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パーフェクト・ナンバー  作者: なつ
第二章 三十六枚銅貨
11/33

 6

 神田珠はその後で詩を紙に書き写してくれた。甲斐雪人もそれを受け取る。

「六桁の数字が隠されているらしいんだけど」

 甲斐は数回その詩を読み直す。一から八までの数字に、十、五倍など数字に関係がありそうな要素はたくさんある。その中から六個数字を選び出して並べ直せばいいのだろうか。けれど、そんなランダムな暗号だとは思えない。選び出す際に何かルールがあるのかもしれない。

「タイトルはついてないの?」

「ええっと、お兄様、覚えてる?」

「三十六枚銅貨。一から八までを足した数だったはず」

「全然分からない」

「すぐに分かられたほうが困るよ。こっちはこれでもう何年も悩んでいるんだから」

「どこまでがタイトルだ?」

 同じように紙を睨んでいる篠塚桃花が、ふいと顔を上げて神田隆志を見た。

「三十六枚銅貨、まで」

「一から八まで足せば三十六になるのは確かだが、関係があるのか?」

 神田隆志は一瞬驚いた表情をした後、視線を神田珠に送る。神田珠は首を振り、さあ、と言葉を添えて答えた。

「よく妙お姉さまが言ってたから」

「まあよい。金庫はどこにあるのだ?」

「離れに。そうだね、そっちも見てもらおうか」

 神田隆志に促されるように立ち上がると、最初の廊下に出た。それから廊下を奥に進み、角を曲がる。両側にいくつも襖がついているが、そこを抜けると、左右は吹き抜けの庭に出た。先には別の建物があり、正面に扉がついている。

「じいちゃんの書斎だったところなんだけどね」

 そう言いながら、神田隆志はその扉を手前に開ける。すべての壁面に本棚があり、古めかしい本がたくさん置かれている。学園の図書館にも置いていなさそうな本が多い。ちらと甲斐が篠塚を見ると、彼女の目は輝いて見えた。

 その正面に、おそらく元は机があったであろう場所に、でんと、金庫が置かれている。

 扉の正面には三つのダイヤルがついていて、その右上に長方形のボタン。そこが赤く光っている。

「あれ、今日誰か回したのか?」

「今日はお兄様の番でしょ?」

「いや、俺はまだ回してない」

「どういうこと?」

「ボタンが赤く光っているだろ。あれが青くならないとダイヤルを回せないんだ。つまり、誰かが二十四時間以内にあれを回したってことなんだけど。珠、昨日は何時に回した?」

「朝、ご飯の前に……」

「この部屋に鍵はされていないのか?」

「してない」

「なら誰にでも回せるな」

「犯人?」

「何の? 赤の他人でも。この屋敷に入り込むのは楽そうだ」

「そうだけど。何のために?」

「当日はどうだったのだ?」

 神田隆志の質問には答えず、篠塚は質問を続ける。

「当日って?」

「神田妙が撃たれた日のことだ。ここからその部屋は近いのか?」

「もも! もう少し言葉を選びなさい」

「ああ、別にいいよ。離れのここからだと、少しあるかな。姉の部屋は母屋の二階だから」

「誰かが金庫の中身を持っていったのか?」

「開けられたのか分からない。だからこそ、どうにかしてこの金庫を開けたいんだ」

「でもお兄様、確かに誰かがダイヤルを回していましたわ」

「それはいつもう一度回せるようになった?」

「ええっと?」

「神田妙が撃たれて、二十四時間以内か? 後か?」

「えーっと……」

「重要なことだ。殺されてから、金庫の中身が奪われたのか、あるいは金庫が開けてから殺されたのか」

「前、だったと思います。それにしても、桃ちゃんってなんだか知的な話し方するのね。もうもう、ますます可愛いわ」

「苦しい、放せ」

 その後しばらく篠塚は考えるように金庫を睨んでいた。甲斐も暗号を考えながら金庫を見ているが、金庫を見たところで、暗号が解けるとは思えない。

「さあ、辺りも暗くなってきたし、母屋に戻ろうか」

 神田隆志に促され、離れの書斎を出て母屋に向かうための廊下を歩いていると、正面から家政婦の木林真雪が足音を響かせながらこちらに走ってきた。手には小型の電話を持っている。

「隆志様、お電話です」

 木林は神田隆志の前まで来ると、その電話を手渡す。

「誰から?」

「学園の方だと思いますけど」

「ありがとう、もしもし?」

 その場で神田隆志は電話に耳を当てた。

「あ、え、は、はい。芹沢様。え、ええ、えー、はい、代わります」

 くるりと向きを変え、甲斐に向き直ると電話を差し出す。今、芹沢と聞こえたのだが、まさか、芹沢雅のことだろうか?

「僕に?」

「そう。芹沢様からだよ、何だかあせっているみたいだったけど?」

「もしもし」

「甲斐君?」

「は、はい。そうです」

「突然ごめんなさいね、旅行のじゃまをするつもりはなかったのですけど、今日拝見させていただいた手紙に神田君の名前がありましたから、もしかしたらそちらに出かけられているのかしら、と思って電話を差し上げたのですが、あっていてよかったわ」

「読めていたんですね」

「日本語ですもの。多少崩れていても読めますわ」

「どうしたんですか?」

「実はね、先ほど図書棟に行ったのですけど、桃花がいないのよ、秘密の部屋にも、時計塔の途中の隠し部屋にもいないの。これから学園内も一通り探そうと思っているのですけど」

「ああ、それなら大丈夫ですよ」

「あら、やっぱり甲斐君とご一緒なのね。今も近くにいるの?」

「はい、隣にいます」

「甲斐君が無理やり連れ出したのかしら?」

「まさか」

「それはそうよね。でも、あの子から言い出したのだとしたら、それってすごいことだわ。もうずっと図書棟から出たがらなかったんですもの」

 電話の向こうで、芹沢の微笑んでいる姿が浮かぶ。

「でも、たとえ自分の意思にしろ、決して桃花を一人にしてはだめよ。多分離れようとしないだろうけど、あの子泣き虫だから」

「泣き虫?」

 理解できず甲斐は聞き返す。

「ええ、すぐに分かるわ」

「よく分かりませんが」

「それから、桃花を連れて行った責任は取って下さいね」

「責任、ですか」

 芹沢はふふふと笑ってから続ける。

「そういうことですわ。それでは、わたくしからの電話でしたと桃花には伝えないでくださいね」

「もう手遅れだと思いますが」

「そうね、その通りだわ。わたくしの誕生日までには帰って来られるのでしょ?」

「そのつもりです」

「それでは桃花をよろしくお願いしますね」

「はい、分かりました」

 電話が切れた。甲斐が電話を神田隆志に返すと、彼はそのまま木林に電話を渡す。ちらと篠塚を見るが、ふんという感じに頬を膨らませて甲斐を睨んでいるように見えた。



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