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顔は恐怖に怯えている。わざと鏡の前で、こういう行為をとるというのは、わたしの中の感情を強く揺さぶる。相手はわたしの顔を直接、あるいは鏡越しにはっきりと見ている。もしも、この男が運よく生き残ってしまったならば、わたしのこの行為はすぐに明るみとなってしまうだろう。だが、この男が生き残る可能性は万に一つもない。それはすでに実証されている。
男の即頭部に当てたオートマチック。
すべてはこのときのために準備が整えられてきたのだ、あとはこの引き金を引いた瞬間に、この男の生命は消えてなくなる。
ああ、これほどの恍惚を今までわたしの人生の中で味わったことがあっただろうか。思えば苦渋の連続であった。
「た、頼む、金なら、いくらでも出す、助けてくれ」
男の命乞いは先ほどからこの調子だ。男を殺したところで、やはり金は転がり込んでくる。殺さなかったことによるリスクのほうが遥かに大きい。だが、金が目的であると思われている間は安全でいられるわけだ。
「もちろん、お前のことを誰かに、告げることはしない、頼む、命だけは」
「なぜ、お前の命を欲しているのか、分かるか?」
男の顔は不気味に震える。分からないと訴えているのか、あるいは、ただの恐怖による作用なのか、判断ができない。
「つまり動機だ。お前が殺されなければならない動機を、お前が持っているか?」
「……分からない」
「なら、理由もなくお前は死んでゆく、それだけだ」
「た、頼む、助けてくれ」
この状態が、どれほど続いたであろうか。もし、この男が本気になって抵抗したとしたら、あるいは、この状況は変わったかもしれないというのに、いざというときに行動が起こせない男など、哀れなだけだ。
それだけ。
「たの、……」
銃声が響く。
同時に、わたしは軽く昇天する。
男は、まるで、糸の切れたマリオネットのように、
力なく、倒れ、醜い、音を、響かせる。