絵の具
白いキャンバスの前で、リンが小瓶を見つめていた。
棚に並んだ色たちは、朝露のように光を反射して、まるで宝石みたいにきらきらと瞬く。
「ふわぁ……」
小さな息がこぼれた瞬間、
光が彼女の小さな角をすべって、赤い瞳の奥でそっと揺れた。
ひとつ、小瓶を持ち上げた手がかすかに震えた。
その拍子に、青の瓶がころりと転がる。
――青が、紙の上に広がっていく。
「あ……」
ほんの少しだけ、リンの心も青く染まる。
「大丈夫だよ」
ユウはそっと隣にしゃがみ、
残った白に黄色を一滴だけ落とした。
じわり──
青の上に、淡い陽光が差す。
「わぁ!」
リンが思わず顔を上げた。
その頬に反射した色がまた、別の色を生む。
「リンが思うままに描いていいんだよ」
ユウの声、やわらかい笑みが咲く。
赤を垂らせば、真っ赤な花が咲き、
緑を走らせれば、草原が広がる。
茶色をそっと置くと、小さな建物が浮かび上がる。
「……ユウ!」
リンが笑う。
ユウも笑って、こっそりその横に同じ色を足す。
紙の上には
──喫茶店『小道』。
次の色が落ちるたびに、
リンとユウの姿が少しずつ描かれていく。
空、森、喫茶店――
コーヒーの色が浮かび上がると、ふわりと香ばしさが心にも届いて、あたたかくなる。
どの色も、二人を照らしていた。
最後に残った色がすっと馴染んで、
紙の真ん中に、二人の笑顔が浮かび上がる。
──ようこそ、喫茶店『小道』へ。
世界には、まだ見ぬ色がたくさんある。
おすすめはコーヒー。あなたの色に、そっと添えて──




