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リンの理想のお姉さん?~神の炎 Part-1~

 風を切って飛ぶ。

 いつもよりゆっくりとではあるが、真正面から来る風の音は相変わらずうるさくて、耳をふさぎたくなるほどだ。

 しかし、ユウはリンを抱きかかえているし、リンはユウに確りとしがみついているから耳をふさぐ事ができない。


 今、ユウとリンは少し傾きかけた陽を背にして飛んでいる。

 リンの眼下には雲海が広がっているが、時折その隙間から山や湖などが見えて、その度にその景色に目を奪われて耳障りな風の音など忘れそうになっていた。

 ユウの背中には少し大きめの袋が風で飛ばされないようにしっかりと結わえ付けられていて、時々大きくはためく。その度にユウは少し速度を落として落ちないように気を使っているようだった。


 ユウ達は東に向かって飛んでいる。

 今回はスカートは履かずに、きちんと店も閉めてきた。これで、この間のような恥ずかしい思いもする事は無い。

 ユウは思い出して、少し顔を紅くしたが、ぶんぶんと首を振って思い出しかけた事を打ち消していた。

 自分の頭の上でぶんぶんやられたものだからリンが訝しげに頭をあげた。

 リンからユウの表情は見えないし、ユウからもリンの表情は見えないのだが。



 年の暮れ、帝都も小さな村も例外なくなんとなく慌しくて、まさに年の瀬といった雰囲気が漂う。

けれど、『小道』は相変わらずで、客も来るでもなく、いつもは目に付かないような場所を掃除したりするくらいで、慌しさとは無縁だった。


 ユウもリンも思い思いの場所を掃除していたのだが、その最中、リンが何着かの服をユウのところに持ってきた。


「着られなくなった」


 一年前に買った服だったのだが、着られなくなったという。

 袖が短かったり、肩幅が窮屈になっていたりと理由は様々だが、以外に数が多い。

ユウもユウで、着なくなった服や、いらなくなったものがいくつか出てきていた。


 服は誰かリンより小さな子にあげれるだろう、と思ったのだが、ユウにもリンにもそんな子供を持ってる知り合いはいなかった。

 それなりに愛着のある服だし、捨ててしまうよりは誰かに着て欲しいとは思うのだが……


 他にも、いらなくなった雑貨や、なんとなく取っておいたリンが字を練習した紙など、ちょっと処分をためらってしまうものもある。

 どうしようかと思っていたところに、ユウはある事を思い出す。

 その手があったか、とユウはポンと手を叩いた。


 そんなわけで、大荷物というほどではないが持って飛べるくらいの荷物をもって二人は飛んでいる。

 以前ユウが立ち寄った事のある東の街、山々に囲まれた盆地にある街で、他の地域にはない独特の雰囲気や風習があるその街へ向かっていた。

 街の雰囲気自体が、”和む”といった感じの落ち着いたたたずまいで、ユウが聞いただけでも他の地域にはない風習や服があった。


 今回は年の暮れに行われるという「神火」という行事がお目当てだ。

 その地域で信仰されている神にささげるために火を焚いて、その際に衣服や人形、祈りをこめた札などを一緒に焚いて一年間の無事を神に感謝するという習わしだった。

いらないものを焚くわけではなく、あくまで一年間の感謝をこめて、その年に使ったものなどをくべるらしい。

 それを思い出してユウは、リンの成長と無事を感謝しつつ、ついでに自分も、と思い至ったのだ。

なんでもそこの神様は別段信仰心が厚くなくても「参加することに意義がある」という教えらしくて、異教徒というか特に信仰するもののない人でも気軽に参加しても大丈夫という話だったので、遠慮なくいってみることにしたのだった。


 陽が沈んで、すこし薄暗くなり始めた頃、二人はようやく街にたどり着いた。

 雲を抜けると、少し雪がちらついていて寒さを感じる。

 空から見たその街は、桝目のように家や店が整然と並んでいて、時々あちらこちらに開けたような広場が見える。屋根屋根に雪が積もっていて、町全体が薄い雪化粧に覆われていた。


