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神火に参加しに来たはずなのに気づけば飲み会~神の炎 Part-終-~

 結局断る事もできず、ツクシとリンとで三人での夕食となった。


 言わずもがな、ツクシは飲む、飲む、飲む。

 目を開けているのか開けていないのかわからないほどの細目だから、飲みながらも一瞬動きが止まると、寝ているのかおきているのか判断に困ってしまう。

 リンは呑みまくるツクシに食べよ食べよと進められたまま自分の分の他にツクシの分をほとんど食べてしまって、腹を膨らませて苦しそうに寝ている。


「そういえばぁ、ユウちゃん?彼氏できへんのぉ?」


 ほとんどぐでんぐでんに酔っ払っているツクシが体をクネクネとさせながらユウにしなだれかかかるようにして問うてくる。


「えー、そういう人はいないですし、あんまり考えた事ないですねぇ」


 ユウは思わず苦笑いだ。


「そうなん?ユウちゃん可愛いからぁ、いくらでも男がよってくるんとちゃうん?」

「いや、普通ですし、よってくる事もなかったなぁ」

「ああ、勇者やしねぇ、でも、勇者だからこそ貴族はんとかぁ、王子様とかぁ、きはるんちゃいますのん?」

「はぁ、敷居が高いんですかねぇ」

「高いのは枕だけにしときぃ」


はぁ、と二人同時にためいきをつく。


「というか、ツクシさんはどうなんですか?スタイルもいいし、美人だし」

「ぜ~んぜん。なんだかねぇ、よってもこないし、挨拶しただけで引け腰になる人もいたりしてねぇ、最近特にひどいんよぉ」

「へぇ…なんででしょうねぇ」

「うち、そんなこわい?」

「いえ、多分そんなことはないとおもいますけど……」

「うぅん、なんでやろかぁ」


ユウとしては笑顔の圧力は怖いと思うのだが、別段ツクシから声をかけられて引け腰になるような事は何もないと思っていた。


「あぁ、ヨギさんなんかはどうなんです?」

「よーくん? あれは、弟みたいなもんよぉ?」

「はぁ……弟……」


ヨギの態度は明らかにツクシに対して気がある態度であるのは、鈍いユウでもなんとなく気づいていた。


(がんばれ、ヨギ!)


なので、心の中でエールを送る。


 女性同士の会話は夜が更けても続いていた。

主に何故彼氏ができないのか、この先結婚できるのか、というツクシの悩みが中心となるのではあるが。

 すっかり泥酔しているツクシは、そろそろ重ねてきた年齢が気になるとか、それなのに婿の当てが全然ないとか、そんな事を話しながら段々涙目になっていく。


「ユウちゃぁぁん、どないしょぉ~、うちお嫁にいかれへんかもぉ~」

「あぁ、はいはい、大丈夫ですよぅ」

「うわぁ~ん、ユウちゃんとこお嫁にいくぅー」

「えぇぇ……」


わんわんと泣き出すツクシ。


(泣き上戸だったのか……)


以前ツクシと会った時はまだお酒を飲める歳ではなかったので、ユウは知らなかったのだ。


「ユウちゃぁん、お嫁にもらって~」


 その上で絡み酒のようだ。

 泣きながら絡み付いてくるツクシをなだめているうちに、ツクシはユウのひざに頭を乗せてすぅすぅと寝息を立て始めてしまった。


「はぁ、なんだかよくわからないけど、ようやく落ち着いたなぁ」


 傍らに置かれたツクシのお酒をひょいと取ると、お猪口に注ぐ。

 ちびり、と少しだけ飲んで、ほぉと息をついて、窓から外を見る。

 雪はやんでいて、ぽっかりと口をあけた月が優しい光で夜を照らしていた。


 その月を眺めながら、もう一口。

 月を流れていく雲が覆って、月光が翳る。


 ――もう一口。


 雲間からまた月が顔を出す。


 ひざの上には寝息を立てているツクシ、少し離れて布団にくるまってすやすやと寝ているリン。

行灯の灯りを落とすと、柔らかな月明かりだけが差し込んで、そっとユウ達を照らす。


 残っていたお酒をくいと飲み干して、ツクシの頭を撫でると、ツクシは「うぅん」とうなって寝返りを打った。

そんなツクシを見てユウは微笑む。起こさないようにそっと抱え上げて、リンの隣に寝かせてあげた。


「きっといいお婿さんがみつかりますよ?」


 ツクシに語りかける。月光が照らしたツクシの寝顔は、穏やかだった。


(たまには、こういうのもいいかもね)


