表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/98

ある冒険者の独り言

 みなさん、こんにちは。

 冒険者のホヴィと申します。

 覚えておいででしょうか? 覚えてていただけると大変嬉しいのですが。

 僕は相変わらず、勇者を目指して日々修行中です。


 ところでみなさんはご存知かと思いますが、勇者、と呼ばれる人は二種類いるのです。


 一つは先代勇者ユウのようにお告げによって人を超えた力を得ることのできる『神託の勇者』


 この勇者は異常なほどの力をもって、人類に仇なすものへの剣となるべき運命にある勇者のことです。


 そしてもう一つが、極限まで自身を鍛え上げ、武術や魔法を数多く修めた『人間代表勇者』


 力は『神託の勇者』には及ばないものの、人の限界を超えるとも言われており、まさに一騎当千の強さをもった勇者のことです。


 残念ながら僕ことホヴィは「神託の勇者」のお告げはありませんでした。

 一説に、「十五歳の誕生日の未明にお告げがあり、目が覚めれば、勇者になっている」というものがあります。多くの『神託の勇者』はこれに当てはまります。先代の神託勇者であるユウさんもそうだったと聞き及んでおります。

 なので、十五歳の誕生日というのは僕らにとってはとても特別な朝なのですが、それはまた別の話です。

 僕は何事も無く十五歳の誕生日を終えてしまい、お告げはありませんでした。なので、今は『人間代表勇者』を目指して修行中です。


 ところで、この二種類の勇者ですが、どちらも「勇者」とよばれていて、わざわざ神託の――とか人間代表――とかはつけないのが普通です。

 それ故、御伽噺や伝説で語られる歴代の勇者はその辺りが交じり合って語られていることがあります。

 人間代表勇者が神託の勇者になった例もありますが、それは稀な事で、過去に一度しか確認されておりません。


 とにかく、人間代表勇者と神託の勇者はまったくの別物である事は理解いただけると思います。


 尚、人間代表勇者は、一国、あるいは複数の国家の承認によってなりたっているものなので複数人いることもあります。

 人間代表勇者は主に国家に属していて、つまらない国家の小競り合いの抑制や水面下の戦争と呼ばれている、全世界武術大会などに国家代表として出場する事も多いです。


 一方で神託の勇者は、何年かあるいは何十年何百年に一人といわれています。

 そして、神託勇者が顕現する事はイコールで人類の天敵が現れる、あるいは既に現れている事をさします。

 それ故、神託の勇者には国家を越えて期待が集まり、辛い使命が課せられます。多くの場合、人類に仇成すものとして魔王が現れ、魔族を率いて人間を滅ぼそうとし、それを阻止するために勇者が立ち上がります。


 今度の人類の敵は何であるのか、それはわかりませんでしたが、ある日帝都をはじめとした諸国に魔族の使者と名乗る者が現れ、魔王が失踪したという事を伝えました。

 おそらくその失踪した魔王というのが、ユウさんが勇者として顕現した理由であると考えた各国はユウさんに魔王の探索を命じます。

 その命を請け、ユウさんは歴代の神託勇者よろしく旅立ちます。


 その先々でユウさんの噂は絶えないのですが、強力な魔物を退治したとか、事件を解決したとか、そういう事よりも、


「素敵過ぎる笑顔」


という声がよく聞こえてきて、僕にとってはなんのこっちゃって思ってしまいます。


 それから何年かして、彼女は突然引退を宣言し、どこかへ隠居したというのです。

 まだ二十歳前後なのに隠居、というのも何だか不思議な気もしますが、その引退の理由も公表されていません。

 一部には失踪した魔王を誘い出す狙いがあるのでは、といわれていますが、その真意はわかっていません。

 もしかすると、既に魔王は死んでいて、それを確認できたので引退を宣言したのかもしれません。

あるいは別の理由なのか。

 考えても仕方の無い事ですが、ユウさんの引退宣言を受けて、僕たちのような若い少年少女たちは突如色めき立ちます。


 神託勇者の引退。


 それは自分たちもまた伝説の存在である神託勇者になる可能性がでてきた、ということなのです!