「雪だ!」


 リンは白い雪に覆われた街をみて叫ぶ。

 人の数はまばらだったが、遠くの方に大きな光が見えて、そこに向かう人がちらほらみえていた。

目的地に近く、人の姿があまりない広場にユウ達は降り立った。


たまたまその広場に元気と頑丈さが取り得の労働少年がいれば、


「空から女の子が!」


と叫んでいただろうが、ゆっくりと空から降りてくるユウ達を見るものは少なかったし、見たとしても誰も特に気にした様子もなかった。

 いや、気にはしていたのだろうけれど、誰も何も言わず、僅かにユウたちをちら見するくらいで誰も声もかけずに広場を歩き去っていった。


「さて、まずはちょっと挨拶してこないとね」

「どこに?」

「以前にお世話になった人だよ、リンもちゃんと挨拶してね」

「子供じゃないよ?」

「わかってるよ」


 着陸した広場からしばらく歩くと、石畳の大きな道が整っている繁華街へと出る。

 ランプをいくつも置いて照らした看板がたくさん並んでいて、それでいて建物は独特の建屋だから、どことなくアンバランスな感じが妖しさをかもし出している。

 リンはワクワクとソワソワを繰り返して回りをキョロキョロとしてみている。


「似てる!」


一軒の宿屋にたどり着いたとき、リンがユウの裾をつかんでいった。

リンの一言にユウも辺りをざっと見回して、「ああ、なるほど」と思い至る。


目の前の宿も含めてここの雰囲気がリンが愛読していた「青い烏」の一シーンに雰囲気が良く似ているように思えた。

ここはあの国だったのかー、とリンがぽかんと口を開けて周りの景色を見ていると、二人の気配を感じたのか宿の中から一人の女性が姿を現した。


「あらぁ? ユウちゃん?」


 袖と裾が長くて、かっちりしたような服で、リンにはこれまで見たことがない服だった。長い袖を紐で縛って垂れないように上げている。

 ユウよりいくつか年上に見えて、それ以上に雰囲気がゆったりしているというか大人びているというか、見ているとほんわかしそうになる感じをリンは覚えた。

 さらに顔立ちは整っていて、目は細めているが、美人であることが伺える。

 そこではっと気づくリン。


(理想……!)


以前想像した未来の自分予想図に近い人間が目の前にいた。

大好きな絵本のワンシーンに、自分の理想の姿の人。リンの胸は今大きく高鳴って、ワクワクとドキドキがまざって、リンの胸中に思い浮かんだ言葉、


(ワクドキハート!)


