そっくりさん
全然怖くない内容ではないのですが微妙にホラー気味です。ただ、本当に怖くないのでファンタジーの部門にしました。
あぁあ…。あいつがいなくなってどれくらいの月日がたったんだか。あいつはぁもうこの世にはいないってわかってるんだけど、やっぱ気にしちゃうよ。こんな美人に死んでも気にされるあいつは幸せもんだな。笑っちゃうよ、もう3年もたったなにまだあいつのこと気にしてるなんて。私どうかしてる。
あっ私は坂中 明美22歳。
只今、〇〇大学で勉強中…。
でぇ、あいつって言うのは山崎 享今も生きてたら25歳かな。
にくたらしいやつでさぁ。この私を1回振ったんだから。まぁ、その後、付き合ったんだけどね。全くこんなに美人なんだから最初からOK出せば良いのにさ。頭良いけどバカだよ。何であいつ死んだんだか。まぁ、トラックにひかれたんだけど、間抜けだよね。で、知りたいのはそこじゃない。あいつは生きる価値があった。でも、私何か…人間としてダメダメなんだよ。それなのにあいつは死んで、私は生きてる。おかしくなぃ?ハハハ…。
で、今…あいつとの初デートの場所に来てる。
今日もしあいつが生きてたら付き合って5年目の記念日だった。懐かしいなぁ…。今は秋。木がちょっと紅葉し始めて、寒くなって来た感じ。子どもが追いかけっこしてる。私はそんな子どもを目で追いかけながらよくあいつと座ったベンチに座った。ふと横を見ると1人の男がいた。そいつはあいつだった。そう享。少なくとも私にはそう見えた。 私は何にも言葉を発することが出来なかった。そいつはちょっと寝癖なのか少し茶色がかった髪がはねている。似ている。享は私が何度注意しても寝癖を直すのを面倒くさがっていつも直さなかった。それに茶色くて細い目、…寝癖は直さないくせに少ししゃれた服をみにけた、ひょろりとした身体。全部…。
「何ですか…?」
そいつは私を見てそう言った。やばい、ちょっと低めの声まで…!!こいつは本当に享なのだろうか…?有り得ない。享は死んだ!
「あ…すいません。昔の友人に似てたもので…」
私は軽く頭を下げた。
「あぁ…」
そいつはコンビニの袋からジャムパンを出して大きく口を開けて1口食べた。何でジャムパンなわけ!?享も…。
「あ…あの…」
困ったようにそいつは口をもぐもぐさせながら言った。
「えっ!?」
「そ…その涙…?」
私は顔に手をあてた。すると涙が流れていたのがわかった。
「す…すいません」
私は急いでハンカチを顔に当てた。恥ずかしい!享に似てるけどこいつは享じゃない!初対面の人に泣いた姿を見せるなんて!でも、もう駄目だ。こいつ、享に似すぎだ。無理!どぅしよう?止められないよ。
「あの…」
「ごめんなさい」
享!会いたいよ!何で?神様がいるとしたら恨んでやる。むごいよ、享のそっくりさんに会わせるなんて!
「いぃですよ」
私はそっと顔をあげた。そいつはそう言っておきながら困った顔をしていた。
「あの…初対面の僕がきくのも難ですが何か…あったんですか…?」
普通きくかよ!ばか!不器用な性格まで似やがって。
「あなた…死んだ恋人にあまりにも似てるんだもの!」
「あぁ…」
またそいつを私はハンカチから顔を離せて見た。するとそいつはぽかぁ〜んと口を開けていた。もぅ!全てが同じだ。こいつは享だ!
「あなた…享なの…?」
「何で僕の名前を知ってるんですか!?」
私はもぅ何も言えかった。
「僕は山崎 徹山崎は山はあのぉ木が生えてる山にぃ、長崎の崎…」
何だこいつ、みよじまで。大体山崎とか位漢字わかるっつうの!
