誰かは知っている
雨が降れば最上階は見えなかった。
いつも工場の煙りに全体は霞んでいた。
子供の頃にはなかったビルだけど
なぜか赤ん坊の時には建っていた気がする。
ビルが建つ前に父は何処かに逃げた。
完成してから代わりに人が居なくなった。
みんなが望んだ未来だけど
なにも期待しなくなっていた。
雨に煙るビルの上から見渡す世界の終わり。
誰からも見えなくなるけど、
俺も何も見えなかった。
雲の先はまだ遠く
見えない事を知れただけ。
雨がいつまでも降っていた。
止まない雨なのかもしれなかった。
永遠に最上階は見えなかった。
最上階からこの場所も見えないのだろう。
誰も見えない世界から
何も見えない世界に行こう。
今、僕の事を
この世界の誰かが知っているだろうか
僕は
少なくともあなたの事は知らない。