になりつつあった。


「あ、ツクシさん! お久しぶりです!」


 想像を膨らませているリンの側でユウが元気よく頭を下げる。

 目の前のリンの理想像を地で行く女性はツクシというらしい、リンはまじまじとツクシを見つめる。


「なんやぁ、ユウちゃんこないな子供つくってぇ、お相手いたのぉ?」


リンの視線に気づいて、ツクシもリンへと視線を落とす。


「かわええぇ、こんなおっきな子ぉ、いつのまにぃ……」

「いや、あの誤解ですけど……」

「子供じゃないよ?」

「あらあら、まぁまぁまぁ、かわえぇなぁ?」


ツクシはまったく耳を貸さずにしゃがみこみ、リンの顔を見ながら優しく微笑んで頭を撫で始めた。


「あらぁ、角あるんねぇ……鬼っ子やねぇ」


頭を撫でていたツクシはリンの角に気がついたが、驚いた様子もなく、ニコニコとしてリンの頭をなでている。


「あー、オーガの子、です。えっとぉ……」

「えぇ……ユウちゃんの彼氏はオーガやったん?」

「違いますし! 彼氏なんかいたことないですし!」

「んじゃぁ、どうして? あ、立ち話もなんやねぇ、中へお入りぃ」


しばらくリンの頭を撫でつつユウの事をいじっていたツクシだったが、満足したのか二人を宿に招きいれた。

宿の入り口では、背の大きい男が3人を出迎えてくれた。


「ようこそ、天花菜取つくしどりの銀狐へ」


ぺこりと頭を下げる男。


「……あぁ。ようこそぉ、銀狐へぇ」


男の一連の動きを見たツクシが、一瞬間をおいてその隣に並んでユウとリンへ頭をさげた。


「姐さん、しっかりしてください。お客様ですよ?」

「ちゃうんよぉ、ユウちゃんは、お友達なのよ?」

「……知ってますけど、お客様でもあるのです。」

「せやかてぇ……」


宿に入って男の歓迎を受け、トコトコとツクシが男の隣に行って頭を下げ、なにやら言い合いをするまでを、ユウは呆気に取られて見ていた。

リンはまだツクシをじっと見ている。


「姐さん、仕事してくださいよ……」

「したはるもん、仕事したはるもん」

「いや、もんじゃなくて……」


 ユウとリンが見ている中、ツクシがイヤイヤと手でジェスチャーし、男は困ったという感じで頭を掻いた。


「とにかく姐さん、ユウさん達を案内してくださいよ…」

「あ、そないどしたなぁ」


ぽんと拍手を打って、ユウとリンに向き直る。


「おこしやす、ユウちゃん。遠路はるばるえらいどしたなぁ。今日も飛んで?」


一度お辞儀をし、手を頭の上にあげてヒラヒラとする。


「あはは……まぁ、そんなところです。あ、紹介します。こっちはリン、とある事情で預かってるオーガ族の娘さんです」

「はじめまして!」


ユウにうながされて、リンもペコリとお辞儀をする。


「あらあらまぁまぁ、おいでやす、リンちゃん。挨拶もきちんとできて、えらいおすなぁ」


細めた目、ではなく元々糸目のように細い目をニコっとさせてツクシはコロコロと微笑んだ。


「そなら、ご案内しますえ~」

「あ、ちょっとツクシさん、今日は…」

「泊まって行きはるんよねぇ?話したい事、仰山あるんよぉ~?」

「え、でも……」

「泊まって、いきはりますやろ?」

「う……」


笑顔の圧力を感じたユウ。それを見たリンが、自分を叱る時のユウの顔にそっくりだなと思う。


「はぁ、ツクシさんには勝てないや……えっと、とりあえず、神火に参加しに着たんですよ、今日は」


 廊下をすたすたと歩いていくツクシについていきながら、ユウは今日やってきた理由をとうとうと話した。

そうこうしてるうちに、部屋へと到着する。


「どうぞぉ」


 通された部屋は、まさに”和む”といった感じの部屋だった。

 草を使って作られた畳というものが部屋に敷き詰められていて、背の低い木のテーブルが真ん中におかれている。

 椅子は無くて畳の上に直接座るというここならではの文化だ。


「あ、履き物はこちらへぇ」

「え?」


 ユウもリンも普段は寝る時以外は靴を履いて生活している。

 ユウは初めてではないので知っていたが、リンは靴を脱ぐように言われて少し面食らっていた。


「神火は、もう始まってますさかい、後で案内しますえぇ」


 二人とも靴を脱いで部屋にはいったのを確認して二人の後ろからツクシがそう声をかけた。


 リンは初めての畳の感触や匂いを楽しんでいるようだった。

座ったり、立って歩き回ったり、寝転んでみたり。

そして、ツクシの独特の言い回しも何度もつぶやいている。


「どすえぇ、さかいぃ、してはりますなぁ」


思わず噴出しそうになるユウ。とはいえ、自分もはじめてここに来た時、あの言葉とツクシの立ち居振る舞いに憧れたのを思い出す。

畳の感触を楽しんで、ツクシの言葉を真似して、リンが自分と同じことをやっているのを見て思わず微笑んでいた。


間が空いてしまった、読んでいただいている方には大変申し訳ありません。

一身上の都合により、更新頻度が落ちます、よろしくお願いします。

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