「徹は徹するの徹です」
やっと違う所があった。私は享でなかったという喪失感と安心感がよぎった。
「前の彼氏の名前はぁ山崎 享」
この徹というやつはまた口をぽかぁ〜んと開けた。
「ただ、とおるの漢字違う。あいつの字は享受の享よ」
私はそう言い終えると最後に流れ出た涙をハンカチで拭き取った。私はふぅ〜っとため息をついた。
「あぁ…。でも、不思議ですね」
その徹と名乗る男はまたジャムパンを口に運び始めた。
「はい。文字は違いますけど、読み方は同じですし…。あっ先ほどは乱暴な言葉を…」
「あっ良いんですよ。僕そういうの気にしないんで」その男はニコリと笑った。 次の日。私は徹という男にまた会いたいと思いあの公園のベンチに行った。するとまた徹という男はジャムパンをもぐもぐと食べていた。
「今日はぁ」
私は挨拶した。
「あぁ、昨日はどうも」
私はそっとベンチに腰をかけた。
「昨日はごめんなさいね。あんなに泣いちゃって恥ずかしい…」
「あぁ、別に良いんですよ。そういえばぁ、そのぉ享さんはぁハンサムだと思います?」
「当たりまえでしょ!」
私は彼を見て言った。
「なら、そのハンサムな享さんに似てるって光栄ですね」
彼はジャムパンを食べきると袋をぎゅっと握った。
「そうですね…」
私はまた追いかけっこをしている子どもたちを眺めた。
「彼女…いるんですか?」
私はまた視線を徹に戻した。
「もちれんですとも。ハンサムな享さんに似た俺がいないとでも?」
徹という男はニヤリと笑った。いやらしい。全く享にそっくりだ。
「どんだけナルシストなんですかぁ!?きっと彼女さんも大変ですね」
私は嫌味っぽく言った。
「俺の彼女はめっちゃ美人ですよ」
「ふぅ〜ん」
「あっ今ちょっとムッとしましたね?」
あぁ、この男本当にむかつく。何で世の男どもはこうなんだか。
「してません!」
私はぴしゃりと怒鳴った。
「俺…幸せです」
「馬鹿じゃないんですか!?」
私は思いっきり睨みつけた。
「幸せボケですかね」
あぁ、腹がにえかえる思いってまさにこのことだ!
「私は不幸な女ですよ」
「リアルっす」
…確かに…。ここは認めざるを得ないだろう。
「新しい彼氏作らないんですか」
「作りたいけど享のことは忘れられなくて…結局駄目なんですよ」
「享さんは幸せですよ。でも、自分のせいで自分の彼女が幸せになってくれないって男にとって最大の不幸ですよ」
「そんなもんなんですかね…」
「そんなもんです」
徹という男はそうきっぱりと言い切った。 でも…享のことは忘れられない…。あの悪夢の7月の雨の日の夜のこと…まだはっきり覚えてる。
はぁ〜雨やまないかなぁ。何かじめじめして気持悪い。てかレポート仕上げなきゃ!やばい!この前遅刻したし。大学生の私はレポートの提出におわれていた。
「♪チャララララ♪チャラ♪チャラ♪チャラー♪」
ケータイの着信音が私の耳に入った。
「もしもし…」
「坂中 明美さんですかぁ?」
「はい…」
「こちら××病院の者ですけれども、山崎 享さんをご存知でしょうか…」
享?病院!?何が…起きたの?
「はい…知ってますけど…?」
「至急××病院までおこし下さい。徹さんは重体です」
「…」
言葉を私は失った。夢だ。そうよ夢よ。
「もしもしー!」
「あぁ…わ、わ、わ、わかりましたぁ」
そうよ。夢でも行ったって良いじゃない。
私はがくがくして言うことのきかない手で身支度をし、××病院へと向かった。 「こちらです」
病院に着くと看護師が案内をしてくれた。そこにあったのは包帯をまかれ口にチューブを埋め込まれた人間が寝ていた姿だった。
「…享は…?」
「こちらの方ですけど…?」
私はノロノロと享の寝ているベッドに歩いた。
「アハハハハッ」
私は大笑いした。
「夢よ、これは悪い夢よ」
「残念ですが、夢ではなく、現実です」
白衣を着た眼鏡をかけた医者が淡々と言った。
「あり得ない…そんなこと…」
すとっと全身から力が抜けていく。看護師がすっと椅子を持って来て、私を座らせた。
「いやよ、いやぁあああああ。こんな夢いやよぉ!早く覚めてぇ」
私の目から勢い良く涙が流れ出た。私は夢から覚めたいあまり頭を叩き始めた。急いで看護師が私の手を止めた。
「いやぁあああああぁ〜。死なないでぇ…。お願いよぉ」
享の家族がやって来た。家族も周りに集まりわんわんと泣き始めた。
「いやぁああああぁ。どぅして!ゲホッゲホッ」
私は大声を出すあまりむせてしまった。
「ピーッピーッピーッ」
何かの機械の音が鳴り看護師と医師が無理矢理私と享の家族の間に入り、心臓マッサージを始めた。
「いやだ…いやだよ享!逝かないで…」
医師が何やら医学用語をずらずらとどなりちらす…。
「早くしろー!!」
「はっはい!!!!」
医師の忠告に看護士が急いで返事をする。
「お願い…。出来ることは全てやって!!!」
もういやだ…何でぇ?享!!
