたんだな」

「そういうことです」

「二時間くらい前にパトカーを見たけど、もしかしてそれ?」

「どちらで?」

「駅前」

「そうです」

 家屋へと続く石畳を歩き、甲斐たちは正面の玄関にたどり着いた。広いスペースに広い玄関だ。横にスライドさせて玄関を開けると、その先のホールはさらに広い。この間の合宿地のロッジよりも広いくらいではないだろうか。左右を見渡すと不思議な置物がいくつも置かれている。甲斐は日傘を閉じると、それをたたみ篠塚に渡した。

「それで、取り急ぎ報告にと思いまして」

「つまりやはり、神田妙は殺されたのだろうということか」

 甲斐の後ろで小さな声を篠塚は発する。

「みんなは? 応接室に集まってる?」

「ええ、先ほどは。そこで説明をしましたので」

「分かった。とりあえず甲斐もあがって」

「おじゃまします」

 神田隆志は甲斐と篠塚の前に立ち、ホールから左に伸びている廊下を進んだ。後ろから権藤警部もついてくる。それから最初の襖を開けると中に入った。

 畳敷きの部屋だ。ざっと数えて二十畳ほど。襖の音に、中にいた人々がいっせいにこちらを見る。車座に座っていて、手前におそらく神田珠、隣に神田友里恵、反対の隣に神田剛が重い表情をしている。ちょうど正面に座っている二人の女性がおそらく家政婦だろう。年齢は同じくらいなので、木林真雪と小倉桂子と思われる。片方はひどく痩せていて、見ていて痛々しいほどだ。特徴的にもう一方はよく肥えていて、めがねをかけている。

「遅かったな、隆志……」

 次の瞬間ガタンと(座敷に座布団があり、その上に座っていたはずだが、この擬音がちょうどよい)音を立てるようにして神田珠が立ち上がる。下地が赤に黄色いチェックの短いスカート、上は真っ白なワイシャツ。結構ボタンをはだけさせていて、そこから同じように白い下着が見え隠れしている。下半分にしかフレームのないめがねをしていて、長い前髪がそこにかかっている。

 と、甲斐が思っている間に神田珠は篠塚を抱きしめていた。

「ぬを」

「なぁに、この可愛いの?」

「な、なんだこの小娘は?」

「ねえ、お兄様、この可愛いのってお兄様の彼女じゃないですよね」

「違う違う。朝話しただろ、甲斐の妹だよ。桃ちゃんって言うんだって」

「甲斐、この小娘を何とかしろ」

 篠塚の困った視線をそのまま神田に送るが、神田は首を振る。

「お兄様はその甲斐君だけでいいでしょ。桃ちゃんはわたしが貰うから」

「わ、わたしはものではない」

「いいの、桃ちゃんはわたしのもの。お兄様、文句ある?」

「お前は前も二人呼んでたじゃないか」

「あれはただの友達だもん。それに甲斐君って頭がいいんでしょ? 彼一人いれば充分じゃない」

「いい加減に離れろ、小娘」

「うふふふふ、照れちゃって、可愛いわぁ。この服どこで買ったの? 超似合ってる」

 ようやく神田珠は体を離す。

「まったく、お前たちは……」

 神田剛が呆れたため息をもらす。

「ええと、それではわたくしはこれで失礼します」

 襖の後ろで権藤が声をあげる。

「まだ捜査の途中段階にありまして、詳しいことが分かり次第また報告にあがります」

「必ず犯人を捕まえてくれ」

「もちろんであります。不謹慎かもしれませんが、今回の事件のおかげで、犯人の特定は容易になったと言っていいでしょう」

「頼むぞ」

「それでは失礼します」

 権藤はきっちり一礼した。

 その後でようやく甲斐は自己紹介をし、神田隆志の隣に並んで座った。正面に篠塚が神田珠の隣に抱えられるように座らされている。困った表情で時々甲斐を睨んでいるが、それがまた可愛い。

「いや、いきなり悪かったね、甲斐君に甲斐ちゃん。ようやく落ち着いてきたところで、高校でできた友達を隆志が呼んだというのに。まあ、家内の作る料理には期待してください。それでは、わたしたちは奥にいるから、あとは君たちでくつろいでください」

 丁寧な言葉でそれだけまくし立てるように言うと、神田剛は立ち上がった。同じように神田友里恵も立ち上がると軽く会釈をする。二人が、先ほどの襖から出て行くと、ほっそりとしたほうの家政婦がそれに続く。

「木林さんも、もういいですよ。仕事の続きをして下さい」

 体格のいい家政婦は神田隆志がそう言うまで動くことなく座っていたが、無言のまま立ち上がるとようやく部屋から出て行った。

「彼女ね、姉の付き家政婦だったから、すごくショックを受けてるんですよ」

「ふーん」

 と、甲斐は興味のない相槌を打つ。

「それよりも、なんだかタイミングが悪かったみたいで」

「いや、甲斐が悪いわけじゃないよ。それに、ずっと停滞していたから、今回の事件でもしかしたら事件が解決するかもしれない……不謹慎かもしれないけどね」

「暗号を教えよ」

 むすっとした表情のまま、篠塚のハスキーな声が響く。

「あら、お兄様、もう暗号の話までしてあるのね、話が早いわ」

「来る途中でね、珠はメモを持ってるか?」

「覚えているわ」

 それから神田珠は立ち上がると、暗号と言われている詩をそらんじてみせた。


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