 しかし、僕も、知り合いも、同じ年齢の子に勇者は顕現しませんでした。

 ユウさんが引退を宣言してからまもなく一年がたつのですが、未だに勇者は顕現していません。

まだ可能性はなくはないのですが、これはほぼ人類の天敵からの脅威は去ったと考えるのが妥当でしょう。

 既に十五歳の誕生日を過ぎ去ってしまった僕としては、神託勇者はすっぱりとあきらめ、人間代表勇者を目指す方向に切り替える他ありませんし。




 さて、僕は今、帝都から何日も離れた村の依頼を受け、戦士のウォルさん、魔法使いのリリーさん、リリーさんの執事のジッチさん、同じくリリーさんの付き人でスカウトのトッチさん、そして僕の五人でパーティを組み、とある廃屋へと向かっています。

 依頼元は小さな二つの村。その村をつなぐ街道沿いにある廃屋に、オーガの親子と思しき者が住み着いたらしく、その確認と可能であるならば排除、というのが依頼の内容でした。


 ゴブリンを見間違えたのだろう、とウォルさんは言いますが、その割には、しっかりと装備を固め、準備に余念がありません。オーガである可能性を捨てきらない、そういう少し慎重すぎるとも思える姿勢は、やはり見習うべきところだと思います。ゴブリンであると高をくくったあげく、実はオーガがいて、死んでしまっては元も子もないですからね。


 帝都を出て三日、ようやく依頼主の一つである村が小高い山の頂上から見えました。ウォルさんがあの村だよ、と教えてくれたので、すぐにわかりました。

 その先には森が広がっていて、問題の廃屋は見えません。


 その日の夜営では、ウォルさんが昔の冒険譚を聞かせてくれました。

 僕やリリーさんはその話を食い入るように聴いていました。


 リリーさんは女性の魔法使いで、どこぞの名家の生まれだそうです。

 僕よりも一つか二つ年上で、魔法の才能が有り、また政略結婚の道具にされるのが嫌だという理由で、ジッチさんとトッチさんを連れて家を飛び出して、冒険者になったそうです。


 とにかく、ウォルさんのような経験豊かな冒険者の話は僕たち若い冒険者にとっては学ぶべき事が沢山散りばめられていて、尚且つウォルさんはあのユウさんとも会った事があるというので、話に興味をもたないわけにはいきません。

 様々な冒険譚、凶悪な魔物を倒した話や、山で出くわした謎の生物――これはちょっと眉唾物でしたが――そして、勇者ユウの話。リリーさんは特にユウさんの話に食いついていました。

 最後に、ウォルさんが、


「あの笑顔は凶器」


と、ニヤニヤしながら言ってました。

 また、笑顔の話です。


 勇者ユウには必ずついてまわる、笑顔の話。

 一体何なのでしょうか?

 そんな事よりも、魔物との対決や、そういう話を聴きたいと僕は思うのですが…


 リリーさんはというと、その笑顔の話にも


「やっぱり、そうなのですね!」


と目をきらきらと輝かせていました。

 同じ女性同士で、何か僕ら男にはわからない何かがあるのでしょうか?


「そうなんだよ、あの笑顔がなぁ」


 いや、なんだかウォルさんもさっきからユウさんの笑顔についての話にばかりなっているようです。


 ユウスマイル、勇者笑顔、話には聞いたことがありましたが、実際に見たことがないし、勇者なのに笑顔の話ばかりなのはどうなんだろう、って正直思いますね。

 一応、魔王の探索をしながら、魔物を倒したり、ダンジョンを攻略したり、事件を解決したりはしているようなのですが。



 ジッチさんがリリーさんを呼びにきました、ベッドメークが済んだそうです。

 少し豪華なテントを張って、リリーさんはそこで就寝。ジッチさんはテントの入り口で見張りを。

 ジッチさんはいつ寝ているのか、昨日も寝ずに見張りをしていたように思います。


 トッチさんとウォルさんは交代で火の番と警戒をしてくれています。

 僕は旅慣れていないから、という理由で交代番には参加させてもらえませんでした。

 道中に支障が出ても迷惑になるので、素直に夜は睡眠をとらせてもらっています。

 自分の経験不足、力不足を痛感させられますが、帝都周辺の依頼だけでなく、遠征するような依頼も受けていかねばと改めて思います。


 明日はいよいよ、問題の廃屋へと到着するそうです。

 一体何が待ち受けているのか、少しワクワクしてしまいます。

 たとえオーガが居たとしても、これだけのメンバーなら命を落とすような事もない気がします。


 慢心ではなく、素直にメンバーの力を信じているだけです。


 それではおやすみなさい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