 灯りは落としてしまったから、部屋の中で頼れるのは外から差し込む月光だけだ。

転がっていた酒を一所にまとめて、ユウは窓側に座って残っていた酒をあおる。


 ちびりとお酒を飲んで、ユウは思う。急に思い立ってここへとやってきたのだったが、きてよかった、と。

 突然の来訪にも関わらず、ツクシはユウや、特にリンを初めて出会った頃と変わらない笑顔で迎えてくれた。

 思えば、帝都や港町に行った時より、リンははしゃいでいたように思える。

 帝都では、どうしてもリンを見る目は恐怖や奇異の目といった、あまりいいものではなかった。

リンももしかしたら敏感にそれを感じていたのかもしれない。絶対にユウの傍を離れなかったからだ。

 それを気にして港町に行ったときは、フードを被っていても変に思われないよう変わったローブを着せていたけれど、なんとなくそれもユウとしては微妙な気分だった。リンもどちらかといえば、行き帰りの道中の方が楽しそうだったように思える。


 けれど、ここの人達は良くも悪くも余所者に無関心で、リンを見る目も、こういう子もいるだろう、といった感じの目で、悪いものではなかった。

 何より、ツクシやヨギを始めとした「天花菜取の銀狐」の人達は、暖かく迎え入れてくれた。

だからなのか、リンは最初こそツクシに警戒をしていたようだったが、すぐにツクシの傍へといくようになっていた。

 それに街についたときや、神火を見に行く時もはしゃいでいたし、ツクシを何度も見ていたり、一緒にいるのを嫌がる様子もなかった。


 ちびりとお酒を飲んで、寝ている二人に視線を移す。

 リンが少し苦しそうにもぞもぞと動くと、それに呼応するかのようにツクシが寝返りを打つ。

ユウは思わず噴出しそうになる。

 並んで寝ている二人の頭のてっぺんをみて、なんだか姉妹みたいだとユウは思った。

 角の有無こそあれど、同じ黒髪という事もあって、つむじの位置が似ていたり、なんだか息があっているように二人してもぞもぞしたり寝返りを打ったりしているからだ。


 そして二人とも美人だ。

 十人並みの自分と違って、ツクシもリンも顔立ちが整っている。特にツクシはユウよりも少し背が高いし、それに風呂で見たあのスタイル。

 正直羨ましいと思うし、それで何故婿候補がいないのか、とも思うがそれ以上は考えない事にした。神火でのどじっぷりなどを見ると少々残念な感じの美人にも思えるのだが、ユウはそんなツクシが大好きだった。

 そしてリンは、なんとなくツクシのような感じの美人になるのではないかと思える。

 雰囲気とか、立ち居振る舞いとか。もう少し大きくなったらツクシのところに住み込みとかしたらもっといいかもしれない。


「はぁ……」


 そこまで考えてユウは手に持ったお酒を少し飲んで、ため息をついた。

 そもそもオーガ族という種族は魔族に属する上に、滅多に人前に姿を現さないのでその生態はよくわかっていないから、ユウも預かってるとはいえ知らないことの方が多い。

 唯一、民話や神話などに残る話の中で、リンのように人語を解し、人と交流するオーガの話があって、そのオーガは何百年も生きたという記述があった事から、長命種ということだけはわかっている。

 ユウは勇者と言っても、人間であることに変わりはない。

 リンからくらべれば、とても短い寿命かもしれないから、ずっと一緒にいるということはかなわない。

 もしかしたらリンもオーガ族の下へ戻ると言い出すかもしれない。


いつまで一緒にいられるだろう――


 リンの寝顔をみながら、ユウはそんなことを思いながら、けれど、すぐに頭を振った。


「考えても仕方ない、か――」


 独りごちて、残ってたお酒をくっと飲み干す。

 酔いが回ってきたのがわかって、頬が少し熱い。


 窓の外では、月が出ているにもかかわらず、また雪が降り始めていた。

はらはらと落ちてくる雪を月明かりがてらすと、銀色の花びらのように見えて、キラキラと光が舞う花吹雪のようだ。


(あぁ、リンにもあのときの桜吹雪…を…)


 その雪の舞をみていたユウが、かつてみた桜吹雪を思い出しかけて、やめた。


「そのうち機会もあるよね」


 また独りごちる。

 何故かずきりと頭の奥が痛んで、なんだか、あの時の事を思い出してはいけないような感覚に襲われた。

 あの桜吹雪を見せてくれたのは誰だったか、今は思い出せなくてもいいや、とユウは思う。

「そのうちわかる」、だろうから。


 夜は更けていく。


 月明かりの下、しんしんと降り続ける雪は、すべての音を吸い込んで、静寂だけを耳に残す。

今頃は神の炎の燃え跡も雪に埋もれているだろうか。


 横になって、目を閉じると感覚が広がっていくような気がする。

聞こえないはずの雪の降る音、地面にゆっくりと舞い落ちて、地の熱で溶ける。

地が冷え切れば、とけずに積もっていく。

 神火の跡にも雪は舞い落ちる。

 あの炎の面影はまったくなくなって、ただ雪の白と灰の黒がいりまじるだけだ。


 ユウの感覚は街の空を飛び回り、やがて宿へと帰ってくる。


 帰ってきた宿には、三人の娘が、穏やかな顔ですやすやと寝ているのであった。



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