「また…一緒にデートしたいよぉ…」
そして5分後…享は家族と私に見守られながら息絶えた。 「ぼーっとしてどうしたんですか」
「あぁ、ごめんなさい。享が死んだ時のことを思い出してたんです」
一瞬、徹という男は悲しそうな顔をしたがまた笑顔で、
「お気持ちはわかります。しかし、前を向いて歩いた方が特ですよ。人生って言うのは後ろばかり見て生きていくわけにはいかないんです」
と言った。
「わかってますよ。頭ではわかってるんですけど…」
「んー…」
徹という男はただ唸った。
「じゃあ、そろそろ私行きますね」
そう言って私はその場を後にした。何だかやりずらい。
私はまた徹という男に会いたいと思い次の日もまたその場所に行った。何故かあの男には何でもすらすらと話せる。
「今日は」
「あぁ、どーも」
私はまたベンチに腰をかけた。
「昨日はすいませんでした」
その男は相変わらず、ジャムパンを食べていた。
「あぁ、俺の方こそ、すいません…」
男は口を動かすのをやめた。
「彼女とはうまくいってるの?」
「あぁ…まぁ、良い感じですよ」
男はまた口を動かし始めた。やっぱ享に似てるせいかこの男といると安心してしまう。
それからも私はその男と毎日のように話した。
やがて、私にも気になる男が現れた。言うことなしの男だ。でも、罪悪感が私を襲う。享は?あいつには私しかいない!もう、あいつは女を選ぶことはできない。今更になって徹の言葉が心に響いてくる。
『前を向いて歩いた方が特ですよ。人生って言うのは後ろばかり見て生きていくわけにはいかないんです』
そう、前を向いて歩かないと…。でも…何だか恐い。どちらが正しいなんてない。どちらが悪いなんてない。ただ得をするか、しないか。この表現悪いけど、そんな感じだよね。いつか他の男で気になる人が出てくるってわかってたけど。 「俺…お前のこと…そ、そのだな…す、す、す、好きだー!!」
私が気になっていた男からの大学の屋上でのプロポーズだった。何ともセンスのないプロポーズ。でも、逆にそれが私の心を大きく揺るがした。
「あ…」
何とも意味不明の言葉を私は発した。戸惑いを隠せない。ここで『私も好きでした』って言いたい。でも、でも、享は?享はどうなるの?自然と涙がぽろぽろと出た。
「あぁ!ごっごめん」慌ててその男は謝った。
「違うの!違うのよ。嬉しいの。私もあなたのことが好き」
男は少し嬉しそうに笑った。
「でも、享のことが…」
男は一瞬悲しそうな顔をした後、優しく微笑み、
「俺、享さんにはなれない。でも、享さんがお前といれなかった分、俺がお前といる。享さんが出来なかったこと、やってやる。俺はお前を守る、幸せにする。享さんのことを忘れろなんて言わない。でも、もう縛られなくて良いんだ。お前はもう充分、頑張った。もっと楽になって良いんだ。その方が享さんも喜ぶ」
私はその言葉に安心をしたのか、その男に抱きついた。暖かい。
「ありがとう!ありがとう」
私はただそう叫んだ。
「もう1回言うよ。お前のこと好きだ…」
「うん。私も。私も好きだった」
こうして私は彼のプロポーズをOKした。何だか気持が大分楽になった気がする。そして私はまたあの公園に行き、徹に話した。
「そっか。じゃあもうあいつに任せて大丈夫だな」
徹はすっと立った。
「心配だったんだ。他に好きな男がもう出ないんじゃないかって…」
「えっ?」
「お別れだな」
何?何言ってるの?
「お別れ…?」
「俺はもう逝かなきゃ…」
徹はにこりと笑った。
「何処へ…?」
徹は空を指差した。
その瞬間強い光が周囲を囲った。私は眩しさのあまり目をつぶった。しばらくしてゆっくりと目を開けるとそこには徹の姿はなく、子ども達が遊んでる姿だけがあった。私はまたぽろぽろと泣いた。徹は享だったんだ。きっとそうだ。享の幽霊だったんだ。私は享のことをこの世に縛り付けていたのかもしれない。
「ごめんね、享。有難う、享。これからはもう大丈夫」
私は空を見上げながらそう呟いた。